【KAC】深夜の散歩で露出狂の女と出会った話

斜偲泳(ななしの えい)

第1話

 高校生の谷中啓はその日の夜も遅くまでテスト勉強を行っていた。


「げ。コーラないじゃん」


 啓にとってコーラは頭のガソリンだ。これがなければ勉強は捗らない。

 集中力も切れてきたので気分転換も兼ねて、少し遠くのコンビニまでコーラを買いに出かける事にした。


 露出狂に出会ったのは、ひと気のない寂れた帰り道での事だった。


「………………」


 突然の事に言葉も出ない。

 相手は若い女だった。

 と言っても、完全な裸ではない。

 顔は黒いヒジャブに覆われて、目元だけが僅かに覗いている。

 上はだぶっとした前空きのパーカーで、ジッパーが全開になって肩で羽織るような形になっている。

 中は裸で、ツンと上を向いた大きな胸や視線を吸い寄せるピンク色の小さな的が丸見えだった。

 下も裸で、むっちりとした太ももやその間の薄い茂みが露になっている。

 足元は走りやすそうなランニングシューズだ。

 恐怖はなかった。困惑と驚きと誤魔化しようのない思春期の男子の悦びがあるだけである。


 実の所、啓はこの状況を予想していた。

 最近この辺りで若い女の変質者が出ると言う噂は知っていたのだ。

 わざわざこんな遅くに散歩に出かけたのはあわよくばという思いもあった。

 まさか本当に出くわすとは思っていなかったが。


 なんにせよ、啓の二つの眼はこの奇跡的な光景を見逃すまいと上に下に迷いながら、美しき女の秘宝を焼き付けようと躍起になっていた。


「……あたし、綺麗?」


 時間が凝縮されたような沈黙の後、露出女が僅かに震える声で尋ねた。


「…………綺麗です」


 無意識に答えると、啓は我に返った。


「――じゃなくて、なんなんすかあんた」


 危うく舌がもつれそうになった。興奮によって心臓はバクバクと跳ね、顔や身体は熱くなり、短パンの下では彼の相棒が内心の制止を無視して怒張しかけている。


「見ての通り露出狂だけど」

「それは見れば分かりますけど……」

「君こそ、驚いたり逃げたりしないの?」


 指先で弄ぶように女が問う。


「それは、だって……」


 啓は答えに窮した。そうするのが普通なのだろうが、そんな気にはなれなかった。普段から勉強ばかりで女子に無縁の啓である。ムッツリスケベという事もあり、出来る事なら一秒でも長く彼女の裸を眺めていたいというのが本音だった。


