第3話 ゲーム説明……という名のコント

『さーてさてぇ!! ゲームも中盤、ここで皆さんお待ちかね、エキシビジョンのお時間がやってまいりましたーーっ!!』


 さて、暫くそのまま待ってたらあの部屋そのものがエレベーターになってたらしく、そのまま自然と上へと運ばれ。

 そして聞こえてきたのは女性の声。おそらく彼女の代役だろう。その声の後、男女問わず黄色い声がわっ、と空気を揺らした。


 あぁ、なんだろうこの感じ。相変わらず――――、


「あーヤダ。やっぱ嫌いだわこれ。有象無象どもが危険の及ばない安全圏から笑ってるこの感じ、気色悪いったらない」


 嫌いだ。そう思ったその時、彼女の声が聞こえる。

 彼女は顔を顰めて露骨に嫌そうな表情をし、咥えてたタバコを強く噛む。相当不快みたいだ。

 

「ま、それに関しては同感。ってか主催者側だった君が言えたことか?」

「わーってるわよそんなの。とは言ってもあたし、この組織のデスゲームに関わるのこれが初めて……のはずだったんだよね」

「んぁ、マジ? じゃあ今まで何を?」

「んー……。開けちゃいけない箱の運び屋とか、抗争の切り込み隊とか?」

「うぉそれ1番危険な類のものじゃ……。正に『散々使われて捨てられる』って感じだな」


 ……なんか可哀想になってきたな。この様子だと散々危険な役回りを率先してやらされてたみたいだ。でも言い換えれば、それは数々の修羅場を潜ってなお生き残っているということ。


