私のお気に入り

鳥尾巻

あなたの形

 暗闇の中で、あなたの輪郭をたどる。


 この指の間をすり抜ける硬く短い髪を梳けば、長い私の髪を同じように梳き返してくれる。

 サラサラと地肌を滑るあなたの骨太い指。その微かな音を拾う私の耳。耳たぶを掠める温かく柔らかい唇が、この上なく甘い声の潜めた囁きが。


 深く深く心の奥に染み込んで、私を内側から潤わせる。


 滑らかに秀でた額から続く、柔らかい眉毛を逆向きに撫でて弄ぶ。長い睫毛が指の腹をくすぐるにまかせ、薄い瞼をそっと撫でてみる。窪んだ眼窩の縁の下、硬い頬骨を軽くつついてクスクスと笑う。


 いたずらに鼻先を摘めば、淡い息を漏らす唇が笑みの形に動くのが分かる。僅かに髭でざらついた顎を両手で包む間に、私は愛で満たされる。


 瑞々しく張りつめた皮膚の下の筋肉の形を、ごつごつと浮き出る骨を覆うなだらかな境目を。何度も何度も繰り返し手の平でたどる。

 女の身では持ち得ない尖った喉仏にやわく齧りつけば、ふざけたように鎖骨を齧り返される。


 それでいて決して私を傷つけないあなたの心。


 どんな痛みや苦しみからも私を守ろうとする力強い腕。長い指に私の指を絡ませて、丸い爪の硬さを歯で確かめる。

 しっかりと厚みのある胸に頬を寄せて、清潔な石鹸の香りを吸い込むと、あなたの心臓が力強く脈打つのを感じる。そして舌先で味わう汗の味。


 私よりも少し温度の高いあなたと、熱を分け合い緩やかに馴染み合う。出会った頃からまるで私のために作られたようなあなたの形。何もかもが私の心と体を惹きつけてやまない。


私の好きな、あなたの髪。

私の好きな、あなたの声音。

私の好きな、あなたの香り。

私の好きな、あなたの味。

私の好きな、あなたの心。

全てが私のお気に入り。


だけどあなたはどんな色?


 暗闇の中で、その色に触れることはできないの。もしも指先からそれを知ることができたなら。

 

 きっとあなたの色も私のお気に入りになるのでしょうね。

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私のお気に入り 鳥尾巻 @toriokan

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