『ドロップス ~モブキャラの友人C』/#超短編小説/#500文字小説

想田翠/140字小説・短編小説

第1話 『ドロップス ~モブキャラの友人C』

 試しに百合漫画を読んでみたけど、ときめくどころか共感すらできなくて。

この感情に名前を付けるとしたら、憧憬とでもいうのかな。


「ママが懐かしがって買ってきたの、缶入りドロップス」

「うわ、昭和感あるね」

「食べる?」


 盛り上がる私達に君はチラッと視線を送ってきた。

教室の真ん中を陣取れないカースト中間層の私達。

下層に属している子達とも普通にしゃべるし、上位グループから話しかけられれば浮かれた気持ちを抑えて、平静を装う。


 君をドロップスに例えるならば、赤いイチゴ味かな? それともピンクのリンゴ味?

美少女戦士の主役はピンクと相場が決まっているし。


「ママから聞いたんだけど、昔はチョコレート味があったんだって」

「レアキャラで人気だったんでしょ?」


 まるで君みたいだと思った。

 私はハッカみたいに悪目立ちしたくなくて積極的にモブキャラに徹していたけど、そんな必要性もないくらい君にとって透明に近い存在。

名前を呼んでもらった記憶は、塾に間に合わないと焦る君の掃除当番を代わった時。

「ありがとう」の一言がドロップスよりも甘く響いた。


 配役名が与えられない友人AやBでさえない友人Cは、ほんのり酸っぱく透明なレモン味。

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