1日限定10食

まれ

限定10食

 たまたま通りかかったお店があった。

 お店を出すには薄暗い裏路地。

 そこに大きな看板を立てた飲食店があった。

 周りは家で一つだけお店がある感じ。

 大きな看板には『限定10食!』と書かれてある。

 何が限定で販売されているのか外見からは判断できない。

 何がメインの飲食店なのかもわからない。

 覗くとそこには老若男女問わず人が席いっぱいに入っていた。

 僕は入ってみることにした。



「いらっしゃい。こちらへどうぞ」

 案内してくれたおねえさんはかなり美人で優しそうだった。

 僕は渡されたメニュー表を見た。

 どうやら、いろいろなお肉がメインだったようだ。

 熊や鹿、アライグマに狐、カエル、ワニなど普段食べることのない食材ばかりだった。そのお肉を使った料理どれもが限定10食みたいだ。

 ただ、一つ気になったものがあった。そのメニューだけ『限定1食!』と書いてあったのだ。

 さきほどのかなり美人のおねえさんを呼んでこのメニューについて訊いた。

「あのー、これなんですか?」

「それは当店唯一の限定10食ではないメニューです。その日の仕入れ状況によって変わるので、今日は1食分しか仕入れることができなくて。さきほど、注文された方がいまして、今日はもうないんです」

「そうなんですね」

「見てみますか?ちょうど、左斜め前の方たちがそうです」

 そう言われみてみるとそこには若い男女三人が座っていた。



「それどんなメニューなんですか?」

「これか?なんでも、珍しい動物のもつ鍋で熊など10種類も入ってるらしいんだ」

 一瞬、教科書によく載っている拳サイズのものが見えた気がしたがきっと気のせいだろう。熊のもつなんてみたことないし。

 自分はウツボの唐揚げにした。どうやら、動物と言っても魚もあるらしい。このお店にとって、筋肉であればお肉という認識らしい。

 衣はサクサクで、かなりジューシーだった。臭みも特になくかなり新鮮なことがわかる。

 唐揚げを食べたあとはすぐに支払いを済ませ店を去った。




 翌朝、起きてすぐにテレビをなんとなくつけた。

 目が覚め、暇だったからだ。

 ニュースだった。

 画面に映っていたのは行方不明になったという事件の報道だった。単に人が一人消えた程度では悪いがあまりとりあげられないだろう。それで終わるからだ。

 だが、三人も行方不明者がいれば別だ。複数人が行方不明になることはなにかなければほとんどありえない。

 次に出たのは行方不明者の顔写真。

 見覚えがあった。

 昨日、もつ鍋を食べていた三人だ。話もしたし、はっきりと覚えていた。

 最後に目撃証言があったのは昨日のあのお店だった。

 あの三人についてインタビューを受けていたのはあのかなり美人だったおねえさん。

「会計のあとは見送りをしてその後店に戻ったので、それ以外のことは知りません」

 おねえさんの少し右にあの大きな看板があった。そしてそのさらに右に新しい小さな看板が置いてあることに気が付いた。


『本日限定!特製もつ鍋一日三食‼」


 僕はその文字を見てぞっとした。




 *同種間での共食いは異常プリオンの発生が高まり、クロイツフェルト・ヤコブ病などプリオン病になる可能性があるのでご注意ください。(プリオン病にかかった食材も)


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