37 はじめてのパパ活

37 はじめてのパパ活


 まったく予想外の単語が飛びだしたので、ミックは自分でも知らなかったツボを突かれたような、すっとんきょうな声をあげていた。


「ぱ……パパ活っ!?」


 『パパ活』といえば、ミックの前前世の単語である、

 しかも性的な意味を含む単語なので、ミックはドギマギしてしまった。


「た……食べるって、そういう意味だったの!?」


「ハァ? なに言ってるし? パパ活の意味、知ってるし?」


 ウイリーの言う『パパ活』とは、『パパを探すための活動』の略らしい。


「あーしのパパ、この山に住んでるし。ガキんちょの頃からずーっと探してるんだけど、ぜんっぜん見つからなくて……」


 長い睫毛を寂しそうに伏せるウイリーに、ミックは同情してしまった。


「なんだ、そういうことだったのか……。なら、僕も手伝うよ!」


「えっ、マジ?」


「うん! なんでもするよ! だって、友達が困ってるんだから!」


「マジで!? うぇーいっ! サンキュー、ミック!」


 ウイリーはいつもの元気を取り戻したようで、ミックも嬉しくなる。


「もちろんロックも手伝ってくれるよね!?」


 しかし返事はない。

 ウイリーの胸元を見ると、ロックは谷間に埋もれたまま、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ミックたちは宝箱に戻り、ウイリーに再び掴まれて巣から飛び立つ。

 少し離れた、といっても歩けいて向かえば何日もかかりそうな、険しい山々に囲まれた岩山へと降りていった。


 そこは火山のようだったが、火口に近づいても熱くない。

 すでに休火山にになっているようで、広大な縦穴のような火口からさらに降りていくと、さらに広い空間に出た。


 まるで球場のような広さがあったが、一面に広がっているものにミックは目を見張る。

 そこにあったのはマグマの赤ではなく、財宝の黄金であった。


 ウイリーは球場の天井付近にある張り出した岩棚に着地すると、見渡す限りの黄金の海を眺めまわす。


「……この黄金を、ぜんぶあーしのものにするし……!」


「うわぁ……すごい財宝だね……。こんなの、お家に入らないんじゃ……?」


「家に入らないんだったら、山ごと黄金で飾ればいいだけだし」


 壮大なる野望を口にするウイリーは、さながら女海賊王のよう。

 しかし夢から覚めたように、チッと舌打ちする。


「でもそのためには、アイツをなんとかしなきゃだし」


「アイツ……?」


 ミックはウイリーの視線先を追う。

 その先にあったものに、思わず「わっ」と声をあげそうになる。

 財宝の輝きに同化するように、巨大なドラゴンが横たわっていたのだ。


「あれがここの財宝を守ってる、ゴールド・ドラゴンだし」


「ご……ゴールド・ドラゴン……!」


 『ドラゴン』、言わずと知れた最強モンスターである。

 色によって強さや特性は異なるが、ゴールド・ドラゴンといえば最強モンスターのなかでもさらに上位ランクに属する。


 たったい1匹のハーピィなど、蚊のように落としてしまうだろう。

 そしてミックもシンラの頃ならいざしらず、ゾウにノミが挑むようなものであった。


「なにか、いい手はあるの……?」


 ミックは不安でいっぱいだったが、ウイリーは「トーゼンだし」と大きな胸をポヨンと叩く。


「ミックとロックがオトリになって、やられてる間にあーしが財宝をいただくし」


 この作戦には、さすがのふたりも総毛立ってしまった。


「ええっ!?」「にゃっ!?」


「そんなのムチャだよ!? だいいち、すぐやられちゃうよ!?」


「まあ時間稼ぎくらいにはなるっしょ」


「ならないよ!? それにウイリーお姉ちゃんが財宝を盗ったら、ドラゴンはお姉ちゃんを追うと思うよ!?」


「すぐ飛んで逃げるから大丈夫っしょ。あーし、飛ぶの得意だし。とりま、行けばなんとかなるっしょ」


 ウイリーは宝箱を抱え、岩棚から落とそうとしていた。

 ミックは足を踏ん張り、ロックは足の爪を爪立てて抵抗する。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!」「にゃにゃっ!」


「あっはっはっはっはっ! さっきまで抱っこされるのをあんなに嫌がってたのに、今は抱きついてくるし! なんか超楽しいんですけどぉーっ! うりうり!」


 ミックとロックにもっと抱きついてもらいたくて、恐怖を煽るように宝箱を揺らすウイリー。


「や、やめてーっ!」「うにゃーっ!」


 とうとうふたりは宝箱を飛びだす。

 ごはんが待ちきれない子猫のようにウイリーの身体を這い上がり、顔にひしっとしがみつく。


 ミックはふと、ゴールド・ドラゴンの背後にある壁に文字が彫り込まれていることに気づいた。


「ま……待って、ウイリーお姉ちゃん! なにか書いてあるよ!?」


 ウイリーに肩車されたまま上から覗き込んでみると、そこには『ゴールド・ドラゴンより人間たちへ』というタイトルとともに、こんなメッセージが。


『ワシは退屈しておる。ワシを驚かせることができた者は、すべての財宝をくれてやろう』


 ウイリーは「ふぅん……!」と色めきたつ。


「ビックリさせるだけでお宝がもらえるなんて、超太っ腹じゃ~ん!」


「でも下のほうに、驚かなかったら命をもらう、って書いてあるよ」


「よし、作戦変更だし! ここから飛び降りて、アイツを驚かせてやるし!」


「待って! あの財宝の量からすると、ゴールド・ドラゴンはかなり長生きしてるんじゃないかな!? それに驚かせたら、って条件を付けてるってことは、驚かない自信があるんだと思う!」


「な~る、たしかにそうかも。じゃあ、どうすればいいし?」


 ミックはウイリーの右肩に腰掛け、「う~ん」と考える人のポーズを取った。

 ロックは左肩で、同じポーズを真似している。


 ポクポクと考えていたが、しばらくしてチーンと閃いた。


「そうだ……! あのスキルがあれば……!」

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