小さなカップルのあれこれ ~リトル・リトル・ネイバーズ~

夜桜くらは

小さなカップルのあれこれ

『お似合いのカップルだなぁ』なんて言葉が、こんなにもスッと出てくるなんて思わなかった。


「あ、ありがとう……」


 俺の友人──コポルは、頭をかきながら照れ笑いをする。そして隣にいる彼女さんは、可愛い顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにモジモジしていた。

 うん、なんだろう……この初々しい感じ。見てるこっちが恥ずかしくなる。


「いや〜、なんか羨ましいな〜」


 俺は素直にそう思った。だって、こんな可愛い彼女と付き合えるなんて、めちゃくちゃ幸せじゃないか!


「そ、そうかな?」


「そうだとも!」


 俺がそう断言すると、コポルはますます照れくさそうに笑った。本当に幸せそうだな、コイツ。


 今日はコポルから恋人を紹介して貰えると聞いて、ワクワクしながらやって来たのだが、来て正解だったみたいだ。まさかここまで良いものを見せてもらえるとは。


「コロポックル」という種族のコポルは、身長17センチしかない。だから、てっきり人間と付き合っていると思っていた俺は、さぞ大変だろうと思っていたんだが……どうやらその心配は必要なかったらしい。

 というのも、コポルの彼女──リネットさんというらしいが、彼女は人間ではなく、「フェアリー」という種族の女性だからだ。リネットさんは、コポルと1センチしか変わらない。つまり、2人はほぼ同サイズなのだ。


 この世界──つまり俺たちが今いる世界には、人間以外にも様々な種族が存在している。その中でもコポルたちのような種族は、とても珍しい部類に入るのだ。そんな希少種同士の恋愛……正直、ものすごく興味がある。というか、単純に気になる。


 というわけで、俺たちは場所を移してカフェに来ている。ちなみに、ここはコポル行きつけの店らしい。店内は木を基調とした造りになっていて、落ち着いた雰囲気だ。なかなかオシャレだし、居心地も良い。


「……で? どうやって知り合ったんだ?」


 運ばれてきたコーヒーを一口飲み、俺は早速本題に入った。さっきからずっと気になっていたことだ。一体、どこで出会ったのかを知りたい。


「え、えっと……実は──」


 それから、コポルは詳しく説明してくれた。なんでも、道端で動けなくなっていたリネットさんを、偶然通りかかったコポルが助けたことがきっかけらしい。

 彼女は都会から出てきたばかりで、あまりの人の多さに酔ってしまったらしく、道の端っこでうずくまっていたそうだ。そんな彼女を見て見ぬふりもできず、コポルは声をかけたのだという。


「私、見ての通り小さいので……皆さん、私が見えてないかのように通り過ぎていくんです。それがすごく寂しくて……」


 そう言って、リネットさんは悲しそうに俯いた。確かに、手のひらサイズの彼女が道に倒れていたら、誰も気づかないかもしれない。


「でも、コポルさんはすぐに気づいてくれて、私に声をかけてくれたんですよ」


 その時のことを思い出しているのか、リネットさんの頰が少し赤く染まる。それを見たコポルも、照れ臭そうに頰をかいた。

 なるほど……それで恋に落ちてしまったというわけか。それはなんというか、すごくロマンチックだな。まさに運命の出会いってやつだ。


「そっかぁ……いい話だなぁ……」


 俺はしみじみと呟いた。こんなにベタなラブストーリー、現実じゃそうそうお目にかかれないぞ。少し羨ましくなってくるほどだ。


「……じゃあさ、リネットさんはコポルのどこが好きなの?」


「えっ!?」


 ふと気になったことを尋ねると、リネットさんの顔が真っ赤になった。耳まで赤くなっている。……可愛い。コポルの恋人じゃなかったら、絶対口説いてたわ。


「あ、あの……その……」


 リネットさんはしばらく目を泳がせていたが、やがて意を決したように口を開いた。


「わ、私が困っていたら、いつも助けてくれるところとか……優しいところとか……。す、好きなところはいっぱいありますけど、一番はやっぱり……私のことを、大切に思ってくれるところです」


 頰を赤く染めたまま、リネットさんはそう言った。その表情からは、彼女のコポルに対する想いがよく伝わってくる。


「……だってさ、コポル」


 ニヤニヤしながら隣を見ると、コポルは顔を真っ赤にして俯いていた。照れているらしい。


「そ、そうなんだ……」


 そして、蚊の鳴くような声で答える。それを見て、ますます微笑ましい気持ちになった。


「まぁ、こいつは本当に良いヤツだからさ。これからも仲良くしてやってくれよな」


 コポルの背中に手を添えて言うと、リネットさんは大きく頷いた。


「はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 そう言って、深々と頭を下げる。こういう礼儀正しいところが、きっとコポルの心を掴んだんだろうな。



 それから俺たちは、3人で色々な話をした。お互いの趣味や休日の過ごし方など、いろんな話題で盛り上がった。

 小さな2人には苦労も多いようだったが、それでもお互い支え合いながら生きているようだ。むしろ、同じくらいの背丈だからこそ、上手く噛み合っているのかもしれない。

 そんな2人の話を聞いていると、俺もなんだか嬉しくなった。


「そういや、仕事はどうよ? 博物館、だっけ?」


 話が一段落したところで、俺は何気なく尋ねた。

 コポルは、今は施設警備員として働いているのだ。その小さな身体を活かして、狭い場所の巡視をしたり、落とし物を拾ったりしているそうだ。見た目は完全にマスコットキャラクターだが、なかなか優秀らしい。


