絶対に絶対に鍛えない男

猿川西瓜

お題「筋肉」(777字)

「ジム行って、筋トレしないとなー。プロテイン買って。運動せなほんまやばい。昼にラーメン食い過ぎて、お腹が出て来たわ」

 と、言い続けて、15年経った。


 15年間、人は同じ事を言い続けられるものだろうか。

「ジムいかなあかんな~」

 を、ビールを飲みながら、そして年齢を積み重ねてビールがハイボール中心に変わっても、僕は言い続けた。


「そろそろ……筋トレせなあかん」

 若い頃、そうつぶやいて、5年経った。

「まじで筋トレせな、なぁ?」

 更に5年経った。

「そろそろ……せなあかんなぁ、筋トレ」

 そして5年後、ジムに行くのを(行ってもいないのに)あきらめた僕は、自宅用筋トレのマットを買った。

 なぜか届くのに半年かかった。届いたマットに「マットくん」と名付けた。

 「マットくん」の上に一度寝転んで、合計2回ほど腹筋して、「よし、この調子だ」とつぶやき、僕はスッ……とマットをまるめてしまった。

「今度、本格的に腹筋するからな」とマットくんに誓い、いまも除湿機の裏に孤独に立ててある。

 もう、ロッキーのように公園走って、ベンチで筋トレするしかない。


 大阪城公園で、僕は何回か走って、それなりにカロリーを消費した。友達も誘えば、さらに鍛えられるだろうと考え、南林君を誘った。南林君と雑談しながら、ゆっくりと大阪城を一週する。

「久しぶりに、飲みに行かん?」

「運動のあとの酒は最高やで?」

 どちらからともなくこんな話題となる。

 気が付くと鳥貴族に、汗をうっすらとかいたジャージのおじさん二人の姿があった。

 鳥のキモだったら、そんな脂肪つかんやろ! と言いながらハイボールと一緒にかっ食らう。

 結局、体重は減らず、お腹の腹筋は割れてないまま16年目が過ぎようとしている。

 酒、友、運動、焼き鳥で、脂肪や体重の代わりにストレスはしっかりと消えてくれたので、これで別にいいんじゃない?

 これで17年目も過ぎてしまうのだ。

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