細い腕は、そのままに(KAC20235)

ミドリ

筋肉

 俺の筋肉は脆弱だ。


 いくら食べても太らない。筋肉は脂肪がないとつかないらしい。つまり、ひょろひょろ。


 制服の半袖から覗く生白い腕に力を込め、力こぶを作ってみる。……うーん。


 高校までは、駅から緩やかな坂道を延々と登っていく。前を歩く男子の背中は、同じ高1なのに大人と遜色ないしっかりとしたものだ。羨ましい。半分でいいから分けて。


 ハア、と溜息を吐くと、突然そいつが俺を振り返った。


 アイドルみたいな顔が、俺を見てにっこりとする。しまった。


「ユキちゃんおはよう!」


 そいつ、立花たちばなは坂道を戻ってくると、ガバッと俺の肩を抱いた。立花の方が全然背が高いから、カツアゲされてる様に見えるかもしれない。


「触んな、朝から暑苦しい」


 身体を捩ったら、今度は前からも腕が回される。


「ユキちゃんが冷たい」


 悲しそうな目で言われても、知らん。


「立花、お前な。そのユキちゃんてやめろ。幸村って呼べ」

「やっぱり冷たい! 立花じゃなくってさとるって呼んでって言ってるのに!」

「……ハア」


 高校で知り合った立花は、俺にだけやけに距離が近い。いつもくっついてくる。暑い。


「で? 腕の筋肉がどうしたの?」

「お前いつ見てたんだよ」

「え? 面白いからずっとチラ見してたけど」


 いつの間に。


 俺が固まっていると、俺の二の腕を触り出した。やめろ。


「……細い腕。折れちゃいそう」


 ふふ、と笑われて、俺は苛つく。


「絶対鍛えてやる、みてろ」

「え、だめ」

「あ?」


 立花を睨むと、立花は俺の耳元に口を寄せた。


「次の休み、俺の為に女装するのに」

「てめえ……」


 先日、とある賭けに乗った。そして、あっさり負けた。


「デート楽しみだね」

「く……っ」


 何が楽しいのか、女装した俺と水族館デートするんだそうだ。


「頭おかしいぞお前」


 俺の言葉に、立花は満面の笑みになる。


「うん、ユキちゃんに狂ってる」

「は……」


 俺の高校生活、どうなるんだろう。


 再び、溜息を吐いた。

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