「うん、なんとか上手くやれてるかな。最近は、お客さんも増えてきてくれたし」


 コポルが嬉しそうに言う。実際、彼の働きぶりは素晴らしいと評判になっているようだ。

 一度、不審者が侵入してきた時も、素早い動きと的確な判断で犯人を捕らえたらしいしな。さすが俺の親友だ。


「良かったじゃないか。俺も嬉しいよ」


 俺がそう返すと、コポルはますます嬉しそうな顔をした。そんな俺たちのやりとりを見ていたリネットさんも、ニコニコしている。どうやら彼女も、同じ気持ちのようだ。


「それにしても、お前ってホントすごいよなぁ……体格差をものともしないんだからさ」


 感心しながら呟くと、コポルは照れくさそうに笑った。


「あはは、まあね。技術さえあれば、案外なんとかなるから。それに、体力はある方だし」


 そう言うと、彼は得意げに胸を張った。小柄な分、パワーでは人間に劣るかもしれないが、その代わりスピードには自信があるのだろう。そこは素直に尊敬できるところだ。


「意外と筋肉あるもんな。やっぱ鍛えてんの?」


 俺はコポルの二の腕に触れてみた。やはりというかなんというか、細い。でも、決して貧弱というわけではなく、しなやかな強さを感じることができた。


「うーん、別にそういうわけじゃないんだけど……」


 俺の質問に、コポルは腕を組んで考え込んだ。そして、しばらくしてから口を開く。


「なんて言うのかな……僕って小人だから、力も弱いでしょ? だから、その分を補うために筋トレしてるんだ」


「……なるほどなぁ」


 言われてみれば確かにそうだ。普通の人間なら筋力で何とかなることも、コポルのような種族だと難しいだろうからな。そう考えると、自然とトレーニングに繋がってくるのかもしれない。



 それから少し種族の話になり、話題はリネットさんの仕事のことに移った。

 彼女は今、洋食屋さんで働いていて、主にデリバリーを担当しているのだという。魔法が使えるため、冷蔵・冷凍食品の配達も難なくこなせるらしい。

 また、背中に生えた蝶のような羽で飛ぶことができるので、車の通れないような細道も自由に行き来することができるのだそうだ。


「お客様も喜んでくださるんですよ。『美味しいお弁当を届けてくれる』って言っていただいて……」


 そう言いながら、恥ずかしそうに頰をかくリネットさん。その様子を見る限り、職場でもかなり可愛がられているみたいだ。なんとなく分かる気がするぞ。だって、こんなに可愛いんだもんなぁ……。


「そっか……。俺も、リネットさんが届けてくれるなら毎日食べたいかもなぁ」


 冗談半分で言ってみると、彼女の顔が再び真っ赤になった。


「えっ!? あ、あの……えっと……」


 両手を頰に当ててオロオロする彼女を見て、俺は思わず吹き出した。やっぱり可愛い子だな。ちょっとからかうだけですぐにこんな反応をしてくれるなんて……。

 そんな俺たちのやり取りを見ていたのだろう。コポルは、ジトっとこちらを睨んできた。


「……ねえ、あんまり僕の彼女をからかわないでね?」


 本人は軽い牽制のつもりなのだろうが、小さなミルクピッチャーに入ったコーヒーを啜りながら言っても、全く迫力がない。むしろ、微笑ましく思えてしまうほどだ。


「分かってるよ。そんなに怒るなって」


 笑いながら言うと、コポルはさらにムッとした表情になる。それを見たリネットさんは、クスクスと笑った。



 その後も色々と話している内に、あっという間に時間が過ぎていった。気づけばもう夕方だ。そろそろお開きにした方がいいかもしれないな。


「じゃあ、今日はこの辺にしとくか。また会おうぜ」


 俺がそう言うと、コポルとリネットさんは頷いた。


「そうだね。次はいつにする?」


「私はいつでも大丈夫です!」


 2人とも元気良く答えてくれた。それを聞いた俺は、ニッと笑う。


「よし! じゃあ来週はどうだ? ちょうど休みだしさ」


「良いね。……そうだ、次は僕たちの家に来るっていうのはどうかな?」


「それは良いですね!」


「マジ? 良いのか!?」


 思わぬ提案に、テンションが上がる。まさか家に招待してもらえるとは思わなかったからだ。これは是非とも行かねばなるまい。


「うん、もちろんだよ。それに、他のみんなにも紹介したいしさ」


 コポルは嬉しそうに言った。シェアハウスに住んでいると言っていたから、同居人のことだろう。どんな人たちなのか楽しみだな。


「私も楽しみにしてますね!」


 リネットさんも笑顔で言う。その笑顔を見ると、ますます期待が膨らんでいった。

 そして、今から週末が待ち遠しくなってくるのだった。

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小さなカップルのあれこれ ~リトル・リトル・ネイバーズ~ 夜桜くらは @corone2121

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