晴れた日の午後には

ろくろわ

取り返しのつかない過ち

 佳子よしこは暗い部屋の中で項垂うなだれていた。

 部屋の床や壁は刻まれた筋肉が飛び散っている。


 こんな事になったのも彼が悪い。

「お前には無理だ」「お前には早い」何て言うから。だから私も感情的になってしまってつい。


 あぁ何で私はまた準備をしておかなかったんだろう。もっと切れる包丁だってあったし、処理する方法だってあったのにと後悔した。


 最早一人では何も出来ない。

 私は便利な掃除屋に電話をかけた。


『お客様の素性は一切お調べしません。掃除屋黒木』


 そんな頼れる掃除屋に。





 黒木くろきは女性向けマンションに着くと呼び鈴を鳴らした。

「開いてますよ」と中から返事を受け黒木は玄関に入り状況を確認した。

「またか」と黒木はこの惨状を予想していた。

 掃除屋の依頼なんてこんなもんだ。

 壁や床にへばりついた筋肉は普通の洗剤では落ちない。

 黒木は既に用意しておいた薬剤を取り出し部屋の掃除を始めた。そして部屋の奥にいる佳子に「後はここに頼ると良い」と『かく 美鈴みすず』と書かれた名刺を差し出した。


 佳子はそれを受けとると「後は頼みます」と黒木に伝え部屋を出た。



 佳子の部屋を掃除し始めて一時間後、黒木の携帯が鳴った。表示先は『隠れ家 美鈴』


 黒木は嫌な予感がした。

「もしも「ちょっと!あの子なんなの?」

 黒木の応答は美鈴の勢いにかき消され、嫌な予感は的中した。

「あの子、彼氏に筋肉きんにくのつく料理を作ってあげたいって言ったの。そこまでは可愛かったの」

 美鈴は疲れた声で続きを話す。

「でも筋肉きんにくには筋肉すじにくが良いでしょ?って謎理論で料理を作り始めて。止める間も無く気が付いたら周りには飛び散った筋肉すじにくの山よ」

 黒木は先程迄その光景を見ていたので『料理教室 隠れ家』の惨状が目に浮かんでいた。

「どうしたら筋肉すじにくが爆発するのよ!」

 尚も美鈴の話は止まらない。

「今から伺います」

 と黒木は早々に電話を切り溜め息をついた。


 佳子に料理は無理だ。


 そう黒木は思った。





 了





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晴れた日の午後には ろくろわ @sakiyomiroku

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