狐と好物

夏伐

第1話

 私は姪と実家所有の裏山に行った。


 私は鞄にアレを忍ばせて、姪と山を巡る。


 大きな岩にしめ縄が結んである。

 周囲には狐が集まっており、日差しが木に細切れにされ地面に美しい斑模様を作り出す。


 狐たちは、近づいた私たちに警戒心もなくわらわらと歩いてきた。


「はい、いつもの」


 私は狐にアレを渡す。


 正直、あまり気分の良いものではないが、これも定めだ。


 私は狐の後ろ姿を見ていたが、姪は近くに寄ってきた狐とおしゃべりしている。


 帰り際、姪は言った。


「狐さんが今度アレ持ってきてねって言ってたの。アレってなあに?」


 私はため息とともに答えた。


「ネズミの天ぷらよ」


 狐に天ぷらを渡さないといけない決まりはないが、渡さないでいるとツキが逃げてしまう。何故かうちの人間は狐に天ぷらをせがまれるのだ。


「おばちゃん! 狐って二本足で歩くのね!」


「誰にも言っちゃだめよ」


 私は人差し指を口元に持っていき、これは私たちだけの秘密だと教えてやった。

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