「エッチなんだ」


 嘲笑うような声音に心臓が跳ねた。

 奇妙な罪悪感と興奮がズキズキと相棒を刺激する。


「ち、違いますよ!」

「しぃっ。静かに。近所迷惑だよ」


 ヒジャブで隠れた口元に人差し指を立て、悪戯っぽく女が片目を瞑る。


「す、すみません……って、なんで俺が謝らないといけないんですかっ」

「君が勝手に謝ったんじゃん」


 くすくすと女が笑う。これでは完全に露出女のペースである。


「……とにかく、悪いのはそっちでしょ。そういうの、やめた方がいいと思いますよ」

「そういうのって?」

「だからその……露出狂みたいなのですよ」

「みたいじゃなくて露出狂」

「なんでもいいですけど、とにかく、やめた方がいいですって。危ないですし」

「それがいいんじゃん」


 露出女が誇るように胸を張り、二つのたわわがぶるんと揺れる。

 その光景に否応なく目を奪われて吊り上がる口角を隠すように、啓は口元を手で覆った。


「変態かよ……」

「変態だよ。君もそうでしょ?」

「一緒にすんなって!」


 照れ隠しで叫ぶと、再び女が人差し指を立てる。

 啓は慌てて口を塞ぐと、ジト目になって女を見返した。


「とにかく、俺はそういうの興味ないんで」

「嘘ばっかり。逃げないし、こんな格好の怪しい女とも普通に話してくれるし、そこだってめちゃくちゃおっきくなってるじゃん」


 つんつんと女の白い指先が啓の相棒を指さす。


「ッ!? これは、だって、生理現象だし……」


 思わず啓は前を押さえた。血気盛んな十代の啓である。どれだけ必死に抑えようが、裸の女を前にしたら相棒は彼の意思とは関係なく怒張してしまうのだ。


「隠さなくたっていいじゃん。一皮むけば人間なんかみんなエッチな事が大好きな変態だよ。君だってあたし達がどうやって生まれてきたか知らないわけじゃないでしょ?」


 いやらしく目元で笑うと、女は輪にした指の間にスコスコと人差し指を突き入れる。


「それとこれとは話が別だろっ」

「そうでもないと思うけど。それよりさ、君、これからちょっと時間ある?」

「……なんでそんな事聞くんですか」

「露出狂のお誘い。君も一緒にやってみない?」

「……いやですよ。勘弁してください」

「今、ちょっと間があったね」


 啓はギクリとした。


「……そんな事、ないですけど……」

「興味あるんでしょ?」

「……ないですって。あるわけないでしょ、そんな異常な事……」

「異常って、そんな言い方ないじゃん」


 露出女はシュンとして、左のたわわを押さえた。


「……ごめん」


 罪悪感に襲われる啓に、女がネタ晴らしをするように両手を広げる。


「うっそ~ん」

「帰る」

「待ってよ! 冗談!」


 振り返る啓の腕に女が縋りつき、たわわな胸が触れる。

 それだけで啓は金縛りにあったように動けなくなった。


「ねぇ、ちょっとだけ、試すだけ! せっかくこうして出会えたのに、なにもなしで別れちゃうのは勿体ないでしょ?」


 ナニモナシデワカレチャウノハモッタイナイデショ?


 その言葉が弾幕のように啓の頭を飛び交った。

 では一体、一緒に行ったらナニがあるというのだろうか?


 啓だってバカではない。

 一時の下心に負けてこんな怪しい誘いに乗って良いはずがない。

 だから啓は言ったのだ。


「……まぁ、ちょっとだけなら」

「やった~! 安心して。こんな時の為に、初心者向けの良い場所知ってるんだ」


 ぽよんぽよんと啓の腕の上で胸を弾ませて露出女が嬉しそうに飛び跳ねる。

 さもありなん。

 女体の神秘を前にすると、男はみ~んなバカになってしまうのである。



 †



 露出女に連れられてやってきたのは近所の寂れた公園だった。

 それなりに広く、周りは木々に囲まれて人の目もない。出入り口も複数あり、隠れられそうな場所も豊富である。


「じゃ、早速脱いでみよっか」


 ぽつんと立った街灯の下、唐突に露出女が言った。


「……いや、やっぱこんなのおかしいでしょ」

「なに? ビビっちゃった?」

「……はぁ? 別に、ビビってなんかねぇし」


 めちゃくちゃビビっていた。だって無人とは言え野外で裸になるのだ。バレたら大問題で学校にだって行けなくなる。だが、露出女に舐められるのも嫌だ。


「じゃあ脱げるでしょ?」


 そんな啓の内心を見透かすように、ニヤついた声で女が急かす。


「……ちぇ。脱げばいいんだろ脱げば」

「上はいいよ。下だけ脱いで」


 シャツに手をかけた啓を女が制止する。


「……下は、ちょっと」

「恥ずかしい?」

「……ん」


 否定しかけて、啓は素直に頷いた。

 そんな啓を見て、女はうっとりした様子で呟く。


「君、可愛いね」

「はぁ?」


 そんな事、親にだって言われた事がない。


「恥ずかしいのが良いんだよ」


 困惑する啓を無視して女が続ける。


「……俺は別に、変態じゃないし……」

「いいじゃん別に変態でも」


 遠くの池に放るように女が言った。

 その言葉が、不思議と啓の心に波紋を作った。


「あたしだって普通とか真面目とか良い子とか常識とか大事だって思うよ。でも、それだけじゃ疲れちゃうし息苦しいじゃん。たまには変態になって羽目を外したっていいと思わない?」


