筋肉カード普及法案

真坂 ゆうき 

ある一つの記録

 西暦20××年 太陽系・地球に存在するとある人間国家において。


 これは、電車・飛行機などの己の肉体に頼らない移動手段の発達やリモートワーク、AIなどの技術が発達したことにより、国民の運動不足が深刻化し、子供の体力の著しい低下も指摘されるようになってきたことを重く見た一人の大統領が、厚生大臣と協議した際のやり取りを残したものである。


「うーむ……例えばこの私のように、色の白い肌にぼよぼよしたお腹、走れば十歩もしないうちに息が切れ、風が吹けば折れるような細さの足を何とかする方法はないかね、厚生大臣」


「もうそれは致命的というか末期という気がいたします大統領。素直に運動をすれば宜しいのではないかと」


「何を言うか大臣。私は忙しいのだ、そんなことをしている暇は無い」


「口だけ人間の典型例ですな。であれば、グータラでいるより得だと思われるニンジンをぶら下げるぐらいでしょうか、対策としては」


「なるほど……よし、ひらめいたぞ! ならば我が国に、筋肉カードというものを導入してはどうか」


「何ですかその頭の悪そうなカードの名称は」


「君も随分明け透けに物を言うね」


「性分ですから。で、そのダサいカードを持っておくとどのような利点があるのか説明して頂けますか」


「そうだな。まず定期的に持ち主である国民一人ひとりの筋肉・質・バランスなどを計測し、その結果をこのカードに認識させておく。それに応じたランク付けを行い特典を付与するというものだ」


「ほほう。で、それにはどのような特典があるのでしょうか」


「例えばだな、飲食店などでこれを提示すればカードのランクに応じて値引きがある。それも全国共通でだ」


「ふむ。近年まれにみる物価高にあえいでいる民衆にとってはチリも積もればなんとやらですな。しかし筋肉を維持するためには良い食事が必要不可欠であります。確かに値引きは庶民には嬉しいものですが、それでどれだけの効果がもたらされるかは要検証でしょうな」


「ふむ、では各種交通機関での利用料も値下げしよう。これならどうだ」


「なるほど、それならば普段電車などの利用が多い層にも一定の効果は認められるかも知れませんな」


「そうだろうそうだろう」


「後はこのカードの認知度を高めるために、カードをリーダーにかざしたときの音を

『ハッ!!』や『パワー!!』とするのはどうだろう」


「誰がそんな音にして得をするというのですか大統領」


「何、宣伝していけばそのような声は聞かれなくなるわい。なので……」


「で、CMなどで宣伝する際のイメージキャラクターはその元ネタの筋肉芸能人を起用すると」


「ぐっ……な、何故分かった」


「貴方の言いだしそうなことですからね。で、仮にそれだけバラマキをするのはいいのですが、当然国家予算は更なる火の車になります。それにどう対応するおつもりでいらっしゃいますか」


「ふふ、それについては既に対策済みだ! その名も『筋肉税』! これは筋肉カードのランクが高い者が税金をより多く負担……


 て、何をする大臣、く、首が……」


 その後、この案はどうやら廃止の運びとなったようである。


 尚、この際ゴリゴリマッチョな厚生大臣が大統領を絞め落としたのではないか、と噂されているが、関係者が一様に口を閉ざしている為、詳細は永久に闇の中である。

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