第15話 波乱の予感

「おい、聞いたか?」「悪魔が現れた話だろ?」「ああ。30年振りの出現だそうだ。」「ということは、魔族も…。」「恐ろしいな。」


 悪魔を倒した翌日、王都では悪魔の話題が絶えなかった。ギルド会長やギルドマスターからの情報規制はなく、おそらくは情報共有に方針転換したようだ。悪魔が討伐され、事態が収束したため、その背後にはこのことが関与しているのだろう。


(冒険者ギルド)


「おい、これ見ろよ!昇格者のリストのとこ。」「あん?ランク外がDランクだと!?」「どんな冗談だ。」「何か不正が働いているんじゃ…。」「あんな奴が俺と同じランクかよ。」「納得いかねぇよな。」「最弱職めが!」


 悪魔騒動によって、ついに俺はEランクからDランクへと昇格が許された。リッテルバウム侯爵自らが、依頼における功績を高く評価してくださり、その結果、ランクアップが決定したのだ。


 そして今日は、昇格後初めての依頼を受ける日である。Dランクの依頼の中は、魔物の討伐を求めるものもあると聞き、なんだか緊張が募る。新たな仕事に対する自信がまだない中、ギルドの入口をくぐり抜けた。


 (ん?少しここの空気が重いような…。ってなんか、メチャメチャ見られてる気がする。)


 俺は、ギルドの内部に漂う異様な雰囲気を感じつつも、日常通り掲示板の所に向かい、依頼を確認することにした。


「よう!最弱職のあんちゃん。見ている掲示板が違うぞ!お前さんは、一番左側のGランクの掲示板だろ?」


「いえ。俺は、昨日Dランクに上がったんですよ。」


「あん?そりゃおかしいな。なあ、みんな?」「ああ。最弱職がDランクになんかなれる訳がねぇ。」「弱くて雑魚な癖によ。」「Dは、ギルドが実力があるって判断しなけりゃ無理なんだぜ!こりゃ、不正なんじゃないか?」「おお。絶対おかしいよな!」


 彼らは、以前街中で絡んできた、不良冒険者のボギー、ルッツ、キーファ、サンだ。自分達と同じDランクに昇格したのが気に入らないのだろう。


「そんな…俺は、ちゃんと…」


「こらー!あんた達何騒いでいるの?」


「おう。ギルマス!いいとこに来たぜ!この最弱職が、不正でDになってるからよ、おかしいって話をしていたんだよ。」


「不正などしていないわよ。ヒビキ君は、冒険者ギルド会長から、その実力を評価され、推薦されたから昇格が認められたのよ。」


「ギルマスの言葉でも、今回は信用できないな。この最弱ヤローが、俺達と同等の実力がある訳がない。」


「それなら、模擬試合でもしてみたら?実際に戦えば、あなた達も納得するでしょう?」


「ああ、いいぜ!望む所だ!だが、俺が勝ったらコイツは、実力通りGランクに落としてくれや!」「お、そうだそうだ!」「やってやるぜ!」


「わかったわ。でも、あなた達全員にヒビキ君と対戦して貰うわ。そして、あなた達が彼に負ければ、あなた達がGランク降格よ。」


「いいぜ!万に一つも無いと思うがなぁ。」「俺達も殺っていいのか?やりぃ。」「ヒュー!潰してやんよ。」「こないだの続きかぁ。いいねぇ。」


「ルナさん…。」


「大丈夫よ、あなたの実力みせてやりなさい。」


「はぁ…。」


 俺は、Dランク初日からギルド訓練場で戦う羽目になったのだった…。


――――

 

(ギルド訓練場)


「あら?侯爵様!」


「ルナ君。ヒビキ君が戦うって聞いてね、つい来てしまったよ。」「ルナさん、こんにちは!」


「あら?ララーヌ様まで。ヒビキ君は、余程気に入られたのね。」


――


 俺は、ギルドの訓練場に身を置いていた。成り行きで、4人の不良冒険者たちと模擬試合を行うことになってしまった。最初は勝ち抜き戦という提案だったが、ルナさんが4対1でもかまわないと強引に決めてしまった。


 試合前、1階で準備をする俺たちの元には、2階席からの観衆の騒がしげな声が聞こえてくる。そこには、ルナさんをはじめ、他の冒険者たちも含まれていた。会場には100人以上の人々が詰めかけ、賑やかなお祭り騒ぎの様相を呈していた。2階席にいる観衆たちは、俺たちの試合を楽しみにしているようだった。


「ヒビキ様~!頑張って~!」


「あっ、ララーヌ様!それに侯爵様も。」


(一体どうしてお二人まで…。これは、推薦してくれた侯爵様の為にも負けられないぞ。)


 俺は、ララーヌ様の応援に応えて手を上げた。


「おい!最弱職ヤロー!いつの間にあんな美女と!恥じ掻かせてやるぜ!」「ホー!滾ってキター!」「ボコボコにしてやろうぜ。」 


(うわ~。怖そう。俺、こんな人達と戦うの…。)


 しばらくして、1階の訓練場内にギルドマスターのルナさんが姿を現した。


「あなた達、良く来たわね。では、早速ルールを説明するわ。」「基本的に何をしても構わない。武器の使用は許可するけど、そこに置いてある訓練用の木製武器のみよ。勝敗の判定は、降参するか、戦闘不能の場合。それから審判が試合をストップした場合の3種類よ。」「ただし、殺しは厳禁。犯罪だからね。以上。」 

 

「これは、貰ったな。」「4対1じゃあ、楽勝でしょ?」「あの最弱ヤローは、皆の前で大恥かかせてやろうぜ!」「いいね、面白くなってきたぜ!」


(俺は、全く面白くない…。)


 次に審判の男が登場する。狼人族の戦士の様な男が現れた。


「私が今回審判を行う、Bランク冒険者のルネッサルだ。闘技大会の審判資格もある。宜しくな。」「それでは、武器はいつでも交換可能だ。準備したらこちらに集まってくれ。」


 訓練用の武器は、会場の至る所に保管されており、自由に使っていいそうだ。ナイフ、剣、大剣、槍、斧、弓矢、木槌、盾など、全て木製で作られた物が置かれている。手に取ってみたが、どれも木とは思えない程に精巧で、丈夫であった。


 俺は、今まであまり扱ったことのない剣と盾を装備し、対戦場所に移動する。そこには中央に審判のルネッサルさんがおり、双方がそれぞれ30メートル離れた場所に向き合って立った。


「ボギー!ルッツ!やっちまえ!」「面白い戦い見せろよ!」「ランク外!男を見せろや。アハハ。」「俺は、ボギー達に銀貨1枚な!」


 会場は明らかに、熱狂の渦に巻き込まれつつあった。多種多様な騒音が空間を飛び交い、その音色はまさに現場の躍動を物語っていた。しかしながら、俺には積み上げてきたものを発揮する術は乏しい。いつも通りやるだけである。


「それでは、試合開始!」


「いくぞ!」「おー!」「うるぁ~!」「殺るぞ!」


「北条 響が命ずる!…」


―――― to be continued ――――

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