筋肉とビール、そして美少女

一陽吉

楽しく生きなきゃ損だよな

「ぷは~、うめえ」


 ジョッキに入ったビールを一気に飲み干す。


 三十のオッサンには最高の瞬間だ。


 ほんと、異世界にある酒場で日本のビールが飲めるってのは素晴らしい。


 これもこの町に住む転生者たちのおかげだな。


 技術をもっているうえに転生で能力が付加された彼らによって、各種メーカーものから、この世界の材料で作られた地ビールまであるんだから、毎日が楽しくて仕方ない。


「よ、ケンスケ」


「おう」


 出入り口からテミュが俺に声をかけてきた。


 十七歳のケモ耳娘で、弓と魔法を使い、魔物討伐なんかをしている。


 長い茶髪をポニーテールして、スレンダーな体型をした、なかなかの美少女さんなんだが、俺と妙に気が合うんで話友達になってる。


 目当ては俺らしく、真っ直ぐにやってくるとテーブルをはさんで向かいあうように座った。


「聞いたわよ。あなたまた筋肉で荒くれ者の心を折ったんだって?」


「まあね」


「ほんと、いつも思うけど、戦わずして勝つなんて信じられないわ」


「でも、事実なんだぜ」


 驚くテミュに、俺は軽くドヤ顔をして答えた。


 町は町でも、ここは宿場町で、その性質上いろんな人間が出入りする。


 商人であったり、冒険者だったり、旅人だったり様々だ。


 当然のように、悪さをするやつらもなかにはいる。


 そういったやつらを取り締まって懲らしめる、町営の警察みたいな仕事をしているんだが、俺は武力を使わず、筋肉で相手の戦意をなくして、降参させている。


「今日の相手は強盗だったんでしょう? どうだった?」


「ああ。いつもどおり、最初は全身の筋肉を二回り増加して魅せてやったぜ」


 言いながら胸元で右腕を曲げて、ぐっと力をいれた。


 俺は赤いハチマキにそでのない白の道着を着ているから、腕の筋肉が良く見える。


 なんでその格好かといえば、強い男を考えたときにそれしか思いつかなかったからだ。


「あなた、基本からして男の獣人と変わらない身長と筋肉量なのに、そこから上乗せされるから、チンピラ程度ならそれで逃げるのよね?」


「ああ。だが今日のは半獣人が主な連中で、それでは効かなかった。だから、身体から闘気のオーラを出した」


「あの、もわ~として、目つきが怖くなるやつね」


 思い出して言うテミュ。


 この世界は魔法が使えるため、魔力は認知されているが、いわゆる気ってやつの認知度は低い。


 それにこの時の俺は目が光っているらしく、よけい異様に見えるらしい。


「下っ端の四人はビビッて尻もちをつくやつもいたが、さすがにリーダー格のやつはメンツがあって突っ込んできた」


「それで?」


「いつもどおり、ポーズをきめるのと同時に気を放った」


 そう言って俺は座りながらボディビルダーがやってるサイドチェストのポーズをしてみせた。


 両手の平を前に突き出さなくても、ポーズで気が飛んでいくんだから、我ながらギャグだと思う。


「気って、電撃とは違うビリビリがあるんでしょう?」


「らしいな。おそらく、初めて気を受けたリーダー格は、身体に伝わる不思議なビリビリを感じて戦意喪失。無力化した強盗団を仲間が捕まえ、一件落着というわけだ」


 言い終えて俺は大瓶に入ってるビールをジョッキへ注ぎ、一口飲んだ。


 テミュはちょっと考えている様子だな。


「ねえ、ケンスケ。やっぱうちのパーティーに入らない? あなた、魔物とも戦って強かったじゃない」


「せっかくだが、もうこりた。魔物といえど殺しはしょうにあわないのがよく分かったからな。それに」


「それに?」


「俺はこうして、仕事の終わりにビールを飲んで、テミュみたいな美人と話をする毎日をおくりたい。それにはいまのままが一番だ」


 そう言って俺は笑った。


「も、もう……、ケンスケったら」


 美人と言われて照れるテミュ。


 そうそう、それでいい。


 筋肉とビール、そして美少女。


 おやっさんをかばって建機に潰され、異世界転生した俺だが、これで十分じゅうぶん


 異世界だが、ここは天国だ!

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筋肉とビール、そして美少女 一陽吉 @ninomae_youkich

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