第3話 真夜中のエレベーター

 深夜、疲れた体を引きずりながら、やっと自宅があるマンションにたどり着く。


 既に灯りがほとんど消えた無人の街、無感情な風が走り抜けてゆく。寝静まったコンクリートの黒い塊が、闇の城のようにそびえ立つ・・・・・


 僅かに照明が点いたマンションのエントランスを通り抜ける。小さな明かりが灯るエレベーターの前に立ち、4階て停まったままのエレベーターを呼ぶ。


 ゆっくり下る。ゆっくりと。

 遅い、なかなか来ない。

 なぜか、わざと遅く動いている。

 そんな気がしてしまうほど・・・・・


 やっと到着したエレベーターに、飛び込み10階のボタンを押す。古びた蛍光灯が、青く白く点滅する。まるで何かを報せるように。


 ゆっくりと動き出すエレベーター。早く早く自宅のある10階に着けよ。エレベーターはやけにゆっくり動く。


 灯りが消えて静まり返った2階、3階、4階を通り過ぎていく。もう深夜である。居住者も寝静まっている。当然、誰もいない・・・・・はずである。


 エレベーターは故障だろうか、照明が消えて真っ暗な5階でゆっくりと停まった。


 誰もいないのに。

 誰かがボタンを押したように。

 まるで、誰かが待っているように。


 『何やってんだよ、まったく!』


 不安感が膨らみ、鼓動が大きくなる。トン、トン、トン、閉めるボタンを勢いよく連打する。再びゆっくりと動き始めるエレベーター。


 閉ざされた個室、中を見渡せる室内ミラーがドアの右上に着いている。安全のため、危険防止のために付いている室内ミラー、なぜか見れない。


 見れるのだけど、

 見れない。見たくない。

 なぜか不安で、なぜか怖いのだ。


 もしも、もしも自分の後ろに誰かが写っていたら困るのだ。誰も乗っているはずなどないのに。


 黒髪を前に垂らし、顔が見えない女性が、そっと黙って後ろに立っていたら・・・・・


 乗ったはずがないのに、いつの間にか後ろに乗っていると困る。ただ黙って・・・・・


 ミラーなんか絶対見ないし、見れない。

もし何かが写っていたら・・・・・


 突然エレベーター内の空気が冷え込む。


 吐く息が白く凍る。

 全身の鳥肌がゾワッとそそけ立つ。

 悪寒が走り背中が凍る。


 緊張で固まった首筋に風が当たった。

 冷たい土のような香りがする。

 息がかかるような風が当たった。


 後ろに何かいる気配を感じる。

 誰も いない はずのに・・・・・


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