第2話 狩る側だと思ってたら狩られる側だった

 自宅に戻ってからというもの、ずっとソワソワしている。


 まずは花粉症の薬を飲んで、軽くサラダを食べた。じっとしていられなくて、さっき受け取ったメモを手に取る。メモに書かれているのは電話番号とチャットアプリのID。それだけ。


「名前を聞いてないんだよなぁ・・・。」


 19時。今、ちょうど19時。いつ電話したら良いんだろ?家に着く頃?ってことは19時半?20時?


 正直、こんなに雑なやりとりしたことがない。まぁ仕方ないか、仕事中のやりとりだもんな。しかし、電話して一体なにを話せば良いんだろう?


「可愛いよねとか言って、遊びに誘ってみるとか?」


 いや、なんか想像しない返事が返ってきそうな気がする。はっきり言ってあの余裕そうな態度に勝てる気がしない。


「なんなの?どういうこと?は!!慣れてるのか!?あの可愛さ、間違いない。言い寄ってくる男も女ももう飽き飽きなのかも。」


 今日は鼻水と涙で頭がうまく回らない。いつもより考えがまとまらない気がする・・・って、時計を見てびっくり。19時45分。


 連絡、しないとな。よし、かっこよく、落ち着いて。。


 軽く咳払いをしてついに電話をかける。


 2コール、「はい、もしもし?」


 でるの早っ!


「あ、あの、今日クリニックでメモを、」


 遮るように彼女が話す。


「おっそーい、待ってたよ?」


「え、」


「ねぇねぇ、今どこにいるの?」


「は?家にいますけど、なんで?」




「うふふ、近くまで来ちゃった♡」



 ん?


 近く??


「は、はぁ?!」


「ゆっくり話したいからおうちにおじゃましていーい?」


え?なんで?どういうこと?


「問診票だよ。住所、見て近くまで来ちゃった。」


「な、な、なんで!」


「とりあえず、コンビニいるから迎えに来てね!早くね?」


「#$%&#$%&!!!?」


 あ、電話切れた。


 やばい、やばすぎる。想像を遥かに超えてくる。


「これは・・・、間違えたか??」


 とりあえず、コンビニまで行って断ろう。そう考えて、ため息をつきながら靴を履き、徒歩3分かからないコンビニへと向かうのだった。




 コンビニに着くと、玄関先には彼女はいない。中にいるのかな?と若干怯えながら店内に入ってみると、、いた。お酒のコーナーにいる。



「あの、、来ましたけど。」


「あ、お疲れ様です♡」


「あの、おかしくないですか?問診票見たって家まで来ちゃうってプライバシーとか・・・」


「えー、そんなこと言っちゃうんだ?」


「カフェから私たちのことつけてきてたのはだあれ?♡」


「!!!?? そ、そんなことっ・・・」


「わかるよぉ、だって、お会計してからも席に座っててさ、こっち見てて、私たちがでるときに貴方も席立ったでしょう?それで受診しに来てるんだからわかるよぉ。笑」


「ていうか、いいのいいの。私的にはラッキーだし。ね、お酒飲める?宅飲みしよーよ♪」



 絶句して押し切られるまま、私は彼女を家に招き入れてしまったのである。





 彼女が部屋にいる。どんなパラレルワールドに入ったのかわからないけど、彼女が部屋にいる。どうぞと促すまでもなく、一番座り心地の良いテーブルのそばに置かれたクッションに彼女は座った。


「あ、薬飲んだんだねー。お酒はやめとこうか?んー、一本くらいならいいかな?」


 なんて良いながら、ガサゴソとコンビニの袋から数本の缶とつまみを出す。


「あ、私名前言ってなかったね。みちるっていうの。ひらがなでみちる。よろしくね、たえちゃん♪」


「は、はぁ。。」


「なによもー、そっけないなぁ。ね、私のこと気になってたんじゃないの?なんで嫌がってるの?」


 なんで嫌がってるかって?


