第十二話 幹部による丁寧な説明

 覚悟を決めて、サンタコスに袖を通した。みんなもバキバキになった身体を酷使しながら、ゆっくりと着替えていく。


「着替えてる間に、ちょっとした小話をしてやるよ」


 ピエロが意気揚々と話し出した。


「最近サンタの墜落事故が相次いでるだろ? あれは俺たちがやってるんだ」

「あれって、あんた達の仕業だったのね!? お隣さんの親戚がそれでケガしたのよ? 最低ね!」


 祐子がサンタの帽子を振り回しながら叫んだ。


「まあまあ、ココは使っていかないとな」


 ピエロは自分の側頭部を、人差し指で叩く。


「俺たちの表の顔は、普通のサンタ業者だ。でも考えてみろ、サンタ業なんて、一日しか稼働しない。収入が少ないわけだ。だから俺たちが独占するために、他のライバル業者を減らしてるってわけだ。それだけじゃない。サンタっていう職業を利用して、麻薬の運び屋もやってる。さらに効率よく稼げるっていうからくりだ」


 ピエロはケタケタと笑っている。

 とんだクソ野郎だ。ライバルを物理的に蹴落として、自分の利益にするなんて、許せない。


「ほら、着替えたぞ」


 赤木家全員が着替え終えた。


「ねえ、この髭も付けなきゃなんないの? 女の子なのに?」


 鈴が白く丸まった髭を弄びながら、ピエロに尋ねた。


「当たり前だろ。いいか? ただの雰囲気作りでサンタの格好をさせた訳じゃない。立派な変装としてだ。他のサンタ業者に紛れ込むために、ちゃんと付けろ。爆発させるぞ」


 鈴は気の抜けた返事をして、渋々髭をつけた。


「似合ってるよ」


 三太はフォローを入れたが、鈴は無視した。


「それじゃあ、ソリに乗り込め」


 ピエロの誘導で、四人はソリへと向かう。近づいてみると、やはり異様にでかい。遠くから見ると木製に見えたが、どうやら金属で出来ているらしい。ソリに縄で繋がれた、大きなトナカイが鼻を鳴らしていた。機関車かと思うくらい、鼻息が荒い。


「これは、どうやって運転するんだ?」


 訊ねた貴史に、ピエロは指で指し示しながら説明する。


「そこにハンドルがあるだろ?」

「ほんとだ……」

「その下にアクセルとブレーキがあるから、それ使って。基本的には車と同じだから」


 中を覗いてみると、本当に車と同じだった。レバーもあるし、ナビもついている。ないのは、バックミラーやサイドミラーくらいか。自分で振り返って確認しろということか。


「空を飛ぶにはどうするんだ?」

「それは勝手に浮くから大丈夫だ。タイヤないだろ? 浮くしかないんだ」

「降りるのはどうするんだ?」

「トナカイのケツを触れ。そしたら高度が下がってくる」

「どういう理屈だ?」

「そんなの知らねぇよ。どうでもいいだろ」


 説明が面倒くさくなってきたのか、ピエロの態度が段々適当になってきた。


「それじゃあ、行ってこい。行き先はここだ」


 ピエロはそう言うと、タブレットを渡してきた。この辺り一帯の地図と、目的地に刺さった赤いピン、青い丸で示された現在地があった。これは……かなり遠いぞ。


「分かった。ここに行って、この薬物を渡せばいいんだな?」

「ああそうだ。じゃあ俺は休憩する。頑張って」


 ピエロは踵を返し、倉庫の中へと入っていった。シャッターが閉まり、辺りが暗くなった。


「すまないな……こんなことになって」


 貴史は申し訳なさそうに、頭を下げた。


「いいのよ。あなたのせいじゃないわ」

「そうだよ。父さんのせいじゃない」

「そうだね。父さんのせいじゃないよ」

「お前ら、もう少し色んな励まし方があるだろ」


 四人は笑いながら、ソリに乗りこんだ。前に二人、後ろに二人が乗れるようになっている。座るところは赤色のソファになっていて、とてもふかふかだ。乗り心地よし。

 運転は貴史。朝とは違って、助手席に祐子を乗せ、後ろに鈴と三太を乗せた。


「さあ、行こう」


 貴史はアクセルと踏み込んだ。ふわっと車体が浮く感覚がする。


「おお~すごいな!」

「めっちゃスリリングだ!」


 叫んでいる鈴と祐子とは裏腹に、三太は楽しんでいるようだ。


 トナカイが、じたばたしている。まさか、このトナカイが降りる専用だったとは。映画とかではトナカイが優雅に走っているイメージだが、あれってただジタバタしてただけだったのか。

 ある程度の高度になると、ソリは勝手に進み出した。頬に当たる風が気持ちいい。街がすべてミニチュアになってしまった。手を伸ばせば掴めてしまいそうだ。

ちなみにある程度の高度というのがどの程度か皆さん気になるだろう。わかりやすい基準がある。高所恐怖症の祐子が失神して、ヤク中の鈴が薬なしでトリップするくらいだ。


 泡を吹いている祐子の後ろで、鈴はハイテンションになっていた。目の焦点が合ってない。


「ひゃっほーー! ハイだぜええぇぇ!!!」

 さて、もう一つ基準があった。いつもは大人しい三太の性格が、豹変するくらいだ。

「いやあああぁぁぁ! 降ろしてよ! 死んじゃう! 死んじゃうわ!」


 さっきまで「スリリング!」とか言ってたくせに、三太はオネエになっていた。


「お前らほんとに大丈夫か!? 一回降りるか?」

「大丈夫だぜええぇぇ!! ハイだぜええぇぇ!!!」

「あたしもなんとか大丈夫よ! 早く運んで、鈴ちゃんの首輪を外してあげましょ!」


 隣の祐子は……大丈夫じゃないよな。こんな感じで無事に終わるのか。

 貴史は先の見えない不安に、大きな溜め息をついた。


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