第13話 異世界の境界線

僕は菜に連れられて境界線に足を入れた。景色は人間界とさほど変わらない。緑の木も色とりどりの花々の咲き乱れている。しかし“香りがない”“匂いがない”そう言えば、境界線人は、みんな、匂うがない。おかしなことに僕は気づいた。菜は、なぜ、”黄色の春草野の匂う“のか。「ワタル、残念。気づいたようね。」そう言って菜は僕を結界のカゴの中に閉じ込めた。「しまった。」僕は捕まってしまった。

「菜、どうしてだ。どうして僕を閉じ込めるんだ。」「ワタル、悪いけどあなたは私達境界線人と人間界をわ・た・り。歩ける人。どちらでのない特別の人。人間的に言えば浮遊の生命体。悪いけど命はいただくわ。はじめからあなたを確保するためにあの日あの時あの橋でワタルと故意にであったの。すべて計画通りよ」僕は短い瞬間に記憶を巡らせた。初めて出会った橋の上。菜の異様な威圧感。しかし、一緒に食べたラーメン。あの時の菜は”嘘の作り物”の菜ではない。確信する。何かがある。たとえ違っていて菜に命をとられたとしても本望だ。やっぱり、あの短い時間の菜に僕は恋に落ちてしまったようだ。僕の脳内に言葉が入る。『ワタル、あなたはバカじゃない。命がなくなるのよ。なんでそこまで”菜”にしてあげれの。』『好きだから。それだけだ。それでお前は誰だ。』目の前の”菜”の顔が変わり”なずな”が姿を現した。「やっぱり、なずな、お前か。」僕はとらえられた結界のカゴの中から吐き捨てるように言った。「ワタル、私、忠告したわよね。悪い境界線人に捕まらないようにと。」「覚えているさ。まさか、なずな、お前にだまされるとは。」僕は悔しさが増したが、内心ほっとしていた。”菜”じゃなくて。「ところでなずな、この状況を説明してくれ、どうせ、命をとられるんだろう。話してくれ。」「いいわよ。」「私と菜は父が違う異母兄弟。私は父も母も境界線人。私の父は境界線人の”長”をしていた。父はあるとき人間界に空間移動中に狭間の世界に迷い込んでしまった。そこは人間でも境界線人でも何者でもない世界。始まりも終わりもない世界。ワタルあなたの故郷よ。”京”キョウよ。 ワタルの本当の名前は ”ナダ キョウ”。」「どうしてなずなが知っているんだ。」「だってワタルのお母さんは、もともとは境界線人。小さいときに悪い境界線人にさらわれる途中に京の王子に助けられ京に住むことになったの。そこでワタル、君が生まれた。君は京の次期国王よ。」『僕が・・・』「それに京の世界の人々は人間界にも境界線にも行ける不思議な力を持っている。もちろん時間操作、空間移動、転生もできる。君、ワタルは人間界に転生したのよ。君のお母さんとともに。でもお母さんは、もともと境界線人のために、ワタルには気の毒だが、体に負担が、かかり命は尽きたみたい。」「なずな、その通りだ。ところで君の父、境界線人の”長”は迷い込んでそれからどうなったのか?」「父は京の女性に助けられしばらく京に住んでいたの。”菜”はそこで生まれたの。ワタル、君と同じ。だから、菜には匂いがある。これで謎が解けた?」「それで、今回どうして僕が捕まらないといけないのか?」なずなは少し間をあけて、私達、境界線人は京を支配しようと考えているの。時間操作、空間移動、転生すべての力はとても魅力的。人間界もユイやみすず達を派遣して調べたけど、たいしたことなかった。確かに人間の脳内の思考力は素晴らしいと思うが一面的でしかない。PCやAIは作ることはできてもやはり一面。これじゃ、魅力を感じない。京の世界にはかなわない。多重空間、時間操作。どうしても手に入れたいものばかり。」「そんなに京に魅力を感じるのか。なずな。」「そうよ。この境界線の世界をもっと広げてより良きものにするために。」「なずな、まるで君が”長”のようだ。」「ワタル、そうよ。父はもういない。私が、境界線の”長”よ。」「なずなが。なずな、僕を捕まえた理由は分かった。僕を盾にして京と交渉するためだろう。しかし、”菜”菜はどうして今ここにいない。なずな、菜に何をした。」「菜ね。菜は可愛い私の妹よ。でも違うの。私達と違うの。菜だけに"黄色の春草野の匂う"。どうして菜だけ。私にもあの心地よい、やさしい香りが欲しかった。だから、邪魔だったの菜が。だから菜には人間界で人間として苦しんで欲しかったの。ワタル、どう?分かった。これがすべてよ。」僕は少しだけ、なずなの気持ちに共感した。「なずな、おまえも大変だな。これしか今は言えない。」しかし、なずなの手を握ったときに"黄色の春草野の香りがした気がするが。突然、なずなが膝を折り座り込んだ。と同時になずなの結界のカゴが壊れた。「なずな。」

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