猫と鼠はずっと、互いに愛し、殺し合う関係／黑蛋白

24：捕まえた。（後編）

　アンドルーはまるで舒璃似の止めに入った声を全然聞こえないかのように、目が恍惚で狂熱的にしゃべり続けた。「俺は元々彼女を追い出そうとしただけ。俺はその下っ端のガイドペアを見たことがあり、レンはいい子だけど、彼は若すぎて、気が弱くて非現実的、天賦人権論や万人平等などの言葉に洗脳された。平等だろうと公平だろうと、このようなゴミは弱者が強者と肩を並べようとするために作り出した名詞、他人の優勢を削減して自分の不足を補うなどの恩知らずだ！貪欲で飽きることを知らない！旧人類が多すぎて、アリの群れがセンチネルの頭上に住み着いていた。そしてアリに頭を影響されたセンチネルは、一番下っ端の存在だ！灰に焼き尽くすべきだ！」男は大きく息を切らして、唾が口元と前歯の割れ目から噴き出し、両目は真っ直ぐに蘇小雅を見つめていた。

「レンは多分元々俺に自分が見たことを教えたいだけだが、しかしホワイトタワーはそのようなゴミに汚染されていることを、俺は知っていた。中の未成年のセンチネルは堕落の道を進んでいき、彼らは死ぬべきだ！死ぬべきだ！しかし俺は彼らに手を出すつもりはなかった……せめてホワイトタワーに居る頃はダメだ」

　何回も止めた舒璃似はアンドルーが喋り続けていることを止められず、最後彼女は表情を変えて、漠然として自分の席に戻って、俯いて携帯電話で誰かとメッセージのやり取りをし、徹底的にアンドルーを構うことをやめた。

「あなたは鄒（ゾウ）夫人ランドリー、そして葬儀場とプライベートの取引をしているのか？」蘇小雅の声は清亮で、まるで不純物のない川水のように、水底が完全に透けて見えた。例え冷たさを帯びていたとしても気持ちよく感じ、アンドルーは楽しんでいるように目を細めて、全身がリラックスしながら背もたれに寄りかかっていた。

「ただ相互利益のある小さなビジネスだ。この世界はひねくれて不公平、利益が少数の者の手に握っていた。俺のようなセンチネルがアリに寄生され、ホワイトタワーに監視されることも、この軟弱な社会に合わせるためだった」アンドルーは歪んだ笑顔を出した。「俺はただ自分の利益を取り戻しただけだ」

「おう、公平は弱者が強者と肩を並べるために作り出したと言ったじゃないか？強者であるあなたは、何故公平を必要とするのか？」蘇小雅の白くて細い指はテーブルに軽く叩いた。ドンドンドン、ドンドンドン。

　アンドルーは目を開けて茫然とした態度を見せたが、彼はすぐに立ち直って、凶悪な表情をして蘇小雅を見つめた。「お前は俺を怒らせようとしている？それとも俺を操るつもり？思いあがるビッチ、それらの軟弱なセンチネルがどうしてガイドに頭を操られるかは知らないが、俺はそんな女々しいゴミと違う。ガイドは所詮センチネルの付属品だ。お前は俺に従うべき、俺を操ろうとするようなバカなことをしてはいけない！」そう言って、アンドルーは深呼吸をした後に口を開けた。

　蘇小雅は彼が何をしたのか分かっていた。例えセンチネル自身が意識しなくとも、彼の情緒はすでに三平方メートルの取調室を埋め尽くした。蘇小雅がわざわざエンパス（empath）で探りを入れなくとも、アンドルーの歪な悪意と欲張りな性欲が感じられた。

　この動きは、アンドルーがすでに歩行者天国広場でやったことがある。監視カメラには音がないが、これはセンチネルが軍隊で習ったスキルで、敵を抑止するために、叫び声でセンチネルフェロモンの威力を拡散し、多くのレベルが低いガイドは高い確率で封じ込められ、センチネルに対する全ての防備と抵抗を崩壊させると何思が説明したことがあった。

　彼は目を細めて、すぐに両面ミラーのほうを見て、それと同時に紺が猛然と飛び出し、アンドルーが叫び声の第一音節を出した瞬間、ライティングのように攻撃を仕掛け、センチネルの筋張った首に飛び付いた。

「あえ！」まるで消音ボタンでもおされたかのように、アンドルーは依然として前歯のない口を開け、その弧度は喉部分の小さなベルが見えるほどに大きかった。彼の生き生きとした顔は少しこわばっては突然萎んで、倒れた巨大な塔のように椅子に倒れ込んだ。

