二人目のブッコロー

「いヤ話が長イのよ。放送枠増やしマシたー、大変でしター、新シいブッコロー用意しマしたー。三行デ終わル話をなーにグダグダとやってンの」

「わ……本当にブッコローみたい……」

 文房具王になり損ねた女・岡崎弘子は、たった今紹介を受けた機械の球体を、まじまじと眺めた。

 そうして、Pの説明を、じっくり時間をかけて呑みこんでいく。

「これが、AIなんですか?」

「そうです。ブッコローの会話術や癖、趣味、身につけている基礎教養等を学習させた、ブッコローAIです」

 ポン、と置かれたPの手に、球体は身をよじるように反応する。

「ちょっト、やメテよ」

「すごい……」

「ザキさん、AIなんて言って分かるんですか」

 横で見ていたブッコローが茶々を入れる。球体も一緒になって、あんまワカってなサそー、とコロコロ体を揺らす。

「揃うと二倍失礼ですね……」

 岡崎はそう言って、ブッコローと球体とを順番に睨み、小さく笑った。


 

 ブッコローの休養開けに、Pが連れてきたのがこの球体AIだった。

 開口一番、頭を下げてPは言った。

「やっぱり、今の体制でブッコロー一人にMCをやらせるのは厳しかったってことだと思うんだ。ごめん、俺の責任だ」

「いや、こっちこそ……」

「で。打開策を用意してきた」

 謝り合いを切り上げるように、Pは球体を机に置いた。

「……これがその策?」

「そう。簡単に言うと、MCを増やそうと思う。それで、曜日を割り振ってこの日はブッコロー、この日はコイツ、みたいにすれば負担は半分になるじゃん?」

「まあ、うん」

「でも、俺はゆうせかのMCはブッコローにしか務まらないと思ってる」

 言いながら、Pは指でスイッチを弾いた。

 球体の中から、キューン、と起動音が響いた。

「だから、ブッコローを増やすことにした。コイツは学習機能抜群の自立型AI。大体の初期設定は済ませてある」

 その言葉に呼応するように、球体のまぶたに当たるパーツが目覚めのように開いた。

「初めまシて。私はブッコロー代理用AI。名前ハ、未設定でス」

 ブッコローは息を呑んだ。球体から出る声が、自分のそれとほとんど変わらなかったからだった。

「ブッコローさん。私ニ、アナタを教えてクださイ」



 それから半月、AIの学習期間が設けられた。

 一般常識や笑いの基礎、基本的なMC術を教え込む一方で、こう言われたらどう感じる、これとこれならどちらがどれくらい好きか、有隣堂職員それぞれに対する認識等、ブッコローに質問する形でのプロファイリング学習も行われた。

 AIは驚くべき速度でブッコローを吸収していき、口調や挙動はみるみるブッコローに近づいていった。

 そしてほぼ仕上がったと確信したPは、最終テストとして大平回のMCをAIに務めさせた。

 結果、AIは見事に大平を捌ききった。それは、およそブッコローにしかできないと思われていた偉業だった。

「ブッコロー、クビになっちゃうんじゃないですか?」

 軽口を叩きながら、ぬいぐるみを被りいよいよブッコローと見分けがつかなくなったAIを、岡崎は何の気なしに持ち上げる。

「わ、軽い」

「ちょ、コワイコワイ!」

「ザキさん! それ文房具じゃないから! そんな雑に扱っていいものじゃないのよ!」

 カメラは回していないけれど、こんな日常的なやりとりの中でもAIの学習機能は働いている。こうした積み重ねで、AIはますますブッコローに近づいていく。

 Pは目論見の成功を確信し、パソコンの影、手だけで小さくガッツポーズをするのだった。

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