ミミズク、二羽並びて。

玉手箱つづら

あるミミズクの傍白

 男は、すこし離れたところでそれを見ていた。

「ブッコローと!」

「雅代お姐ノ!」

「「ワクワク! 自由研究2030~!」」

 頼れる姐御主任・大平と、ミミズクが一羽──腕(羽)をふるって小躍りし、ワクワクを体現してみせる。満足そうに頷く大平に、ミミズクは、まダこれやるのぉ……、とこぼす。

 男は、音声に乗らないように、クスリと笑った。

 十年前から変わらない紺色のエプロンに身を包んだ大平は、愉快な挨拶のあとも、言に体に、とんで跳ねての活躍をやめない。おもむろに浪曲を口ずさみ、立ち上がっては画角ギリギリを越えて動き回り、と思えば、ふと目が覚めたように、ちょっと休憩にしましょうか、と言って大人しくなる。

 いや、静かになるのすらダイナミックなのよ。

 男は心のなかで呟く。そうして、ふぅ、とすこし目を伏せたところに、思わぬ言葉が飛びこんでくる。

「いヤ、静かになるのすラちょっとうるさいノよ」

 ミミズクだった。

 含み笑いをしながら、丸い体を大平に向けて、コロコロと揺れている。大平も、楽しそうに笑って、両の人差し指でミミズクを指す。

「……」

 男が息を呑んだ気配に、Pが振り返り、ずっとモニターに集中させていた顔を、にっ、と崩す。

「今の?」

「……うん」

 そっか、と言って、プロデューサーはまた画面に目を戻す。モニターのなかで、大平とミミズクは最新の自由研究グッズの紹介を始めている。

 男は、自分でも気付かないうちに腕を組んでいた。

 まさか、ここまでとは……。

「いや、信じてないわけじゃなかったけどさ……」

 誰にともなく言って、男──雄ミミズクはひとり笑う。

「未来だなあ……」

 見上げる瞳には、十年前から変わらない、有隣堂の天井が映った。感じ入るように、かすかなためいきをつく。

 撮影現場の外れ、静かにたたずむ一羽のミミズク。

 その雄ミミズクこそ我らがMC──R.B.ブッコロー、その人(鳥)なのだった。

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