 丁度よかった。俺としてもそんな人材、組織に欲しかった所だし。彼女を連れ込む理由がまた一つできたというか。


「そーね。だからこそ、望みがあるならなんとしても喰らい付いて、あのクソどもを叩き潰してやりたいのよ……。っと、そろそろ始まるみたいよ?」


 そう言う彼女――――、来夏さんは冷静を装いつつも、目は滾っているようで、少し安心する。

 こういう人が燃えると、一筋縄じゃ行かない、予想もつかない結果を出してくれることを、俺はよく知ってる。


 まぁ、それはこれから見せてくれるだろうな。

 そう思って俺は前に向き直る。


「さぁ!! 今回愚かにも我々に捕えられた、危機意識の欠片もないお猿さんにご登場いただきましょうっ!! ゲート、オーーープンっ!!」


 そんな声が聞こえると天井が二つに割れ、急に光が辺りを照らす。うぉ眩しッ。

 目が慣れてきてあたりを見回すと、縦に長い部屋みたいだ。様々な遮蔽物に遠くにチラッとゴールらしきもの。で、天井付近には観客の姿。


 成程。横スクロールアクションゲームを模したものみたいだ。俺たちはあくまで、あのゴールらしきところに向かえばいいと。


「あー……。あたしは無視ですか。ま、わかってたけど。あんたらしいよね、あたしなんて眼中にないってか」


 んで、横にいる来夏さんは不満げにそう言いつつ、きっ、と俺たちの横のステージ上にいる司会役の女性を睨みつける……。なんか色々ありそうだな。あの司会者と来夏さん。


「あぁ! そういえば! 今日はゲストでもう1人いるんでしたっ。あまりに地味すぎて忘れちゃってましたよー」


 その女性はわざとらしくそう言うと、ぽんっ、と手を叩く。そして、話を続ける。


「えー、1人だけじゃすぐ終わっちゃうしつまんないだろってことでぇ、なんとっ! 私の組織からも下っ端が参加してくれることになりましたぁっ! はい拍手ぅー!」


 そう言うと拍手が一段と大きくなった気がする。

 まぁ、そうだろうな。来夏さん普通に可愛いし、綺麗だ。むさい男1人だけじゃアレだからスパイス……とか考えてんだろう。


 うん、なんかムカつくな。

 だから、ちょっと来夏さんに耳打ちをする。


「ねぇ君、話合わせるの得意?」

「は? 何いきなり」

「いやなんかムカつくからさぁ。挨拶代わりにちょっと煽ってやらね? って。ほら君も日頃の鬱憤を晴らせると思って」

「……あぁなるほど? いいね。んじゃまずはあんたから適当に頼むよ。合わせるから。あたしもいい加減このノリにイライラしてたとこだからさぁ」


 そう言うと彼女は悪どい顔でニヤリと笑う。

 この状況でこれだけ言われて、そんな顔できるんか。さっきとはえらい違いじゃんか。


 どこか、確信してきてるな。このデスゲームを確実に潰せるって言う確信を得てきてる。


「おやおや、作戦会議ですかぁ? いいですよもっとやってくれても。無駄な努力を見てるようでゾクゾクしますっ……。あはははっ!」

「お、言ってくれんねおばさん。見た目……アラサー? おめかししてキャラ頑張って作ってるようだけどさ。ねぇ来夏さん。あの人幾つか知ってる?」

「あ? 確か33とかじゃなかったっけ。正直上からそうしろって言われてるにしたって流石にその歳でそれはよねぇ。独り身だし」

「なるほど察した。おーい! いい人見つかると思いますよー……多分。てか上からの指示って、いー感じにあの人もくたびれてんだろうなぁ」


 俺が切り出すと、来夏さんはここぞとばかりに合わせてくる。いやめっちゃイキイキしてますね。

 で、ステージ上のおばさんは……、あーあー怒ってる怒ってる。額に青筋浮かべてますがな。煽り耐性低くて結構だ。面白い。


「こんのクソガキ共あたしはまだ29…….ん、んゔっ! と、とにかくっ!! 続きましてルールの説明に参りましょう! 貴方たちには今からこのコースの様々な障害を潜り抜けてもらい――――」


 あ、今本性表しかけたな。

 でも、それをすぐに奥にしまい込む。そして気を取り直して、というように声高らかに話の筋を強引に元に戻そうと試みる。


 けど、

 

「わぁすっげ。この土どんだけ盛ってんだろ。ちょっと掘ったくらいじゃ底見えねぇや。草まで生やしてなんかこーいうとこだけ無駄に金使ってるね」

「……ふぅっ」


 俺は興味なさげに(まぁマジで興味ないけど)別のことに関心を向け、彼女はだるそうにタバコを吸い始めるもんだから、

 

『ゴールを、めざ、して……』


 声が小さくなり、収めたはずの怒りがまた現れてくる。


「つーかあんたどんだけ吸うのよこの短時間で。3本目じゃないそれ?」

「うっさいな。こんだけ吸うのは稀よ。暇だし上でなんかキーキー言ってるし……ったく」

「あ、吸い殻入れ持ってるんだ。えらい」

「当たり前じゃない。エチケットよエチケット。二十歳になったら気をつけなよ悟くん?」

「いや、私吸う予定ないので平気っす」


 そんで俺たちは関係ない話始めるもんだから、流石に痺れを切らしたのか、


『聞けやアホ共ぉぉぉおっ!!』


 怒鳴った。でも怖くない。だから、


『あら怖い』


 そう敢えて返してやる……けど、彼女と一言一句シンクロした。


「……ぶふっ」

「……あはっ」

『何笑ってんだてめえらおちょくんのも大概にしやがれ今すぐこの場で○してやってもいいんだぞこの(以下自主規制)−−−−!!」


 うわすっげキレとりますがな。それがお前の本性か。クッソ面白。

 まぁそんなことはさて置いといて、初めて会った人とここまで呼吸が合うなんて初めてだ。だから思わず笑ってしまった。


「こいつは後々、いいバディになるかもな」


 なんて、ぼそっと呟いた。


「はぁ、はっ……! さて、ゲーム説明はあの馬鹿共がいらないって言うので省略しちゃいますね? さてテメェら。何か言い残すことは?」

「なし。見た感じ簡単そうだし。ねぇ来夏さん、あの方普段からあんな感じ?」

「同左よ。まぁねー。あんたの代わりはいくらでもいるのよ、なんて言って個人の適正フル無視シカトの配置してくるから末端はもう大変よ?」

「うわそれなんてパワハラ」

「えぇ全くね」


 そう言うと彼女は笑顔で上を見上げる。そりゃまぁ随分と清々しそうな笑顔で。言いたいこと言ってやってしてやったり……って顔だ。


「っ……! まあ、活きがよくてなによりですねぇ。そういった生意気な奴らがこの後どんな表情をしてくれるのかとても楽しみっ!! さぁさ、とっとと始めちゃいましょう!!!」


 おばさんは場を盛り上げんとそう叫ぶ。けど、

 いい感じに場、白けてくれたんだよね。もうこちら側のペースなんだわ。


「それではゲーム……、スタートぉ!!!」


 だからあとは、にやるだけ。

 半ばヤケクソ気味に放たれた開始の言葉を聞くと、俺は来夏さんの手を引き、跳び出した。

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