第11話 通行止

 伊達の病院の近くのそば屋で愛玲奈あれなはあんかけうどん、凪沙は鍋焼きうどんを食べ身体を温め再度ヒッチハイクに挑戦。二時間の奮闘の結果、函館直行の大きなトラックを停車させることができた。

 いかついトラックから顔を出したのは陽に焼けた丸い目と丸い顔をしたどこか人好きのする50代の女性だった。


「あら」


 そう一言言うと女性は少し車をバックし彼女たちを車に招き入れた。


「どっか行きたいの?」


「えっと、わたしたち大学のサークルのイベントでヒッチハイクをしています。函館まで行きたいのですがどうでしょうか」


「へえ、この車ちょうど函館行くところだから。よかったら乗ってって頂戴。あたし退屈してたんだ」


「わあっ、本当に助かりますぅ」


 このトラックは収穫されたばかりの冬大根を函館まで運ぶのだと言う。


「こんな大きなトラックで、ですか?」


「そ、積み荷の量はスカスカだけどね。不作だったみたい」


「そうなんですか……」


 女性の明るさと気さくさのおかげもあって、車内での会話は朗らかなものになった。男相手だと臆することも多い愛玲奈あれなも会話に混ざってくる。三時間もあれば函館に着けるはずだった。


 一時間ほど走った頃だろうか、女性がトイレ休憩を取りたいと言い出したので殺風景なパーキングエリアに停まる。三人でトラックを降りてトイレに行ったが、女性だけが帰ってこない。凪沙と愛玲奈あれなは二人で女性の帰りを待つ。どんよりとした雲が重たくのしかかり二人は強い寒風に吹きさらされる。誰もいない駐車場で世界に二人しかいないような心細さを覚える。愛玲奈あれながきゅっと凪沙の袖を掴むと凪沙は愛玲奈あれなの手をしっかりと握った。消えてしまわぬように。

 五分ほど遅れて女性が深刻な顔でトラックに戻って来た。


「このすぐ先で大事故があって通行止めになってるって」


「それって、どうなるんですか?」


 凪沙と愛玲奈あれなに不安が走る。女性は困惑混じりの苦笑いをして言った。


「どうもこうも通行止めが解除されるのを待つしかないね。普通並んで待つけどどうせだから観光してく?」


「観光? ここでですか?」


 見晴らしはいいが殺風景なここにどんな観光地があるんだろう。


「連れてってあげるよ。行くかい?」


「ええ、もしよろしければ」


 女性に連れられたのは森と果樹園に挟まれた小道だった。その小道を抜けるといきなり視界が広がる。この寒さでは誰もいないがピクニックにちょうどいい丘陵、キャンプ場、パークゴルフ場などが広がっていて広々としている。


「夏に来たら気持ちよさそうですね」


「楽しそう」


 二人は自分たちだけでしたキャンプを思い出していた。

 そのあと広々とした緑地の片隅にある大きな建物に入る。そこには多くの子供用施設があり、その片隅に軽食コーナーがあった。


「さっ、もうここでしか食べられないから大目にしっかり食べてくんだよ。このあといつ解除されるか判らないんだからね」


 と女性が言うので凪沙はポークカレーの大盛りにライスコロッケを乗せてたべた。愛玲奈あれなは月見うどんの大盛りを苦しそうな顔をしながらどうにかこうにか完食した。女性はかき揚げそばの大盛りにライスコロッケをトッピングして食べた。ここの眺望はよく、湖を見下ろしながらの食事は気持ちがいい。

 さらにはすぐそばの丘の駅でお菓子を大量に買いこんだ女性はようやく満足したようで、もう一度トイレに行った後トラックに戻る。


「じゃあそろそろ行こうかねっ」


 とわざとらしく陽気に発車するもすぐ渋滞に巻き込まれた。


「あとは通行止め解除までどうやり過ごすかだけど、あんた達ならどうする?」


 にやりと挑戦的な笑みを浮かべた女性に凪沙は不敵な笑みで答えた。


「カラオケはお好きですか?」


 凪沙はスマホを取り出す。


 そのあとの車内はカラオケルームと化した。凪沙がadoを熱唱すれば引っ込み思案な臆病者の愛玲奈あれなが十八番のヘヴィメタバンドMetallicaのEnter SandmaやMaster of Puppets、The Unforgivenなどを激唱する。そのいずれにも女性は歓声を上げて大喜びだった。その女性は80年代の歌謡曲をよく歌う。お菓子を食べドリンクは控え目に、女性たちだけのカラオケパーティーは三時間続いた。

 車列がゆっくりと動き出すとパーティーも終わりだ。車は目標地点のインターチェンジへ向かってまっしぐらに走る。


◆次回 第12話 函館到着

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