筋肉

にーりあ

筋肉タイムスリップ

私はニッチな筋肉系AV女優である。


メンタルがヘラって自殺を図った。


「もしタイムスリップできたら、どこで何をする?」


夢の中に出てきた死神の問いである。


私は夢を自覚し今までずっと引きずっていた問題の処理を願った。


「バイトを辞めない」


夢の世界が切り替わる。


「来ないって言ったのに来たんですね」


店長に頭を下げ私はシューにクリームを詰める。


私の仕事はうんざり単純作業、シューにクリームを詰めるだけ。筋肉を使う余地はない。


「今日もシューにクリームを詰めます」


「今日はパンの成型してみる?」


「え?」


店長は仕方がないバイトを見るあきれ顔で「はよう」と言い手招き。


筋肉が戦場に喜ぶ。


私はパン作りを学んだ。


私の知る歴史ではパン屋さんとはAV女優業を誤魔化す単語だ。だがこの時から、私は本当の意味でパン屋さんをすることとなった。




目が覚めると朝が来ていた。




病室には医師の姿がある。私の手を握るその姿に私は兄を重ね見た。


「看護師という、道もあったか」


胸のつかえがとれた気がして、私は今度こそなりたい自分になると決めた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




死のうと思っていた。


今年の正月。私は入院した。末期がんである。


「もしタイムスリップできたら、どこで何をする?」


夢の中に出てきた死神の問い。


私は夢を自覚し今までずっと引きずっていた問題の処理を願った。


「登山に向かった妹についていく」


夢の世界が切り替わる。


「来ないって言ったのにやっぱ来たー!」


妹と一緒に私は山に登る。


山頂ではしゃぐ妹をぼんやり眺め、やがて下山。


私は自分の筋肉の囁きに従い、妹の荷物を持ってやる。


「自分で持つけど?」


「今こそ見せてやろう。ER(EMERGENCY ROOM)で鍛えた筋肉の性能とやらを」


妹は仕方がない兄貴を見るあきれ顔で「あっそう」と言い山を下りる。


私は妹と共に家へ帰りついた。


私の知る歴史では、この日妹は家に帰ってこない。滑落死するからだ。




目が覚めると朝が来ていた。




病室には看護師の姿がある。私の手を握るその姿に私は妹を重ね見た。


「あぁ、疲れたなぁ」


筋肉の呟きを代弁した私は、今度こそ醒める事のない眠りについた。

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