　唾は閉じていない口元からゆっくりと流れ落ちた。凶悪で邪悪な瞳は真っ直ぐで、恍惚として完全に焦点が合わず、ボーっとしてテーブルの上の黎英英を見つめていた……いや、そう言っても正しくない。正直のところ、アンドルーは何も見ていない、彼の意識は急に崩壊して、空洞の視線はちょうどテーブルに向けていた。

「あなたは私の当事者のマインドスコープを攻撃しています！」例えすでにアンドルーを諦めたが、それでも舒璃似は弁護士、彼女は信じられないように無表情な蘇小雅を見つめ、顔が歪んでいた。「あなたは違法尋問を行っています！」

「そんなことをしていません」蘇小雅は平静として答え、気長に説明をした。「舒さんはプロの刑事弁護士であることを知っています当然ながら尋問に関する全ての法規を熟知しているはずです。その中の一つ、もし容疑者が主動的に精神力、フェロモン素お及びスピリットアニマルを使って警察官を攻撃した場合、法律に従って僕らは正当防衛を行うことができます」

「彼はスピリットアニマルを使っていません……」舒璃似は弁解しようとしたが、シルクのように滑らかな毛色を持つロシアンブルーが蛇を咥えてテーブルに飛び乗ったのを見た。

　あれは内陸のタイパン蛇、知られる中で最も猛毒を持つ陸棲蛇。自然界では既にこのような蛇は存在しないから、舒璃似弁護士はこの蛇が何なのかわからないが、蘇小雅はよく知っていた。彼はそういうおかしなものが好きだ。

　紺は蛇の七寸のところを咥えて、例えスピリットアニマルでも、弱点は本物の蛇と同じで、直接にアンドルーのマインドスコープを重く傷つけた。道理で彼は魂が抜けたような姿をして、全てのシールドは蘇小雅に徹底的に攻め落とされた。

「もし彼は自分のスピリットアニマルを攻撃させてなければ、僕は何故この可愛い子を捉えられますか？」蘇小雅は可愛い子という三文字をわざと噛み締めた。彼の表情には何の変化もないが、舒璃似は訳もなく頬が熱くなり、まるで誰かに何回もビンタされたように感じた。

　両面ミラーの向こう側、馮艾保はシュッと口笛を吹いた。

　何思は彼のような驚きと憧れはなく、むしろ少しだけボーっとして、取調室で起きた全てのことを信じられなかった。

　暫くして、「お前が教えたのか？」と彼はかすれた声で尋ねた。

「それはしていない」馮艾保はすぐに身の潔白を装って、相棒が脳内出血して気絶しそうになるのを見て、「私はただ彼に少しの暗示を与えただけだ」と言葉を付け加えた。

「暗示？」何思は椅子に座っているのに、落ちそうな感覚を与えていた、彼の気持ちは複雑、誇らしいのか、驚愕しているのか分からないから、馮艾保にしがみついて答えを探すしかなかった。

「眉ちゃんはこんなにも一を聞いて十を知ることができるとは思ってなかった」馮艾保は微笑んで、相棒に向けて手を広げた。「法律に従ってアンドルー・サンガスのようなゴミを相手に……ごめん、ゴミという言葉を侮辱すべきじゃなかった。とにかく相手の精神力が不安定になった時、または相手が先に手を出して攻撃した場合、私たちは正当防衛ができる以外、私たちは何もできないと教えた」

　何思が胸を押さえて息を切らし、顔の表情はこぼされたソースのように彩りで味が入り混じっているのを見た。

　彼はまた肩をすくめて、無害に見えた。

「私は間違ったのか？それがインターン生に対する義務だと思っていた。ようこそ法治的な社会へ」。

　何思は何を考えているのかはともかくとして、取調室の中の状況は先ほどとは全く違った。

　完全に舒璃似の予想から外れた突発事件に出くわしたのか、一瞬どう反応すればいいのかわからなくなった。彼女はすでにアンドルーの担当をやめるつもりなのか、法律事務所に戻り次第、彼女は多分この人を適当の新人に任せて、生きているのか死んでいるのかなんて、彼女とは無関係なことだ。

　だから蘇小雅は十分に根拠があるように反論したら、舒璃似は潔く手提げ鞄を持って、体を横に向きながらアンドルーに対して「サンガスさん、私は急用があって先に失礼します。後ほど他の人を派遣してあなたの案件を引き継げさせます。それ以上に余計なことを言わないでください」と言った。

　果断で冷酷に放棄したが、意外ではなかった。舒璃似にとって、アンドルーという依頼人も元から良い客ではなく、貧乏で操りにくい。その時、この案件を受けたのもやむを得なかった。