 予期せず貴方のほうがぐいぐい来てるからです。っていうか、年下のくせに態度が・・・あ。


妙「ところで、学生さんじゃないんだよね。一体いくつなの?」


みちる「んー?」


 半分話を聞いてないかのように買ってきたつまみを物色してふんふんと飲み始める準備をしているみちる。って、お酒のつまみってポッキーかよ!めっちゃ嬉しそうに見つめて可愛いかよ!顔がっ!良すぎるっ!


みちる「学生って、もしかして年下だと思ったー?」


みちる「28だよ。見えないでしょー♡」


妙「う、うそっ!」


みちる「ほんとー。なに?年上は嫌い?」


妙「いや、見えなかったから、、驚いて。」


 でも、やっとわかった。この余裕過ぎる態度。明らかに私のほうが年下だからなんだ。もう、いいか。


妙「6つもお姉さんだったわけですね。だからそんなに慣れた感じなんだ。」


みちる「慣れてるってなにが?こういうの?慣れてないよ?」


妙「だって、今日会ったばかりでこんな、家に来るとかしないでしょ、慣れてなかったら。」


みちる「んーん。そういうんじゃなくてさ、」



「めちゃくちゃ可愛い子が私のことずっと見つめてたから、逃すまいってなっただけー。」


 ニコッと微笑むみちる。あああああ、あんたのほうがかわいいっつーの!


 赤面しつつ、満ちるに渡されるまま缶チューハイを手に取り、こつんとみちるの缶にあてて乾杯すると、とりあえずちびちびと飲み始めた。



みちる「ああ・・・すっごいかわいい。ね、女の子と付き合ったことあるでしょ?」


 まじまじと顔を見つめてくるみちるの顔が、あまりにもタイプ過ぎて私は目をそらしてしまった。


妙「ありますけど。。」


みちる「だよねー、学校で後輩に王子様とか呼ばれてそうなタイプ♡」


妙「・・・」 え、そんなに私テンプレ的にそんな感じなの?


みちる「ねぇ、付きあおう?」


妙「は?な、なに言ってんですか!?さすがに早すぎじゃ・・・」


みちる「早いもなにもないよ。女同士で両思いなんて、待ってたらやってこないんだよ?こんな出会い、そうそうないんだってば。」


 みちるが顔をのぞき込んで、上目遣いでさらにたたみかけてくる。


みちる「私たち、絶対相性良いと思う。ね、今日から恋人。良いでしょ?」


くっ!!心臓が痛い。圧倒的に顔が良いっ!!!


みちる「やなの?」


妙「・・・嫌じゃないです。。」


みちる「やった、じゃあ決まりね!」


妙「ちょっ、ちょっと待ってください、待ってください!」


みちる「んー、なあに?たえちゃん。」


 ゆっくりと体ごとこちらに近づいてくるみちる。なにをする気なんだろうか?って、可愛いからやめて!近いのやめて!


妙「わー、待って待って!あの、本当に!あの、、」


「年上と付き合ったことなくて、どういう態度でいれば良いか、わかんなすぎるんです!」



みちる「・・・・やだ、、」


 目をパチッと大きく開けて、驚いた顔をしたみちる。


みちる「まーじだー!可愛すぎるー!!」


「全然良いよ!好きなようにしてて。あーもうめっちゃ甘やかしたいっ!」


妙「そそそ、それがわかんないって言ってるの!甘やかされるのとか、慣れてないっ!」


みちる「そーかそーか。王子様だったんだもんね?」


「でも、絶対、妙ちゃんって甘えたさんだと思うな♡」


 嬉しそうに、それは嬉しそうにみちるはそう言うと、ちょっとごめんねと言いながら、私の目の前にずいっと近寄って、私の頭を両手で掴むと、自分の胸に引き寄せた。顔がほどよいサイズの胸に埋められぎゅっと抱きしめられた。


妙「んー!んー!」


みちる「ほら、どう?抱きしめられるのって気持ちよくない?」


 しばらくして抱きしめられる力が弱まって、ゆっくりと頭を上げることができた。



妙「くっ、かなり、気持ちよかったです!」



恥ずかしさのあまり、床に体を投げ出してしばらく撃沈した。



みちる「あははは。今日はお酒がうまい。」





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