 真面目な調子で言うと、女は照れ隠しをするように「な~んちゃって」と笑った。


「とにかくさ、脱いでみなよ。そしたらあたしの言ってる事分かると思うから」


 そんな事を言われても、啓には服を脱いでも彼女の気持ちが分かるとは思えなかった。だが、ここで誘いを断れば、なんとなく彼女を傷つけてしまうような気もした。

 それで結局啓は脱ぐことにした。

 短パンを膝まで降ろした所で手が止まる。


「………………ジロジロ見んなよ」


 露出女が正面にしゃがみ込み、膝の上で頬杖を着いて啓の股間を凝視ていた。


「いーじゃん別に。君だってあたしの胸とかあそこジロジロ見てるでしょ?」


 図星を突かれ啓の声が上擦る。


「み、見てねぇし……」

「その言い訳は苦しいでしょ」


 その通りである。

 相手が露出狂なのを良い事に、啓は穴が開く程女の秘部を直視していた。

 だとしてもだ。


「……別にいいだろ。露出狂なんだから」

「それはそれ、これはこれでしょ」


 ピシャリと言うと、女はからかうような口調で言った。


「それとも、君のそれは人に見せられないくらいお粗末君なのかな?」

「…………」


 啓は答えに困った。

 他人の相棒のサイズなんか知るわけがない。

 自分のは平均的だと思うが、尋ねられと自信がなくなる。


「ぁ、ごめん。その、傷つけるつもりじゃなくて。わかんないけど、そういうのサイズじゃないと思うし……」

「ちげぇって! 別に普通だし! 多分……」

「普通じゃなくても平気だって! ほら、おっぱいと同じ! 貧乳と同じで短小もステータス的な?」

「黙れっての!」


 真っ赤になって啓は叫んだ。男同士ならこの程度の下ネタは余裕だが、相手が女では話が違う。


 それにだ。


「大きさの問題じゃなくてその……」


 パンツに手をかけたまま内股になってモジモジする。


「あぁ、勃起の事? あたしは平気だよ? ていうか君、最初からビンビンだったじゃん?」

「だから、黙れっての!」

「しーっ」


 露出女が人差し指を立てる。

 確かに今更の話かもしれないが、そうだとしても起立した相棒を見られるのは平常時の比ではなく恥ずかしい。

 とは言え、ここまで来たら後には引けず、啓は思い切ってパンツをずり下げた。


「おー。やったじゃん」


 パチパチと女が胸の前で拍手をする。

 火照った股間に涼し気な夜風が心地よい。

 同時に、凄まじい解放感と羞恥心、罪悪感がまぜこぜになった奇妙な快感が啓を襲った。

 背筋を駆け抜ける甘い電流にがくがくと膝が揺れる。

 それはまるで、初めての自慰を彷彿とさせた。


「ね、凄いでしょ?」


 快感に震えていていた啓は、女の声で我に返った。


「……まぁ、思ってたよりは」

「澄ました顔しちゃって。そっちの君は大興奮みたいだけど?」


 女の視線の先では、啓の相棒がはしゃいだ犬の尻尾のようにブンブン暴れていた。


「う、うっせぇ! これは……勝手に動いちまうんだよ!」

「そうなんだ? 男の子って面白いね」


 馬鹿にした様子もなく、女は無邪気に笑ってみせた。

 ヒジャブの下に、啓は露出狂に不似合いな可愛らしい笑みを幻視した。

 ブンブンと相棒が勢いを増す。

 隠そうかとも思ったが、どうにでもなれと開き直った。


「そうそう。外で裸になるのは恥ずかしいけど、君の身体には恥ずかしい事なんか一つもないよ」


 褒めるように言うと、下半身だけ丸出しになった啓に女が右手を差し出した。


「じゃ、歩こうか」

「……ぉ、おう」


 導かれただけで手を繋いだわけではない。

 だが、裸同然の女の横をフリチンで歩いているだけで啓は奇妙な興奮を覚えていた。

 時折吹く夜の風が優しく愛撫するように啓の素肌を撫で、気を緩めたらそれだけ達してしまいそうだ。


「気持ち良いでしょ」

「……悪くはない」

「外に出たらもっと凄いよ」

「……それは、ちょっと」


 外という言葉に啓は尻ごんだ。

 まだそこまでの勇気はない。


(まだってなんだよ? こんなのは、これっきりに決まってるだろ!)


