第4話 トラップを真っ向からぶっ潰して参ります
――――何よ何よっ!! 予想と全然違うじゃないっ!!
ステージ上に立つバニーガール姿の女性。田中圭子(29)はそう内心取り乱し叫んでいた。
彼女は今、勤めている組織にてデスゲームの司会進行役を務めている……。文面にすればツッコミどころ満載だが、彼女が所属する組織自体がまともではないので、とやかく言うのは野暮だ。
ともかく、彼女のミッションはこのデスゲームを成功させ、オーディエンスを盛り上げること。
そのためにそこら辺を運良くほっつき歩いてた馬鹿な男を1人捕え、尚且つ余興で消えても問題のない無能な下っ端を上手く騙して参加者として加えた。
男の方は我が組織とは敵対関係にあるらしいし、下っ端の女の方は見てくれ
……まぁともかく、今回のゲームの評価も上々。自身の評価も鰻登り、となるはずだった。しかし。
「いやぁもう1人戦える人がいるとめっちゃ楽ね。ってか君予想以上に動けるね。すごいや」
「殆どあんたの手柄なクセに何言ってんのよ。ま、伊達に前線張ってきてないし、これくらいはね。武器持ってるからって舐め腐ってかかって来てくれるんだから、そんな野郎の1人や2人くらい楽勝よ」
ゲームの道中に自身が配置し武装させた男達は、情けなく2人の周りで白目を剥いて横たわっている。男は涼しい顔で背伸びをしているし、女は手に持っている特殊警棒型のスタンガンを弄んでいる。
……なんなのっ!? あんなに男の方が強いなんて聞いてないしっ! 武装した男7人相手にして無傷って……人間? それにあの女下っ端のはず。あんなに強いなんてそんなはずは――――!
などと彼女は心の中で宣っている。しかしながらそうなった原因は全て自身のリサーチ不足と人材を見る目のなさ故であることは言うまでもないだろう。
だが、そんな都合の悪いところは彼女には見えていないのである。哀れな人類は得てして見たいものしか見ないものである。その好例だ。
そんな自分を棚に上げ、彼女はこう思惑する。
――――でも、これから先にある『罠』は絶対に越えられない。もし越えられたとしても、最後にある
そうよ。きっとそうだわ、と、取り乱した心を鎮めるように彼女はそう呟き、暴力的な笑みを浮かべる。
しかしながら、見る人が見たらこう言うだろう。
それ盛大なフラグですよ。と。
◆◇◆
「ストップ悟くん。止まりな」
コースも後半に差し掛かろうかというところで、ぐいっと後ろから首元部分を来夏さんに掴まれる。
勢い余って服が引っ張られ、首を締められる感覚が襲う。
「ぐぇ。何すんの」
「失礼ね。ここで不用心に進んだら君、タダじゃ済まなかったんですけど?」
「この先にトラップみたいなのがあるんだろ? 分かってるよ。ここまで来る最中だって、中々に性格悪いやつ沢山あったし」
彼女は元々このゲームの主催者側だから、この後待ち構えてるモノをある程度予測できるのだろう。
けど、流石に俺だって予想できてないわけじゃないぞ。考えなしに突っ込んで行ってるみたいに言われるのはなんか心外だ。
「ま、そうなんだけどさ。一旦黙って見てなって」
そう言うと彼女は懐からジッポライターを取り出して火をつける。そして、そのまま前へと放り投げた。
すると一瞬、壁の一部分が光ったと思えば、その光にジッポが射抜かれる。オイルに引火したのか、ボンッ、という音が響く。光はその後、壁にぶち当たり乱反射を繰り返した後、地面へと衝突した。
「なーるほど?」
「この壁、温度の微妙な変化を感知するセンサーが中にあんのよ。それで僅かにでも異常を検知したら……こんな感じになるってわけ」
そして残されたのは、真っ黒焦げになり、炎をゆらめかせるジッポの残骸。
「へぇ。よく分かったね。まぁしっかり見れば小さい穴が見えるし、わかることにはわかるけど」
