【KAC20234】冒険へ

赤ひげ

初めての冒険

 いつも家の中から眺めているだけの風景。

 自分の足で走り回れたらどれだけ楽しいだろう。


 計画を実行するのは夜。

 台所の換気代わりの小窓はいつも鍵を閉めないことは確認済。

 

 外も真っ暗になり、寝室の明かりも消えたことを確認すると僕は足音を忍ばせ台所へ向かった。


 小窓は少々狭いけどこれくらいじゃ僕の決意を止めることなんてできやしない!

 隙間に頭を通してずりずりと体を這わせていくと、僕の体はそのまま勢いで窓の外に滑り落ちていった。


「いたた~」


 頭から落ちてしまった。

 でも、そこに広がっていた景色に僕は思わず駆け出した。

 あてがあるわけじゃない。

 この解放感に身を委ねたかった。


 息が切れる頃、辺りを見回すと僕はすっかり見知らぬ場所に立っていることに気が付いた。

 心地よいと思っていた静けささえ、今は少し怖くなっている。


「ど……どうしよう、あっちかな? あれ……でも」


 思わず叫びたくなる衝動を必死で抑えながら歩く。

 でも見覚えのある景色は一向に見えず、僕の足は止まった。

 どこまでも走っていけると思っていたことが嘘のようだ。


 僕が震える体から逃げるように目を瞑った時、


「ポチ。散歩はもう終わりかニャ?」


 僕の前に立っていたのは、クールな瞳を携える猫『タマ兄貴あにちー』だ。


兄貴あにちー!!」


「困ったやつだニャ……吾輩の真似をして出たかったんだろうが、お前犬の癖に帰巣本能はないのかニャ。まぁいい行くニャ」


 そういうと兄貴あにちーは歩き出すが付いたのは家ではなく、原っぱだ。


「ここで思いっきり走り回って遊んだら帰るニャ」


「あ……兄貴あにちー……!!」


 僕は兄貴あにちーに飛びつきそしてこの真夜中の原っぱを思いっきり駆け巡った。

 帰る頃には朝日が昇り始めていたことがとても印象的だった。


 そして家に帰った後、僕と兄貴あにちーはびっくりするくらい叱られちゃった……でもやっぱり兄貴あにちーはいつでもかっこいいってことを再確認させてくれた一夜だった。

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