第二話

 亜美、そして藤澤だけでなく由貴までもがシンクロするほどの驚きの事実である。

 さっきまでばてていたコウだが次第に饒舌さを取り戻しカメラ写りも気にしながら身振り手振りで語り始める。

「乗り移りや転生はこの世では様々あるが……筋肉というピンポイントに乗り移るとは」

「き、筋肉だなんて……藤澤くんらしいわ。筋トレ好きだし」

 たしかに藤澤は筋肉質だ。登山のためにも筋力も必要だろう。

「脳や神経とかもできてしまうのか、それだと」

 由貴も興味津々だ。


「まぁそうなると可能な域になるがただの筋肉ではない、愛する人の筋肉に乗り移りというのはすごいことだ」

「ありえない、そんなのありえない! 移植したわけでもないのに」

 亜美は体を動かしながら狼狽えるが横で藤澤も同じように狼狽えてる姿はコウも由貴も面白く感じる。


「即死した藤澤さんがすぐ意識不明になった亜美さんの筋肉に乗り移って体を動かし安全なところに移った……まぁ確率的には奇跡的なものでしょうね、救いたい一心に筋肉に……」

 すると亜美は笑った。

「藤澤くんったら……本当あの人は早とちりで突拍子もない人なんです。筋肉に乗り移るって」

 次第に涙が溢れた。


「でも……藤澤くん除霊したら……」

 すると遠くから声がした。


「亜美ー! お待たせぇー」

 同じように登山の格好をして現れたこれまた体格の良い男。


「桐生さん!」

 桐生と呼ばれた男は亜美の横に立った。


「彼は私のフィアンセでもあり、あの事故で助けてくれた山岳救助隊さんです」

「はい……慰霊碑も場から山岳救助隊やボランティアの方で建てました」


 なるほど、とコウ。

「結婚式前に藤澤くんに報告したくて……あ……」

 亜美はコウに耳打ちする。横にいる藤澤も。

「藤澤くんが筋肉に乗り移ってることは内緒ですよ」

「かしこまりました。除霊はせず、残しておきましょう」

「ありがとうございます」

 桐生は不思議そうな顔をしていた。


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