第13話 チケットの行方(2)

 ストディウム学園に登校したテオドールは、早速エリシャを捜した。だが、


「見つからねぇ!」


 隣のクラスだというのに、まったく姿が見えない。本日出席しているのは他の生徒から確認済みだが、休み時間に教室に行っても、昼休みに思い当たる場所を巡回しても、彼女に出会うことが出来なかった。


「なんでいないんだよ!?」


 不可解さにテオドールは頭を抱えるが……。なんてことはない、エリシャが巧みに逃げ回っているせいだ。

 テオドールとの遭遇率の高い地点は、エリシャだって熟知している。


(お顔を見ると辛くなるから、なるべく視界に入らないようにしよう)


 公爵令嬢の危機回避能力は野生動物並みに優れていた。

 誰に――お互いにさえ――も知られていない逃走&追跡劇は、授業終了時間まで続き……、


「やっと帰れるわ」


 エリシャは鞄を持ち、重い足取りで教室を出る。

 今日はやたらとテオドールの気配を感じ、いかにその場を自然に離れるかに腐心して疲れてしまった。お陰で想い人に遭遇せずに済んだのだけれど。でも……、


(顔も見れないのは寂しいわね)


 自分から避けていたくせに、身勝手な感情が湧く。

 時が経てば、この胸の痛みも消えるかしら? 俯いてとぼとぼと廊下を歩いていると、前から「あ!」と声がした。顔を上げるとそこには……銀髪の美男子が立っていた。


「テ、テオドール様……」


 思わず名前を呼ぶと、


「エリシャ嬢……」


 彼も上擦った声で彼女の名を口にする。

 放課後になり、エリシャの追跡を諦めて帰ろうとしていたテオドールは、偶然にも気を抜いていた彼女と出会ってしまったのだ。

 正面から歩いてきた彼に進路を譲ろうとエリシャは一歩右に避けるが、テオドールも左に避けてしまって進めない。焦ったエリシャが今度は左に避けるが、テオドールも道を譲ろうと右に避けたので、やっぱり通せんぼう状態だ。

 二人は顔を見合わせて、ぷはっと吹き出す。何気ないやり取りが楽しすぎて、


((やっぱり好きだな))


 とお互いに実感してしまう。

 でも、この気持ちは封印すると決めたのだ。


「テオドール様、ごきげんよう」


 淑女のお辞儀をして通り過ぎようとする彼女を、テオドールは咄嗟に「エリシャ嬢!」と引き止めた。


 振り返った彼女に、


「今度の休み、空いてるかな? 芝居のチケットが二枚あるんだ。それで、もしよかったら……」


 言いながらポケットのチケットを探るが、焦って上手く取り出せない。

俯いてもたもたしているテオドールに、エリシャは翡翠色の瞳を大きく輝かせて――


「行きます!」


 ――両手を胸の前で合わせて大きく頷いた。


「何時にどこで待ち合わせしましょうか!?」


「え? あ? ええと……あとでうちの執事に連絡させるよ」


「はい! では、今度のお休みの日を楽しみにしてますね!」


 鼻歌混じりにスキップしながら、エリシャが去っていく。

 残されたテオドールは、


「……あれ?」


 ようやく取り出せた二枚のチケットを手に首を傾げた。

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