「ま、元々こーいう細かい変化を見抜くのは得意なのよ。自分で言うのもなんだけどね」
彼女はそう言うと、少しニヒルに微笑む。
まぁ、こう言う殺意高めの初見殺しトラップがあるって事は予測できたし、
「いやぁ助かったよ。ありがとう」
「よく言うよ。あんたの事だしどうせ分かってたんでしょ?」
「うん。でも、トラップがどんなものかまでは分かってなかったよ。おかげで相当やりやすくなった」
「……あーそ」
彼女はそう言うと少し照れたようにそっぽを向く。可愛いな。
あまり自分に自信を持ってないように見えるけど、俺からしたら大分優秀な人材に映る。ほんといい出会いしましたよ。
でも、彼女はすぐに気を取り直して、でもさ、と前置いて俺に向き直る。
「このトラップどーやって抜けるつもり? 仕掛けがわかったからって簡単には攻略できないでしょ。こいつ、何m続いてるかわかる?」
「ざっと20mくらいかな? 確かに正攻法じゃ無理だ。でも考えがないわけじゃないよ。ねぇ、ちょっと
「? いいけど」
「ありがと。あ、離れててね。危ないから」
彼女は手に持っていたスタンガンを俺に手渡す。俺の言葉の意図がいまいち読み取れないと言った顔だ。
そんな彼女を尻目に俺は、レーザーが照射された壁まで歩く。変に感知されないように、慎重にそばまで寄る。
『おやおやぁ?? 何をする気なんでしょうねぇ。まさか打つ手なしと思って死にに向かいましたか。まぁそれでもいいですよー? 言っておくとそれ、楽に死ねないようにできてるので……。あはははっ!!』
あぁ、そういえばいたなあの人。すっかり忘れてた。
随分と自信があるようで何より。なんか少し元気取り戻してません? さっきまであんなに発狂してたのにね。まぁ言わないでおいてあげようか。
さーて、一丁ビビらせてやりますかねぇ。
そう思って俺は、思い切りスタンガンを振りかぶる。
「ちょ、あんたまさか……!?」
漸く俺のしたい事が飲み込めたのか、彼女は驚いたように声を上げる。いやわかっただけすごいよ君。上の人理解しきれてないし。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
「はい、せーのー」
気の抜けた声で、俺は思い切り壁をスタンガンでぶん殴った。
重たい音を立てて壁は壊れ、レーザーの照射口が顕になる。そして俺は、
思い切り、そこに電流を流し込んだ。
大の男が白目剥いて倒れる程の電流電圧だ。静電気とは訳が違う。そんなモンを喰らった機械は盛大にショートし、そして、
ばりばりぼふーーーん。そんなコミカルな音を立てて向こう20m先まで軽く火が噴き上がる。
『……っはぁぁああ!!?? 今、何が起こ……は!?』
「うわエグぅ。確かに機械なら温度センサーの穴は潜れるけど、壁ぶち破るってなんて脳筋……」
うわぁ面白いくらい上手くいった。ショートした時に散った火花が別のところをショートさせて……ってしたらこんな感じになった訳だけど。
「ははっ。あー面白。一応反対側もやっとくか」
そう言って俺は反対側も同じようにぶち壊す。そして聞こえるばっちーーーんという音。いやぁいい音。
ま、これでもう大丈夫だろ。
「はい。貸してくれてありがと。もう大丈夫なはずだよ。にしてもいいスタンガン持ってるね。耐久度抜群だ」
「あーあ、こんなあっさりと。なんかアホらし……。ふふっ、本当になんとかなりそうな気がしてきたわ」
「あれ、今更? もうそのつもりでいてくれてるもんだと」
「改めてそう思っただけだっつの。ったく」
そう言って、俺と彼女は歩き始める。
上からはギャラリーのブーイングと、司会者の喚き散らす声。うるさいのは確かなんだけど、さ。
でも、そんなの気にならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます