第十一話 運び屋デビュー
「それで、どうやったら外してくれるんだ?」
貴史の質問に、ピエロは指を差した。
「さすが父親。話の進行を助けるいい質問だ。いいか? 今からお前達には仕事をしてもらう。その仕事が終わったら、その首輪も外してやろう」
「仕事って?」
祐子が訊ねる。ピエロは少しためて、強調するように言った。
「薬物を運んでもらう」
薬物という単語に、鈴が反応した。
「薬物! 運び屋ってことね! めっちゃスリリングじゃん!」
はしゃぐ鈴に、他の三人は呆れた目で彼女を見つめた。ピエロは笑っている。
「血気盛んなお嬢さんだことで。いい教育をしたな」
「なんだそれ、皮肉か?」
貴史が噛みつくと、ピエロはわざとらしく何度も頷いた。
クソクソピエロめ。その赤い鼻を笑ってやろうか。
「おい聞け、このまま質問形式で進めると何かの説明を絶対に忘れちまう。紙にまとめてきたから、お前らは口を挟むな。一回、一息で全部説明させろ」
ピエロが大声で言った。赤木家は一斉に頷く。その様子を見たピエロは、持ってきたカンペに目を落とした。
「まず、お前らには薬物を運んで貰う。これはさっき言ったな。何で運んで貰うかと言うと、これだ」
ピエロは指をパチンと鳴らした。すると、赤木家の後ろ側にあったシャッターが少しずつ上がっていった。鈴の助けも借りながら、なんとか椅子を後ろに向ける。
シャッターの向こうは、外だった。太陽はすっかり眠りに落ち、夜の世界が広がっていた。
「お前らには、これに乗ってもらう」
そこには、大きなソリがあった。しっかりとトナカイもいる。しかも馬鹿でかい。セダンくらいはあるだろうか。ソリの後部には、たくさんの白い袋が積まれていた。あれが薬物ってことか。
「これ、もしかして空飛ぶのか?」
「質問禁止だ」
訊ねた貴史に、ピエロはぴしゃりと釘を刺した。
「今日はクリスマスイブだ。空には多くのサンタが、全国を飛び回ってる。そこでだ。お前らにはサンタの格好をしてもらって、言い換えれば、サンタに紛れて、薬物を運んで貰おうっていう算段だ。もちろん空は飛ぶ。ちなみに、これは粉状にした覚醒剤だ。きめが細かくて、身体にまわるのが早い。上等な奴だから、慎重に運べよ」
驚愕の顔を浮かべる赤木家を放って、ピエロは続ける。
「その運んで貰った先に、首輪を外す鍵がある。覚醒剤と交換だ。タイムリミットは、夜明けまで。もし遅れるか、一瞬でも途中で逃げだそうとしてみろ、爆発して、そいつの顔はクリスマスの夜に溶けていくだろう」
ちょっとだけ洒落な表現をして、ピエロは説明を終えた。サンタのコスチューム四着を、赤木家の前に投げ捨てた。
「じゃあ、この縄早く解いてよ。着替えられないじゃない」
祐子に、鈴も続ける。
「そうだよ。私の手錠も取って」
「そうだったな。ちょっと待ってろ。俺が外しても、暴れるんじゃないぞ」
ピエロは一人一人の拘束を解いていった。三太の拘束を外した時、三太がピエロを強く睨んだ。
「うわあああぁぁぁぁ!!!」
三太の強烈な猫パンチが、ピエロに向かっていった。数秒後、地面に崩れ落ちていたのは三太だった。
「だから止めろって言っただろ。さあ、早く着替えろ」
三太が辛そうに呻いている。ピエロは首をゴキゴキ鳴らして、赤木家を催促した。
「ナイスファイトだ」
貴史が言うと、三太は恥ずかしそうに笑った。
さすがに腕力では敵わないみたいだ。ここは大人しく、着替えるしかない。
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