第15話(倖西佳音視点)

「そういえば佳音、聞いた?」

「何を?」

「沖宮さん、アイドルのオーディションを今度受けるらしいよ」

「ふ~ん、そうなのね」

「あれ、興味ない感じ?」

「別に彼女と接点がないもの」

「でも佳音のマネージャーだった大友といつも一緒にいる人なんだし少しは気になるんじゃない?」

「……」


 私はそんな男のことなど眼中にない。昔からの知り合いというだけ、私にとって彼はその程度の存在だ。だから当然、唯友君が誰とどこで何をしていようと私には興味の範囲外だった。


「気にならないわよ」

「だって佳音ってばいつも大友の方を見てるからてっきり興味があるのかと……」

「えっ……?」


 私が? 彼の方を見ている? ありえないわ。だって私にとって唯友君はただの幼馴染というだけの取るに足らない存在なのだから。都合が良いからマネージャー代わりにこき使っていただけで深い感情など持っていない。……そのはずだ。


「それは誤解ね。それと次から私に大友唯友君の話題を出すのはやめにしてね」


 気分を害された私は相手を目で強くけん制する。萎縮した相手はそれ以上はもう何も言わないでくれた。私があの男に執着しているみたいに言われるのはどうにも我慢がならない。


 だがオーディションと聞いて思い出した。確か私の事務所の後輩がこのオーディションに参加するとか何とか言っていた気がする。後輩の晴れ姿を見てあげるのも先輩の務めよね。そう思った私は折を見て会場へ足を運ぶことにした。


 

 オーディション当日、私は用事を手早く済ませて会場へと向かった。会場に着くとちょうど、後輩の駒家メグが壇上に立ってパフォーマンスをしているところだった。


 ちょっと表情が苦しそうに見える。いつも堂々としている彼女とはかけ離れた怯えたような顔をしていた。いったい何に怯えているのだろう。私の目から見ても彼女の実力はかなりのものだ。そんな彼女が怯える理由……。


 私はあの日みた沖宮さんのダンスを思い出していた。ライブ会場で私たちのユニット、ノーベクシードのダンスを一目見ただけで踊っていた彼女のことだ。


 まさか……、駒家メグが怯えている原因って沖宮さん? そう思った私は会場にいるはずの沖宮さんを探す。いた。唯友君の横に随分とリラックスしている様子の彼女がいる。相変わらず仲が良さそうね……。何故か分からないけれど異常にむかむかする感覚を覚える。私という存在を間近で見てきた男が他の女にうつつを抜かしているという事実が許せないのかもしれない。


 沖宮さんに気を取られている間に駒家メグのパフォーマンスが終わった。少し見た限りでは及第点。ギリギリユニット入りは果たせるレベルってところね。


 沖宮さんの安堵している表情を見るにもうパフォーマンスは終わってしまったのだろう。少し来るのが遅すぎたわ……。もうこのオーディションの見どころがないわね……。


 私にとって退屈なパフォーマンスが続く中、このオーディションの最後を飾る人物、三吉英梨花だけは若干ではあるが私の目を引いた。まさか英梨花がこのオーディションに参加しているなんてね……。


 三吉英梨花とは幼少期から何かと縁のある人物だった。彼女は昔から何かと私のことをライバル視しておりいつも私の後をついて来ていた。しかし、私にとってはやはり大勢の中の一人、特に何の感情も抱いたことはない。


「佳音、こんなところで何をしてるんだ?」


 オーディションが終了して会場を後にしようとしたところ唯友君が声をかけてきた。変装をしていたのに私だと見抜いてしまうのは流石、付き人をしていただけのことはあると少し感心してしまう。


 ちょっと気分の良かった私は以前に近づくなと言っていたけれど今日のところは大目に見てあげることにした。




 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイドルの幼馴染を支え続けてきた俺、人気になった瞬間マネージャーを解雇されてしまう。しかし何故か学園の美少女が俺に言い寄ってきたのでこの娘を全力で支えることにしました @mikazukidango32

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