深夜のマリオネット

黒鉦サクヤ

深夜のマリオネット

 零時を過ぎた午前一時。

 持ち帰った仕事を半分ほど終え、大きく伸びをしながら玄関を出る。疲れた頭では寝付きが悪いため、少し散歩をするようにしていた。

 頬を刺すような冷たい空気が、疲れた頭をスッキリとさせる。明日は休みだから最後まで終わらせなくてもいいなと考えつつ、ふと視界の端で動くものを見て、そちらへ視線を向けた。

 満月の下、目と鼻の先にある公園の真ん中で踊る人影がある。初めはストリートダンスの練習をしているんだろうと思ったが、もう嫌だ、という声が聞こえ気になった。誰かに強要されて踊っているんだろうか。俺のいる位置からは踊る人物しか見えない。

 それに、よく見ればストリートダンスではない。関節ごとに糸を括られた操り人形のような動きだった。人間を操り人形にするなんて、そんな奇天烈なことがあるのだろうか。

 あやしいことには関わらないという心情ではあるが、さすがに見てしまったのにこのまま無視して帰宅するのも気分が悪い。それにそういう動きの練習かもしれないしな、とかすかな望みをかけ、何もなければそのまま帰ればいいと近づいた。

 木の影から様子をうかがうが、俺は声を上げそうになる口元をおさえ、固まった。

 この光景は現実なのか。

 地獄のような姿を見た。操り人形のように踊らされていたのは、男だった。関節ごとにストローほどある太さの糸を通され、そこから血を流している。遠目ではその糸も、糸が繋がる持ち手も見えなかっただけだった。

 男の頭上高くに持ち手があり、それが動くたびに男の体が揺れる。その度に、男からあがる悲鳴。現実離れした光景に吐き気がこみ上げた。

「深夜のショーへようこそ」

 耳障りな笑い声が耳元で聞こえ、震えながら振り返る。次の瞬間、ぐるぐるとした目の異形が糸を放ち、俺は激痛に崩れ落ちた。

 俺の体は痛みを無視し勝手に動き出すと、先程の男マリオネットの隣でステップを踏んだのだった。

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