理想の筋肉【BL】KAC20235

大竹あやめ@電子書籍化進行中

第1話

「ふっふっふ……」


 俺は今朝、駅で手に入れた雑誌を眺めて、ニヤニヤしていた。これは昼休みにじっくり見るって決めてたから、早く見たくて待ち遠しい。


「何ニヤニヤしてんだ、気持ち悪い」


 来たな遠藤えんどう。大体俺がニヤついてると、邪魔してくるんだ。俺はこれからの貴重な時間を潰されたくなくて、遠藤を睨んでシッシッと手を振る。


「今から大事な時間。邪魔すんな」

「まぁまぁそう言うなよ」

「ちょ、何で隣に座るんだっ」


 いくら邪険に扱っても、遠藤は気にした風もなく、わざわざ椅子を寄せてまでピタリと肩を付けて座ってくる。


 そして耳に口を寄せて小声で囁くのだ。


「グラビア一緒に見ようぜ?」

「違う! これはプロレス雑誌!!」


 ガタッと勢いよく立って、ムキになって大声で言うと、遠藤はくすくすと笑っていた。くそぅ、やられた……!


「あれだろ? 若手ヤングライオンから海外修行なしにチームに加入した選手、載ってんだろ?」


 しかもお目当てまで見透かされてるし。


「……からかうだけなら向こう行けよな」

「分かった分かった。一緒に見ようぜ」


 図星でしおしおと勢いが萎れていく俺に、遠藤はよしよしと頭を撫でてきた。俺はその手を払う。ガキ扱いするなっての。


 そして結局、二人でその雑誌を見るのだ。ページをペラペラめくっていると、お目当ての選手が載っているページにきた。


「……こういう身体が理想なのか?」

「……まぁ。体型のうつくしさもだけど、戦い方とかもそのひとの魅力だし」

「……俺も筋トレしよっかなー」


 俺は思わず遠藤を見る。上から下まで。


「……うん。遠藤なら体格いいし、筋肉付いたらカッコイイと思う」


 俺の推し選手には負けるけど。


 そう言うと、遠藤は一瞬虚をつかれたように止まり、それから俺にも分かるくらい赤面していた。な、何で? 何か変なこと言ったか俺?


「ああうん。……頑張るわ」

「お、おう?」


 何か変な雰囲気だけど、俺は何をしたのか全くわからないまま、意味もなくページをめくる。


「なぁ」


 遠藤が低い声で尋ねてきた。


「俺が筋トレ頑張って、お前の理想に近付いたら……俺の話聞いてくれるか?」

「え? それってだいぶ先になるだろ? 今じゃダメなのかよ?」

「だっ、だめだっ。今はダメ! 心の準備が!」


 なぜか逃げ腰になった遠藤が珍しくて、俺は遠藤にずい、と迫る。いつも俺に横柄な態度をとってるからだ。何がなんでもその話とやらを今、聞き出してやる。


「分かった! 分かったから! 今日の帰りに! な!?」


 観念したのか遠藤は迫る俺から、自分を両腕で庇いながら叫んだ。よし。

 今日の帰りだと言質を取ったので、俺は遠藤の肩を軽く叩いた。


 遠藤は変な声を上げて「勘弁してくれ……」と呟いている。よく分かんないけど、いつもと立場が逆転して楽しい昼休みだった。


 そして帰り。俺は遠藤の話を聞いて卒倒しそうになったことは言うまでもない。


[完]

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