「あなたは……」離れる前に、彼女は振り返って蘇小雅を見つめて尋ねた。

「蘇小雅。まだインターン生です」蘇小雅は礼儀の良い子で、舒璃似が鞄を持って立ち上がったと同時に、彼も立ち上がって見送った。

「あなたのことを覚えました」舒璃似は鮮やかな赤いリップを付けている唇を上げて、それから両面ミラーに向けて会釈した。「馮艾保、何思、また会いましょう」

　別れを告げると言うよりも、宣戦布告をした。女センチネルは言葉を残した後、颯爽に振り返って取調室を離れた時、ポンとドアが大きな声が出るほどに閉めた。

　この時、紺は死にかけている内陸タイパン蛇を咥えてテーブルの片側にくつろいでいた。蛇の体は極めて長く、およそ二メートルがあり、今は捻られた麻紐のように無力になってしまい、アンドルーが呼吸して体を微かに震わしてなければ、蘇小雅はそれが死んだ蛇だと思ってしまいそうになった。

　弁護士がいないし、アンドルーの毒牙も抜かれたし、ではこの尋問もそろそろ終わりを迎えられる。

　蘇小雅は椅子に座り直し、ドンドンとテーブルを二回叩いていた。「アンドルー・サンガス、あなたは黎英英と簡正の礼服に何をしたのか？」

　アンドルーは猫背になり、例え単純なテーブルを叩く音でも、彼をひどく震わせた。恍惚とした目で蘇小雅を見つめ、相手が自分に何を尋ねたのか聞こえなかったようだ。

　蘇小雅も焦ることなく、ゆっくりかつ明確にもう一度質問を繰り返した。今回、アンドルーはようやく我に返ったが、前のような傲慢さは消え去り、非常に協力的に事件の始末を包み隠さずに打ち明けた。

　アンドルーは四年前に家業を受け継いだ後、古着屋は一度閉まる危機に陥ってしまった。理由は簡単だ。彼はセンチネル至上主義者、その上にSGの狂熱的な崇拝者、ミュートとガイド、さらに低レベルのセンチネルを相手に敵意に満ちていた。心底からその者たちを舐めており、商売をしている時も特に隠しておらず、悪辣な態度のせいで客人は徐々に店に来なくなった。何せ古着屋はどこにもあるから、わざわざ自分の気を悪くする必要はないだろう？

　しかしビジネスがなければ、例えアンドルーがどんなに気取っていたとしても、彼にとって生活費は厳しい現実となった。「三文銭で英雄を困らせる」という諺があり、アンドルーは英雄じゃないかもしれないが、彼を困らせたのは三文銭よりも厳しい問題だった。

　この時、彼にチャンスを与えたのが鄒（ゾウ）夫人ランドリー、彼とビジネスの協業関係を結んだ。

　鄒（ゾウ）夫人ランドリーのオーナーは鄒（ゾウ）夫人の息子、一人の低レベルのセンチネルで、アンドルーとは子供の頃からの知り合いでSGマニアであった。長年にわたり、彼は家の唯一のセンチネル、しかし体に障害があったため、レベルはそう高くなかった。ホワイトタワーを離れた後に憧れの仕事を見つけられず、最終的に仕方なく葬儀場で働くことになり、母親が亡くなった後に退職して家のランドリーを受け継いだ。

　鄒（ゾウ）夫人の息子が言ったビジネスは、当初の葬儀場の同僚と協業して、死者の金目の物を窃盗して売ることだ。最初は死者が身に着けている服やアクセサリーなどを剥がして、洗った後に売って金にして、二人の経済的負担を軽減したら、そのような受動的な収入はもう彼らを満足できず、そこで彼らは古着屋の古着ビジネスに目を付けた。

　簡単に言うと、古着屋の服を死者に貸して死装束にすること。この前に馮艾保が推測したと大して変わらなかった。多くの人は亡くなった時に色々な原因で死装束を用意できず、国内では死者に正式な服装を着て、火葬または埋葬させることを流行っているため、アンドルーたちはその隙を突いて、このビジネスを始めた。家族に寄り添っていると宣言し、葬儀場で安く死装束が買える方法を提供したが、実際では、それらは最終的に剝がされて古着屋に返された。

　全体として、これは非常に完成度の高い産業チェーンであった。

　これによって、アンドルーも簡単に小細工することができた。

　黎英英が古着屋で服を買う時、監視カメラでは彼女が話しかけたように見えたが、アンドルーの供述によると、彼は服を包んでいる時にわざと目立たない黄色いシミを翻って、意図的に彼女に見つけさせた。

　少女は彼氏と一緒に忘れられない舞踏会を過ごすため、ホワイトタワーを抜け出して、礼服を買って彼氏にサプライズを用意して驚させようとした。黄色いシミを見つけていないなら未だしも、見つけた以上、彼女が耐えられるはずがないだろう？だから別の同じデザインの服に変えられないかとアンドルーに尋ねた。

