最終話・夜明けと雨

 雨の日に具合が悪くなるのは、あの日を思い出すからだと思う。気象病というのがあるとしても……。


 退院後、私は地元に戻った。

 不仲だった父親は、私の病状やそれまでの経緯を鈴木さんから聞いたと言った。でも、優しい言葉をかけられたことはない。

 父親は、いつの間にか再婚していてた。新しい家族と暮らす一軒家があり、私はそこで暮らすことになり、通院しながら働いている。


 時計を見ると、そろそろ夜が明ける頃だった。

 カーテンを開けて外をみると、雨足は弱まり、遠くの空は少し明るく見えた。

 壊れた雨樋から溢れた雨水が、大きな水たまりを作っているのがみえる。かつての私と谷くんの気持ちは行き場を失ってしまったけど、雨樋から溢れたあの雨水は溢れた先に落ち着いた。

 落ち着く先が決まっていたのなら、今の状態が正解なんだと思う。

 壊れる前に気付いたらよかったのかもしれないけど、心の予測は誰にもできないのだから。


 朝がきた。

 薄暗い雲が太陽を遮るけど、雨はやんだらしい。

 いつかまた、誰かを好きになったとして、私は壊れるほどにその人を好きになれるか自信はない。でも、壊れないように想うことはできるんじゃないかと、今ならそう思える。




〈了〉

 

 

 

 

 

 

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朝が来るまでに雨はやむかもしれない 香坂 壱霧 @kohsaka_ichimu

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