 露出狂にそまりつつある自分を自覚して啓は己を戒めた。

 こんなのは間違っている。

 そんな事は言うまでもない事の筈だ。


「わかってるよ。初心者がいきなり外はリスク高いし。今日はとりあえず公園デビューだけ。ね、ブランコ乗らない?」


 突然女が言い出した。


「……乗らねぇよ。ガキじゃあるまいし」

「ガキじゃん。君、高校生でしょ?」

「高校生はガキじゃねぇよ」

「ガキだよ。全然ガキ」

「ガキじゃねぇって――」

「あたしは乗っちゃうもんね~」


 啓の言葉を聞かずに、女がブランコに駆けていく。

 鎖で繋がれた座面に立ち乗りすると、膝を使ってブランコを漕ぎ始めた。

 はだけたパーカーを風に靡かせながら前後に揺れる女の姿は、正直に言って絶景だった。

 下心的ないやらしさは勿論あるが、気持ちよさそうにブランコを漕ぐ女の姿にはある種の神々しさすら感じられた。

 まるで、この世の全てのしがらみ、煩わしさ、常識といった鎖から解き放たれた鳥のようだ。


 羨ましいと啓は思った。

 どうしようもなく羨ましい。

 いつの間にか求める事すら忘れてしまっていた何かがそこにはあった。


「おいでよ」


 ブランコを漕ぎながら女が誘う。


「……わーったよ」


 ぶっきら棒に答えて啓は隣のブランコに立った。

 立っている場所が地面からブランコに変わっただけで、世界が反転したような感覚があった。

 はやる気持ちを押さえて漕ぎ出すと、笑いだしたくなる程の清々しさを感じた。


 楽しい。

 気持ち良い。

 ただそれだけ。


 いつまでもこうしていたい。

 このまま飛び出したら鳥になってどこまでも飛んでいけるような気さえした。


「ねぇ、今、どんな気分?」


 同じペースで揺れながら、隣の女が聞いてきた。


「……最高だ」


 思わず飛び出た本音に、女は一瞬呆気に取られた。

 そして無邪気に笑いだし、言うのだった。


「そりゃよかった!」


 ヒジャブに隠れた横顔に見惚れながら、啓は思った。

 この夜をこれっきりにしたくない。

 その為に啓はありったけの勇気を振り絞った。


「……なぁ、あんた――」

「こらぁ! こんな所でなにをしとるか!」


 野太い声と共に懐中電灯の光が二人を照らした。

 パトロールでもしていたのか、公園の入り口に自転車に跨った警察官が立っている。


「ヤバッ! 逃げるよ!」


 女がブランコから飛び出す。


「ちょ、逃げるってどこに!?」

「家でもどこでも! ほら、早くズボン履いて! お巡りさんはあたしが引きつけるから!」


 女が素早く前を締め、警察官のいる方に近い別の出口に駆けていく。


「ちょ、ま、待てよ! せめて名前を……」

「言えるわけないでしょ! 早く逃げて! 捕まったらおしまいだよ!」


 悔しいがその通りだった。

 啓は近くに持ってきていたズボンを履き、大慌てで反対側の出口に駆けていく。

 ふと心配になって振り返る。


「絶対に捕まるなよ!」

「そっちこそ!」


 背中越しに叫び返すと女は茂みの奥へと消えていった。


「こらぁ! 待たんか! うぉ!?」


 公園の入り口の前に自転車を止めていた警官が柵を乗り越えようとしてひっくり返った。

 この様子なら多分大丈夫だろう。

 そう信じて、啓も夜の街へと駆けだした。


 †


 あの日以来度々深夜の散歩を続けているが、啓が露出女と再会する事はなかった。

 一人で露出行為を行う勇気はない。

 だから啓は、どうにかしてあの女とまた会いたかった。


「……はぁ。一体どこの誰なんだよ……」


 眠たい目を擦りながら、啓は朝の通学路の歩いていた。

 相手は手練れの露出狂だ。身バレのリスクを考えれば、この辺に住んでいるとも限らない。裸はこの目に焼き付けたが、顔と名前は分からない。これでは手掛かりなどないも同じである。

