CMの時間 その3

 コマーシャルタイムに入ったことを告げるメッセージが視界の中央に表示された。

 暗転された画面を見ながら、しばし呆然となる。

 脳が状況に順応するのを待ってから、俺はヘッドセットを外して現実世界へと戻った。


「おつかれさん!」


 ディレクターの大場はタブレットを俺に手渡すと、打ち合わせ用の椅子にどかっと腰を降ろした。

「見てみろ。番組の公式サイトで、投票状況が公開されたぞ」

 タブレットの画面には、『視聴者参加型リアリティ番組 VRゲームでアイドルを推せ! 推しドル投票結果中間発表!』と表示されていた。順位とポイントだけでなく、視聴者からのコメントも、いくつか加えられている。


1位、カリサ(早坂 梨紗)、 871票

 応援コメント:

 「ときおり見せる女の子らしさにやられました」

 「この子がいちばん面白い。いいぞ、もっとやれ!」

 「彼女にイジられたい!」

 ダメ出しコメント:

 「薬瓶まちがえたの、絶対わざとだよね?」

 

                ※

 

2位、チャキ(中村 千明)、 865票

 応援コメント:

 「文句なしに可愛い!」

 「彼女のドレスになりたい」

 「はやくデビューして欲しいです!」

 ダメ出しコメント:

 「普通にエロすぎる」


                ※

 


3位、アイリア(阿部 愛梨)、792票

 応援コメント:

 「かっこいい。同じ女性として憧れます!」

 「すごく頑張ってる感じが伝わってくる。スキ!」

 「最初から見てるけど、プレイがどんどん上達してる!」

 ダメ出しコメント:

 「演技力がちょっとね……」


                ※

 


4位、マイラ(小椋 真理)、 513票

 応援コメント:

 「メイド服が可愛すぎる」

 「実は彼女がパーティの中で最強なのでは?」

 「俺に回復魔法やってくれえ」

 ダメ出しコメント:

 「なんか最近、キャラが崩壊しているような……」


                ※

 


5位、チーカ(村岡 稚香)、 486票

 応援コメント:

 「周りに流されない等身大の彼女がすき」

 「こんな妹ほしいなあ」

 「胸が小さいとか言ってる奴いるけど、わかってねーな」

 ダメ出しコメント:

 「さすがに本番に遅刻するのはちょっと引くわー」


                *

 

「どう? ご感想は?」

 

 俺が読み終えると、大場は身を乗り出して興味深そうに聞いてきた。

 

「正直、カリサが1位とは意外だな。いちばんアイドルらしくない奴なのに……」

「同感だ。だがこれでいいのだ。想定外の展開になることが、リアリティ番組の醍醐味だからな」

 大場は満足そうに笑った。まあ、ディレクターが満足しているのであれば、俺としては依存はない。番組をきっちりと終わらせて、義務を全うするだけだ。

 

 大場は姿勢を正して俺に向き直ると、今までになく真剣な表情になった。

「番組はいよいよ大詰めだ。終盤の盛り上がりがすべてだと言っても過言じゃあない。きみは良くやっているが、ひとつだけ注意して欲しいことがある」

 大場はいったん言葉を区切った。

「全滅だけは回避して欲しい。知っての通り、戦闘で全員が死亡すると、最後に通過したポータルからのやり直しになる。ゲームの中盤ならともかく、終盤で同じシーンを何度も見せられるのは視聴者にとって苦痛だ。視聴者数が減れば番組の評価は下がり、スポンサーは離れ、上司からは叱られる。それは避けたいからな」

 

「しかしあのボス敵、ディドロだっけ? めちゃくちゃ強そうじゃないか。それにひきかえこっちは素人集団だぜ」

「まあそのへんは視聴者が違和感を感じないようにシナリオで補完するから大丈夫だ。きみは普通に戦って、普通に勝てばいい」

「普通……って言ってもなあ」

 

 大場は煮え切らない俺をしばらく見ていたが、壁の時計を見ると立ち上がった。時刻は19時になろうとしている。

「きみならできる! 頼んだぞ、デューク!」

 それだけ言うと、大場は大股で部屋から出ていった。

 最後にわざわざ俺をプレイヤーネームで呼んだのは、『もし失敗したら、その名前は汚名として記録されるぞ』という脅しかもしれない。

 俺はストレスで胃が痛むのを感じながら立ち上がると、よろよろとゲーミングスタンドへと戻った。

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