第10話 雷電国家 武蔵ノ国編 雷電恭二

「君がエリルか。私は雷電恭二。」


雷電と名乗る男は30代後半の風貌を醸し出しており、髪色が白色でズボン式の和服を着ており、運動に適すよ用にカスタマイズされた服装をしていた。身長は182cmと、とても高く、黒い瞳の奥からただならぬオーラを出していた。エリルは雷電と初めて会い、安心よりも雷電の威厳に萎縮してしまっていた。


雷電の周りには秘書と思われる若い女性が一人と護身のためのSPが2人側近としてついていた。雷電は防衛大臣の方を向くと、「なにか物騒な事でもあったらしいな」と壊れた携帯を見ながら言った。


防衛大臣は先程に起こった出来事を事細かく伝えると、雷電は少し考え込んだ後、「そうか。ならば一旦この病院を離れよう。もっと警備の利いた、ローレン国のスパイごときでは侵入さえ不可能な安全地帯にな」と言った後、SPに雷電が命令し、エリルをお姫様抱っこして、病室を後にした。防衛大臣も同行していき、エリルは車に乗り込んだ。車はリムジンで、ドアが死ぬほど分厚く30cmほどの厚さであった。 


車の中で防衛大臣は「先程の電話は雷電当主では無いのですか」と聞くと「俺ではない。今日エリル君に会いに来たのも、会合が潰れて暇だったからだ。偶然だろうな。それと、法務省のサーバーは俺は使えないぞ」と腕を組みながら答えた。雷電は座席が向かい合わせになっている席の目の前に座っているエリルの方を向きエリルの姿を観察するかのように見た。


「君がエリルか。今までに見てきたローレン国の上流階級の人間とは大きく違うようだ。私が会合した相手は漏れること無く全員、丁寧な言葉と見かけだけの装いでは隠しきれないほどの傲慢さと差別的なオーラがあった。でも、君は違う。優しさはもちろんなのだがとても不思議なものを感じる」と、的確なことを言い、エリルをドキッ!とさせた。


ここで汽車のことを言い当てられようものならテリルからの叱責が待っているのだから。エリルは「アハハ」とごまかしたように笑ってやり過ごした。その後雷電は防衛大臣とエリルからエリルがこの国に来てから起きたことを全て話した。雷電は逮捕者のことを聞いた後、防衛大臣に「エリル君が遭遇した女をあるところに呼び出してほしい。完全に拘束した状態で」と言った。


すべての話が終わると雷電は「労働階級に刺客。ローレン国はエリル君を殺すことにとても固執しているように思える。一人の人間にこれだけの人員を使うということはどうしても漏れてほしくない情報なんかがあるんだろう。それと、君は協力関係が結びたいと言っていたね。今の所協力関係を結ぶつもりはない」と冷たく聞こえるが、真剣な言葉で言った。エリルは一気に不安な気持ちになったが、雷電は「そう、案ずるな。何も協力関係を絶対に結ばないというわけではない。私が心配しているのは君の賭がどれほど計画的であるか、国民に不利益が生じないか、打算的でないかだ」


雷電の発言にエリルは戸惑いが隠せなかった。無理もなく、彼女の策略はまだ未完成でアイリッシュに致命的なダメージを与え、改革まで持ち込めるかと言われたら怪しかった。


しかしエリルは防衛大臣から計画の練り直しを命じられていたときからずっとそのことを考えていた。エリルはある程度の算段は考えついたものの、明確な答えにまでは至らなかった。エリルは(いよいよ来てしまった)のような顔つきと慌てた内情で一瞬誤魔化そうかと迷ったが、雷電の真剣な眼差しを見て真摯に答えた。


「君の策略はなんだい」


「まず、今のローレン国の内情を詳しく説明します。今のローレン国はアイリッシュが独裁政権を築いており、側近はすべてアイリッシュの息が掛かった者のみ。アイリッシュは多民族国家であることが気に食わず、階級分け。御存知の通り上から順に

神権

王権

貴族

兵権

商人

労働

不可触。そして、階級間で強烈な差別が存在します。貴族より上は差別はあまり存在しませんが、兵権より下は凄まじいです。ここまではみなさんもご存知の情報かと思います。ここから先は新しい情報ですが、アイリッシュは最近はローレン国にはいないと思います」


「いない!?」と秘書は驚きながら言った。


「はい。アイリッシュは必ず月に2度、全階級にテレビ放送をするのです。しかし、最近になってからは全く音沙汰がなかったのです。それと、最近急激に気候変動が激しくなっていますよね」


「あぁ。この国もそれによる被害が多数報告されている。半年くらい前からだったな」


「その時期はアイリッシュが音沙汰をなくした時期と一致するんです。偶然かもしれませんが人工的な感じの気候変動なので、気味が悪くて」


「その情報は侵入スパイからは報告されていませんね。というより半年前から通信が途絶えています。最後の通信記録では{アイリッシュと同行する機会を得た。行き場所は不明だが、同行人に科学者らしき人物がいます}と、貴族階級のスパイからの伝達だけ記されています」と秘書が言った。


雷電はあることに気づきエリル含め車内全員に聞こえるように言った。


「エリル君の言っていることがすべてあっていると仮定しよう。私に心当たりがある」と言った。


「およそ5年前、南極圏の近国に巨大な研究所が建設された。その近国のトップはその研究所について気にしなかった。大々的にニュースに取り上げられずに各国首脳間で共有された極秘な研究所だ。そこの研究所は出資者不明で作られた研究所で、指定された研究者のみが入れる施設。謎の巨大な空洞が衛星写真からは見て取れた。そして約半年前。その時はローレン国の財源が例年より5倍程度に多く、その年の貿易額も例年と比べて6倍」雷電が言い終えると確信したかのように「合点が行った。小国の国家予算並みで建造された研究所。出資者不明。ローレン国の急な用途不明な財源の増加」


エリルは雷電の言ったことを加味しながら、アイリッシュ打倒の計画を考えていると、インスピレーションが降りてきた。


「雷電さん。多分アイリッシュは南極近国の研究所にいますよね。そしてなんですか、私の国の労働階級ではこんな噂が流行ったんです(失踪事件が相次いでいる)と。そこで、今までの情報をもとにこんな策略を練りました」


エリルはそういうと、雷電含め皆々に聞こえるように要点だけをざっくりと説明した。説明し終わると雷電はエリルに真剣な目で「策略は大体わかった。まだ、改善の余地があるところはいくつかあるが、いいだろう。君に私含め、国務大臣全員、要人にこのことに協力するよう、命令する。協定関係を結ぼう」と厳かに言った。エリルは思わず笑みがこぼれ今までの緊張が一気にほどけた気がした。それと同時に武蔵ノ国を出て、摂津ノ国へと車は入っていった。

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階級制度と少女の軌跡 ぷれぷれ @playfulcloudy

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