第21話 多世界解釈

 ドアを開けるとき、開けた自分と開けない自分がいる。


 開けた自分は、開けた後の世界を生きる。開けない自分は、開けない後の世界を生きる。


 ドアを開ける瞬間に世界が分裂し、自分が二人存在する。


 すべての行為がすべての現象が、その瞬間から分裂し分岐する。無数の世界が生まれ、無数の自分が存在する。


 懐かしい感覚を覚える、まるで見知らぬ街。見覚えがある、通ったことがない初めての道。


 別世界の自分が見たもの。

 別世界の自分が感じたもの。


 自分であったが自分でない。別世界の自分とシンクロしている。


 時空間のいたずらで、別の世界と交差しつながり、別の自分と入れ替わる。


 見慣れた家族のいつもの顔、何か違和感を覚える。昨日の話が忘れられている。見たことがない服を着ている。


 そんな時は必ず言う。

 「この前、買ったじゃない」


 買った記憶などまったくない。


 部屋のなか微妙に違っている。読みかけの本のページが違う。


 家にいても落ち着かない。家族がよそよそしく感じる。何となく話が合わない。


 違和感を感じた時、既に別世界に入りこんでいる。


 二度と元の世界に戻れないのだ。


 自分を除く全てが異なる世界。

 たった一人きりで、あなたは生きていけますか・・・・・


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