一度は言ってみたかった筋肉マッソー

藤泉都理

一度は言ってみたかった筋肉マッソー




 茶色の砂浜の上、荒波の前に立つのは小柄な少女と、腹筋が割れている超マッチョなシロイルカだった。

 春一番による海上の大しけで多発している海難事故の救助要請が来たのだ。


「準備はいいかい?」

「うん」


 少女はシロイルカに跨り片腕を天高く掲げて唱えた。

 一度は言ってみたかった筋肉マッソー、と。

 瞬間、隕石衝突に似た激しい音が何度も轟く度に、小柄の身体に筋肉が付加。音が鳴り止んだ時には、筋肉モリモリの海中魔法使い少女へと変身を遂げたのであった。


「行くよ」

「うん」


 シロイルカは少女の変身が終わると、大きく飛び跳ねては荒波へと突っ込んだ。

 少女は口と鼻を筋線維で覆い、そこから酸素を取り入れて海中で呼吸。救助要請者の探知はシロイルカの担当であったが、念の為にと周囲を警戒した。

 只人ならば、シロイルカの超高速ドルフィンキックの速度、水流、水圧に耐えきれず、シロイルカの背から海原へと放り出されるどころか身体の筋肉も骨もバラバラになるほどの衝撃を受けるのだが、へっちゃらな少女は微動だにしていなかった。


「ホホジロザメの群れの中だよ」

「任せて」


 テレパシーで意思疎通を図った少女は、シロイルカの背に立って前方から迫って来るホホジロザメの大群に、マッソーポーズを披露した。


 ダブルバイセップス・フロント。

 ラットスプレッド・フロント。

 サイドチェスト。

 ダブルバイセップス・バック。

 ラットスプレッド・バック。

 サイドトライセップス。

 アドミナブル・アンド・サイ。

 モスト・マスキュラ―。


 続けざまのマッソーポーズにうっとりするホホジロザメたちの合間を縫って行くと、救助要請者たちを発見。

 少女は衝撃に耐えられるようにと筋繊維で気絶している救助要請者たちを包むと、シロイルカに砂浜に戻るように伝えた。






「お疲れ様」

「またね」


 何十件もの救助を終えた少女は魔法を解き、シロイルカに背を向けて歩き出したのであった。











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一度は言ってみたかった筋肉マッソー 藤泉都理 @fujitori

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