　当然ながらない。アンドルーはこの時に自分の心の中の悪念を抑えきれず、二人の少年少女に命の危険があるかどうかはわからないが、少しの教訓を受けることはできるのが当たり前だ。自分の甥っ子がこのようなセンチネルの恋をしているゴミに影響されると思うと、アンドルーの心は憤りと怒りに満ちた。

　だから彼は黎英英に服を洗濯に出し、必ず黄色いシミを除けると提案した。しかも「優しそう」に少女についでに自分のドレスを洗濯に出さないかと尋ねたら、黎英英は予想通りに快諾した。

　しかし、二人に教訓を与えると言ったが、時間は不十分なため、アンドルーもどうすればいいのかわからなかった。彼には考えがあるが、それを実行できる時間はないかもしれない。

　しかし偶然なことに、二件の礼服の写真を葬儀場の仲間に送った後、二時間後に相手が誰かがこの二件を欲しがっているとメッセージが帰ってきた。葬儀が明日にあり、彼は今日中に服を送り届けると言われた。

　死者はちょうど若い夫婦、突然に死んでしまったせいで、両親は自分の子供を火葬したくなく、埋葬することに決めた。二つの遺体は防腐処理されており、薬の投与量はやや多めで、半日くらい遺体に着用していた服は、もう既に防腐剤に深く汚染されていた。

「これは運命。造物主でも二人のセンチネルがこのように自分の血統と遺伝子を侮るのを見過ごせず、これが自然界の淘汰メカニズムだ」アンドルーが神経質に言って、その両目は狂気に輝いていた。「ひどく汚染されていた服を完全にきれいにするには、本来であれば至極困難なことであり、しかも容易に生地をダメにする。だから、そのような面倒くさいことをする必要はないだろう？俺はランドリーへ行って、彼らが洗濯している服を乾かして俺に渡すようにと言ったが、彼は何か起きるじゃないかと渡すつもりがなく、俺らが死者の金を稼げていることが他人にバレることを恐れていた。しかし俺は、この服は旧人類のカップルが欲しがって、せいぜい何日間に気持ち悪くさせただけ、このアリたちを虐めるのは面白いことじゃないかと安心させた」

　そしてこの二件の服はホワイトタワーに送り届けられた。送ったのはアンドルーで、鄒（ゾウ）夫人の息子の供述では、彼は完全に事情を知らなかった。

　後のことは調査で知ったように、陳雅曼がステージ照明を明るくしたせいで、薬物の揮発スピードが速まり、濃度も濃くなり、そして講堂はホワイトタワーの中で唯一センチネルの五感を抑えない場所、最終的に黎英英と簡正の突然死に導いた。

　アンドルーが意図的に殺人したと言えば、彼はその考えがあったが、選んだ方法の不確実性が高く、もしそのステージ照明がなければ、あの二人は助かるかもしれない。しかしアンドルーがわざとじゃない、ただ彼の言う通りにあの二人に教訓を与えると言えば、使った手段はあまりにも狙いすぎた。

　隅っこのプリンターから何枚かアンドルーが自白した逐語録が出て、蘇小雅は近づいて手に取って読んで、上の文字に間違いないように確認した後、アンドルーの傍に戻って自白調書を彼の前に置いた。「さあ、よく読んで、問題ないならサインして」

　アンドルーは疲れそうに見えて、彼は自白調書を読むことなく、そのままペンを持ってサインした。

　紺は内陸タイパン蛇び対する支配を緩めて、その蛇も半死半生の状態でその場に固まっていた。優雅なブルー猫は尻尾を上げて、足取りを軽くして本体の傍に戻り、ニャンと褒めてほしいように何回か鳴った後に戻った。

　蘇小雅はアンドルーと顔を合わせたくないと思い、取調室を離れた。

　何思と馮艾保はもう外で待っており、二人を見た途端に軽く小さい顎を上げて、誇らしい様子を見せていた。

　何思はエンパス（empath）で彼を撫でて、精神力を通して明確に蘇小雅の疲れを感じ取り、彼の気分も大分落ち込んでいた。元気いっぱいなはずのエンパス（empath）は、萎んだ藤蔓のように見えた。

「眉ちゃんはすごいな！お手柄だ」馮艾保は彼に向けて親指を立てて、まだ何かを言おうとしたが、急に携帯電話が鳴った。

　馮艾保は電話に出て、怠そうにもしもしと言って、向こうから焦った声が伝わり、二人のガイドは何を言ったのか聞こえないが、馮艾保の表情に何の変化もないように見えたから、多分大したことじゃないだろう？

　電話はすぐに終わって、馮艾保は携帯電話を収めて、頭を傾げて二人に向けて作り笑いをした。

「レン・チェスタが失踪した」