第3話 消えた”菜”

僕は白色のワンピースの女性を無視した。そこに存在しないごとく目を合わせずに通り過ぎた。僕の本能がそうさせた。”菜“では、ないことだけは”確かだ。

“境界線の人?“僕には、関係ない。僕はまっすぐに歩いた。右手よりほうじ茶の焙煎の香りが、かすかにした。店は暖簾を下ろすところだ。この季節はまだ寒い。珈琲も良いが僕はどちらかと言うとお茶のほうが落ち着く。”菜“君には季節の繊細な和菓子を、いやいや君は”どら焼き“を好みそうだ。思った瞬間、風が吹いた。

“黄色の春草野の匂い“がした。

19時過ぎすれ違う人々の足が速くなる。僕も負けずと緩い坂を上り切り交差点。右手の交番で道を尋ねている人が見えた。交差点信号が青にかわる。左足を出した瞬間、時間が止まった。僕以外は止まっている。いやな予感がした。この嫌な予感は当たる。「そこの君どうしてこんなに美しい私を無視するのかしら。」僕は頭の中で”キター。”と思った。時間が止まっている。かなりの力なの持ち主だ。逆らうのはまずい。僕は腹をくくった。声の方へ振り向き「うつくしき、きれいなお嬢さん、どうかされましたか?わたくしで良ければお手伝いいたしますよ。」”しまった―。余計なことを言ってしまった。もうなるようになる。”僕は開き直って女性の顔を見た。しっかりと目が合う。「初めからそういう態度でお願いしたかったわ。しょうがないわね。許しましょう。ところであなたは境界線への入り口をご存知だとか。わたくし、道に迷いました。つい、梅の香りに誘われて、歩いていたら気づくと、この坂道にいました。あちらの世界に戻りたいのですが入り口まで案内を頼みます。」僕はこの先、赤城神社の少し手前にお花屋さんが3軒ほどありその一つが境界線への入り口であること知っていた。「いいですよ。ついてきてください。」女性は時間が止まった景色を眺めながら歩き出した。「あなたの名前は?」僕はとっさに「ワタル」と嘘をついてしまった。女性は特に気にした様子もなく「ワタル。」とつぶやいた。そうして境界線への入り口の花屋さんへ道案内。女性は「案内、ありがとう。これで帰れるわ。お礼に良いことを教えてあげましょう。”菜”が境界線から消えたのよ。どこにいるのやら。ワタル”菜”の居場所知らない?」僕は動揺した、長崎に便りをよこしておいて”その菜”が行方不明。どういうことだ。女性は”ビリビリ”時空がずれた線の上に立ち「ワタル、君は嘘が上手ね。ワタルは、あなたの本当の名前じゃないわね。私に名前を呼ばれたものは、ほらこんなに小さくなって私のコレクションして境界線に連れて行くのに。でも、君、もしも境界線の人にあったら本当の名前は言っちゃだめよ。悪い境界線の人につれてかれるわよ。ワタルで通しなさい。」僕は境界線の向こう側に渡りかかている女性に声をかけた。「ありがとう。そうするよ。君の名前は?”なずな。” ”菜”の姉よ。会えてよかったわ。妹”菜”を見つけたらすぐに知らせて。」ビリビリシューッと線は消え、時間が動き出した。僕は花屋の前で突っ立ったまま。目の前に鈴が落ちていた。これを鳴らせと言うことか。僕は鈴を胸のポケットに入れた。「ガヤガヤ」人々、町の雑音が聞こえだし、僕は赤城方面へ歩きだした。”菜”が行方不明。君からの便りを受け取り、僕はここにいる。助けが必要なのか。”菜”。境界線で何か、起きているのか。

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