第2話 約束

 「絶対だよ」

 「指切りしよっ」


 小学3年の夏の初めだった。まさお君とボクは保育園から一緒。家もすぐそばだから、とっても仲良しで親友だった。


 「いつまでも親友でいようね」


 それがが二人のいつもの合言葉だった。ボクだって、本当にそう思っていたんだよ。


 でもね、小学3年の夏休みに、まさお君は帰らぬ人になった。両親と出かけた楽しいはずの海水浴で、海の世界に旅立った。


 それ以来、ボクは海には行かない。なぜって、海の中でまさお君が呼びかけてきそうな、そんな気がしたからだ。


 どうしても海に行かなくちゃならない時でも、ボクは海の中には入らず、砂浜で寝ている。だって海の中で、まさお君が待っているような気がするから。


 大学を卒業して広告関係の企業に就職してからも、ボクは相変わらずずっと海には近寄らなかった。


 仕事が忙がしくて、残業が続いた。汗でベタつく身体をシャワーで流し、疲れを取るため、今夜は浴槽でゆっくり寛ぐことにした。


 あれっ、ヤバィ!

 浴槽で寝ちゃったみたいだ。


 まあ、ぬるい温度だったから、のぼせてはいないけど。


 浴槽から出ようと立ち上がる時に、足が何かに絡まったような気がした。


 のぞきこんだ浴槽のお湯の中で、水膨れしたまさお君がボクに微笑んだ。


 小学生のままのまさお君が・・・・・

 懐かしいままのまさお君が・・・・・

 親友だったまさお君が・・・・・


 怖くて慌てて、ボクは浴槽から逃げるように立ち上がった。


 『いつまでも親友でいようね』


 囁く声が、またはっきり聞こえた。


 すごく疲れていたから、温かな浴槽の中でつい寝てしまった。たぶん寝ぼけていたんだと思う。怖い夢を見ていたのかもしれない。


 でもね、今でも耳に残っているんだ。ボクのことを誘うような、親友だったまさお君のあの声が・・・・・


 ボクはね、それ以来、

 今でも、浴槽には入れないんだ。


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