第5話 みすず

春を告げる木々の儀式はあっという間に過ぎた。早稲田の桃花も終わる。桜。”菜”君からの便りを受けとってから時間だけが氷が解けるように音もなく消えて行く。桜満開。“黄色の春草野の匂い”君を忘れそうだ。僕は相変わらず自宅と会社の往復だ。特に変化もなく過ごしているが最近やたら女子社員に声をかけられる。きっと僕がどちらかというと女子的?外見も中性的だからかもしれない。安全な男子社員的な感じで。学生の頃はそれが嫌で、わざと汗臭いジャージ姿でボサボサの髪だった。しかし社会人になってからは仕方なくスーツに身だしなみ。しょうがないが、そうして毎日通勤している。そして今、会社の帰り、みすず先輩が、ぼくを呼び止める。「ねえ、ナダ君。ご飯食べてかない?」僕は別段用事もなかったし「いいですよ。」と言ってしまった。彼女はどちらかと言うと活発な方の女子だ。社内でも上司にバンバン意見するし、仕事もできる。社内評価も高そうだ。僕とは真逆かな。それに彼女は同期だが年齢は僕の1個上だ。会社ではほとんど話したことが無い。入社後すぐに僕は長崎配属。優秀な彼女は本社勤務だった。それにしてもまあ、そんな、彼女が、僕を誘っている。悪い気はしなかった。なんとなく会社近くのアキバのざわざわビルのご飯屋に入った。周りは僕ら世代や、おじさんで結構にぎわっていた。「ところで、ナダ君、君何者?所属は?いつ来たの?」僕は席に着くなり、みすず先輩からの質問に固まった。僕は少し冷静に「みすず先輩、何のことですか?」みすず先輩は「ナダ君その、先輩ってやめてくれる。同期なんだから、みすずでいいわよ。」「しかし、1個上だし、」「ナダ君、その1個上とか気を遣うところが違うんだな。逆に年齢強調されてるようで嫌なんだけど。」社会人の女子は年齢を気にすることをこの時、学んだ。「じゃ、みすずで。」「じゃ僕もナダで。」「それに、同期のオダギリたちもみすずって呼んでるわよ。」そうか、あまり気にしたことがなかったが同期はみんな呼んでいるのか。僕は脳内が切り替わり本来の僕で「で、話は何?」みずすは明らかに僕の空気感が変わったことを察知し、「へぇーこれが本当のナダ。」「なんだよ。で、本題を話してくれ。」「ガチャガチャ。おまちどうさま」料理が運ばれてきた。1人暮らしの僕にはうれしい湯気のご飯。僕は箸を持ち、みすずが話始めた。「ナダ、いつこっちに来たの?配属は?」僕は、「はあ?来たのは2月。配属は、君と同じ海外部輸入購買担当だ。なに、いまさら聞いているんだ。」「私が聞いてるのは、こっちの世界のことじゃなくて」僕は箸を止めた。顔を上げて、みすずを見た。「ナダ、君は人間じゃないでしょう。境界線の人でしょう。」僕は上げた顔が固まった。なんでみずすは知っているんだ。だか、一つ間違いがある、僕は人間ではないが境界線の人でもはない。「みすず、なんで知っているんだ。君は誰だ。」「私?私は境界線の人に決まってるじゃない。」「どうして僕のことを。誰から聞いたんだ。」「なずなよ。ついこの間こっちに来ていたじゃない。ナダ、あったんでしょう。」「なずな。会ったけど、何か迷子になって境界線の入り口がわからないって絡まれたけど。」「ナダ、なずなにだまされたみたいね。彼女、人間界へ月1で来てるわよ。彼女、人間捕獲が趣味でお気に入りを境界線へ連れて行ってるのよ。まあ、人間が彼女のエネルギー源だかね。」店内のざわざわが聞こえない。僕は脳内で回路を巡らせた。”なずな”そうだ、”菜”だ。「なあ、みすず、”菜”を知らないか?」「”菜”?だれ?」直感だ。みすずは”菜”を知らない。嘘もついていない。人間でない別ものの僕の脳が、僕が判断した。「きゃあー。二人で抜け駆け。俺らも混ぜてや、」同期のオダギリ、ユイ、ベンがテーブに来た。店内のざわざわが聞こえだした。僕は脳内からみすずに『この話はまた。』『わかった』脳内で会話できるのは。やはり、みずすは境界線人だ。”菜”君は誰だ。どこにいる。

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