『そうめんと立ち位置』/#超短編小説/#500文字小説

想田翠/140字小説・短編小説

第1話 そうめんと立ち位置

 夏のお手軽料理の定番といえば、そうめん。

 仕事を終えてから学童と保育園に子供達を迎えに行って、バタバタと夕飯の支度を開始した。

夕方は1分1秒でも惜しいから、つい時短料理やスーパーのお惣菜に頼ってしまう。


「ねぇ~聞いてぇ」

 キッチンでまとわりつく我が子を見下ろすと、遠い記憶が蘇った。


 私が小さい頃は、夏休みのお昼にそうめんが週2~3回。

でも、栄養が偏ると懸念して母は天ぷらを揚げてくれた。

エアコンの効いた現代のキッチンと違い、暑い盛りの時間帯の台所で汗だくになりながら、手間のかかる天ぷらを。


 父は地方公務員で母は専業主婦だった。夫も地方公務員だ。

ファザコンと思われるのは癪だが、幸せな家庭で育った自覚はあるから無意識に両親を模範としているのかもしれない。

 だけど、私は専業主婦なんて考えられなかった。

とてもじゃないけど、やっていけないから。

台所事情は、キッチンと台所の違いという意味だけではなく、違う。


 でも……。出来合いの天ぷらをパックから皿に並べながら、どちらが豊かなんだろうと考える。

「今日もそうめんかぁ」と夫からの不満を予測して買っておいた、好物のいかそうめんもテーブルに並べた。

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