明の湖畔

@Pz5

真夜中の散歩

 夜の湖畔。

 物皆全てミッドナイトブルーに染まる。


遠い音蟲未だ起きず波の音

我が足音より他になし


起きやるは水面と風と我ばかり

我より他に醒めしものなし


我が夢は現とならず夢のまま

夢も現も波に溶けやる


静寂と一面の蒼黒い影

蒼また深く影も溶けやる


我が手をばすり抜け過ぎき未来をば

未だ胸に残るは残響


輝きも笑顔も何も失せ去りぬ

ただ我が内照らす走馬灯


一切が蕩け混ざりて半透明

模糊と触れ得ぬ波の白


ふと見やる湖畔の向こう舟の影

無明の蒼より出で来る


黒なのか判じ得ざりし絹衣

ただ此岸に向けし笑みと闇


黒き衣の下白き顔

何を映すも定めざる眼孔


ミッドナイトブルーより抜けいでぬ

黒き頭巾と黒き濡れ髪


その髪の波打つ様は湖の水面

艶やかに縁取る白い貌


その笑顔かつての想い走馬灯

我自我失いて夢に濡れ


黒頭巾棹掲げ見せる徴は

暖かくもあり悪寒も得


夜の蒼に灯す徴はうっすらと

ただ喇叭なり舞う紙吹雪


湖に映る月も群雲も

現皆隠す夜のネオン


濡れ髪に覆われし顔髑髏

太鼓とシンバル響く讃歌


聞き慣れぬされど身揺する鼓の拍子

竪琴笛の音喇叭に声


小舟の鼓手長諸手高らかに

指揮杖掲げ鈴鳴り猛る


シャンシャンと刻む混合9拍子

波打つ水面もピノノワール


夢に出た仮城の安穏眼前に

天人鼓を打ち極彩舞い


空の色照らしてプルシャンブルー

輝くパープルにネオン浮かび


打ち鳴らす太鼓かき鳴らすはキタラ

古代の楽団皆々髑髏


うち立つ波は爆ぜる死人の踊り

皆一切が狂乱の彼方


喉を潤す葡萄酒は乾き齎し次の杯

餓鬼の喉


髑髏に呑まれし酒は皆入る先皆空の胸

ただ無に満ちる


我が胸の虚無叫喚に満たされて

業火と燃ゆる杯を喫む


地獄煉獄も眼前にありて有頂天

金輪際無間


唯一切酔えぬが故に踊り得ぬ

水面鎮まり闇戻りぬ


されどその闇の内にぞ光在り

我ただその一条観じぬ


須臾の後コバルトブルー空転じ

射し煌めく粒は鮮やかに


湖畔の夜の夢胡蝶との戯れ

唯水面に浮かぶは我が体




 仰向けに見た蒼と黒が爽やかだった。

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