最後の飴は口の中に

御厨カイト

最後の飴は口の中に


カタカタカタカタ


1人で寂しく作業しているからか、タイピング音がやけに大きく室内に響く。


……もう18時か。

お昼からやっていたから流石に疲れたな。

でも、あと少しで終わるしもうひと頑張りするか。


腕を上にのびーっと伸ばし、私は近くに置いていた飴の大袋からレモン味の飴を取って、口に放り込む。



そして、作業を再開させようとパソコンに向かったその時、



「たっだいまー!」



首元に腕をぐるりと巻き付けられる。



「……楓か。びっくりした」



いきなり巻き付いてきた犯人兼同棲している彼女である楓は私のそんな様子に少し不服そうだ。



「えー、玄関開けた時もちゃんと『ただいま』って言ったのに。澪、気づかなかったの?」


「あ、そうなんだ。ごめんごめん、作業に夢中で気づかなかったよ」


「むぅ、澪はホント仕事人間なんだから」


「なにそれ」



私の肩に顔を乗せて「フフフッ」と笑いながら、楓はそう言ってくる。



「そういえば今日のご飯担当は澪だったよね?もう何か作ってるの?」


「あぁ、お昼にもう作っといたよ。今日の晩御飯は楓の好きなカレーだから」


「えっ、ホント!?やったー!澪のカレー、ホント好きなんだよね!」



そんな喜んでいる彼女を横目に、私は胸元に近づいている不埒な手をペチンッと叩く。



「こーらっ、どさくさに紛れて私の胸触ろうとしないの」


「……だって、今日メチャクチャ疲れたんだもん。澪、癒してよー!」


「そういう事をするのはまた後で」


「ぬぅ……でも、澪、作業まだ終わらないでしょ?」


「それは……そうね」


「ほらー!」


「まぁまぁ、あとちょっとだし、すぐ終わらせるから、ね?」



肩にある彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。



「……分かった。待ってる」


「うん、良い子。……あっ、そうだ、飴でも食べる?」



近くに置いていた飴の大袋を彼女の前に掲げる。



「食べる。何味があるの?」


「えっとね……色々ある」


「適当だなー……うーん、それならレモン味が良いな」


「レモン味ね、はいはい……」



ガサゴソと私は袋の中からレモン味の飴を探す。

……が、どうやら目当ての物はもう切らしてしまっているようだ。



「あー、もうレモン味無いみたい」


「そっか、残念。じゃあ、他の味にしようかな……」



ちょっとしゅんとした様子で他の味を選ぶ彼女。


……いや、待てよ、レモン味か。



「……楓、ちょっと待って、レモン味あるわ」


「あっ、ホント?頂戴」



彼女がそう言った瞬間、私はサッと後ろを向いて楓にキスをする。

急な展開に驚いている彼女を感じながら、口の中にあった飴をヌルッと彼女の口の中に移す。



飴が歯に当たったのかカロンッと鳴った。



折角なので飴を移した後もほんの少しだけ堪能してから、唇を離す。



「どう?甘い?」


「ふぇっ……あ、うん、凄く……」



飴の甘さだけが原因では無いような顔のトロけさで楓はそう答える。



「そう、良かった。じゃあ、私はまだ作業続けるから大人しくしといてね」


「う、うん、分かった……」



まだ放心状態の楓にそう声を掛けて、私はパソコンの方へ向き直す。





……私もどうやら溜まっているようだから、作業終わったらしっかり構ってあげようかな。











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最後の飴は口の中に 御厨カイト @mikuriya777

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