 それでもどうにか見つけたい。

 やがて啓は学校までやってきた。

 校門の前では、真面目で有名な生徒会長が服装チェックを行っていた。


(……やべ)


 今朝は寝坊して髪の毛が寝癖だらけだった。

 これでは間違いなく呼び止められて小言を食らうだろう。

 そう思ったのだが、生徒会長が啓を呼び止める事はなかった。

 それどころか、彼の存在を無視するように視線を逸らしさえした。


(……嫌われてるのか?)


 心当たりはなかったが、どうでもよかった。

 依然は他の多くの男子のように彼女に憧れていた啓だが、露出女を知った後ではどうにも色褪せて見えた。


(……俺も変態の仲間入りか)


 皮肉っぽく思いながら、それならそれでいいとも思う。

 とその時、悪戯な突風が生徒会長を襲い、長いスカートを大きくはためかせた。


「………………マジかよ」


 呟くと、啓はスカートを押さえて顔をしかめる生徒会長へと駆けだした。


「見つけた! あんただったのか!」

「な、なんだ君は!? 私は君の事なんか知らないぞ!?」


 わざとらしく顔を背けて生徒会長が言う。


「嘘つけ! 顏と名前は知らないが、あんたの裸は覚えてる! 右の太ももの付け根にほくろが三つ――おごっ!?」


 その先は彼女の腹パンによって塞がれた。


「おっと! どうした! なに? 気分が悪い? それは大変だ! 保健室まで連れて行ってやろう!」

 


 †



「頼む! あの日の事は誰にも言わないでくれ!」


 校舎裏に連れて来られると生徒会長が切り出した。

 あまりの豹変ぶりに啓は困惑していた。

 こうして正体を見破った今も、露出女と優等生の生徒会長が同一人物だとは信じがたい。


 だが同時に、奇妙な納得もあった。

 真面目な優等生の生徒会長だからこそ、あれ程までに自由を求めていたのかもしれない。

 なんにしろ、啓には彼女の正体をばらすつもりなど微塵もなかった。

 彼はただ――。


「露出狂の事がバレたら私は破滅だ! この通り、なんでもするから!」


 涙目になって拝む生徒会長を前に、啓の中でちょっとした悪戯心が芽生えた。


「へー。なんでもしてくれるんですか?」


 意味深にニヤリと笑うと、生徒会長の綺麗な顔が恐怖で引き攣った。

 けれど目の奥は、何かを期待するような喜びも僅かに宿っていた。


(……やっぱこの人、モノホンの変態だな)


 清々しい気持ちで思いながら、啓は露出女に告げた。


「俺と友達になって下さい。で、また一緒に露出しましょう」

「……へ? 友達? エッチな事じゃなくて?」


 呆気に取られる生徒会長をニヤニヤと見返しながら、啓は彼女に耳打ちした。


「なに期待してんすか。この変態」

「――っ!? ち、違う! わ、私は変態なんかじゃ――」


 真っ赤になって涙ぐむ生徒会長が面白くて啓は笑った。


「別にいいじゃないっすか。一皮むけば人間なんかみんなエッチな事が大好きな変態なんでしょ?」


 あの日言われた言葉を言い返すと、猫を被った露出女は大慌てで言うのだった。


「シーッ! 声がデカいぞ! 学校では私は真面目な優等生で通ってるんだ!」

「知ってますよ」


 素っ気なく言うと、啓は先ほどの要求の答えを聞いた。


 そして月日が経ち――



 †



「ねぇ啓君、次の休みは他県に遠征に行かない?」

「いーっすね。有名な心霊スポットでストリーキングと洒落込みますか」

「罰当たりだね」

「でも好きでしょ、そーいうの」

「モロチン! 流石は啓君、あたしの事わかってるぅ~」


 裸の二人は手を取り合い、今日も深夜の街をさ迷い歩く。

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