第3話 ともだち

「よし、ひとまず荷解きはこんなものかな」

「ありがとうねリノ、手伝ってもらっちゃって」

「大丈夫だよ、エール。私の荷物は少なかったし、ゴロゴロしてるのも違うもの」


 入寮してからしばらくして、私とエールはようやくひと段落つくことができた。

 机や棚はあらかじめ用意されているとはいえ、そこに荷物を一つ一つ詰めていくのが、ちょっとばかし疲れた。

 ただ荷物を並べればいいというわけではない。ここは、国際美立ヴァルガント学園の寮なのだ。雑に並べていいわけがない。

 生徒としての自覚ができているか、寮長の見回りがあるというのだから、気が抜けない。

 そしてそれは、個人の問題だけじゃない。私が仮に寮長の審査に引っ掛かれば、お咎めは相部屋であるエールにも注意がいくだろう。その逆も然り。

 入寮早々に厄介ごとは起こしたくないし、何よりせっかく仲良くなれたエールと険悪にもなりたくない。

 気づけば私は、考える間も無くエールの荷解きを手伝っていた。


「ありがとう、リノは優しいね」

「そう? 友達が困ってたら助けるのが普通じゃない?」

「友達……?」

「え、あ、まだ早かったよね! ごめんね! 気にしないで!」

「あ、違うの! そういうことじゃなくて……っ」

「そういうことじゃなくて……?」


 もしかしたら早とちりしたかもしれない。

 その通りだ。だって私とエールはまだ知り合ったばかり。田舎者の私と友達なんてと思われても仕方ない。

 けれど、私の嫌な考えとは裏腹にエールの表情はどこか綻んでいる。

 ぶんぶんと、まるで自らの言葉を打ち消すように必死に首と一緒に振られる水色。

 私は、その動作に続く言葉を期待せずにはいられなかった。


「友達って言ってくれて、嬉しくて。その───」


 友達だと自分が勝手に思っている相手が、快い返事をしてくれる、って。


「えへへ、ありがとう、リノ。初めての友達になってくれてありがとう」

「私もエールがここに来て初めての友達でよかった!」


 嬉しさに身を任せて、エールの胸元へダイブ。


「わ、ちょ、リノってば急に抱きついてきてきたら危ないよ!?」

「ふふっ、嬉しくてつい」

「あはは……それなら仕方ないね……」

「うん、仕方ない仕方ない」


 危ないよ。そう言いながらも、エールはふらつくことなく私をがっしりと抱きしめる。

 まるでダイブされるのが日常的であるかのように、柔らかくも後ろには動かないような安心感があった。

 でも、今はそんなの関係ないか。

 だって、私とエールは友達なんだから。友達に抱きついて、友達が私を受け止めてくれた。それだけで今は十分。

 慎ましくも柔らかい友だちの胸元に身を委ねて、私は嬉しさをかみ締めた。

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