自宅への帰還、そして実家へ

惨劇の場と化した街中を見て回り、駅前に戻る。

状況を報告し、ラジオと車載テレビで情報を収集する。

そうして二日間を過ごし、ベースキャンプである観光協会を離れる事にした。


駅前周辺は依然として胸まで水が残っていた。

のぼり用ポールに貴重品を括り付け、側溝に落ちないよう慎重に進む。

俺が出発する後姿を撮影していたらしく、

後日『勇者の旅立ちです』とラミネートした写真を手渡されたときは大笑いした。


自宅へ戻り、サバゲー用の迷彩服とブーツを身に着けて実家方面へアタック。

大街道から石巻日日新聞社の前を通り、日本製紙石巻工場方面に向かう。


工場付近には大型トラックが横倒しになっており、

ある程度の泥と瓦礫は食い止められていた。


無事だった自転車に乗ってその先へ進もうとするも、一面に広がる泥と瓦礫。

どこが道路か見えやしない。

仕方なく自転車を乗り捨て、日和大橋へ向かう。


橋に向かい最短距離を突っ切る中、視線を横に向ければ至る所に御遺体があった。


手だけだったり、

足だけだったり、

上半身だけだったり。


あまりの惨状に思考回路がおかしくなっていたのだろう。

「大きさ的にご年配の方だろうか、コッチはまだこんなに小さいのにな・・・」


そんな事を考えながら橋のたもとに辿り着くと、

橋の登り口がゴッソリと下の地面ごと無くなり、眼下は波打ち際になっていた。

辛うじて引っかかったウイングトラックの荷台が一本橋状態になっており、

そこを伝って橋の上に降り立つ・・・あんな橋渡りは二度とやりたくないものだ。


橋の上に乗り捨てられていたトラックを失敬し、湊側の泥の中を突き進む。

橋を降りた所にあったコンビニから数本の飲料とビールと食料を失敬し、

とりあえず空腹が落ち着いたことが幸いした。

近隣の加工工場から流れて来ていたクジラの缶詰を見つけた時は絶叫して喜んだ。

同じく流れて来ていた巨大クジラ缶のタンクに「有難く頂戴します」と礼を述べ。


普段なら橋を降りた所からは見えない筈なのに、一直線に小学校と中学校が見える。

我が母校、石巻市立湊第二小学校、そして石巻市立湊中学校。

覚悟していたとは言え、嫌な予感が胸をよぎる。


実家に向かって歩を進める。

依然としてこの辺にも多くのご遺体があった。

流されずに残ったのであろう金網、そこに片手でしがみ付く女性。

もう片手には灯の消えた小さな命を抱きしめて。


「・・・守りたかったんだよなぁ・・・・頑張ったなぁ・・・・」

津波後の惨状を目にしても涙は流さなかったが、さすがにもう我慢できなかった。

あまりにも無慈悲な自然の猛威に、ただただ泣く事しかできなかった。

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