第21話 悪魔①

【ゾロアスター教の悪魔】

アーリマン

ゾロアスター教は、世界を善神アフラ・マズダと悪神アーリマンの不断の闘争の場として描く。アーリマンがアフラ・マズダよりも劣ったものか、それとも同等のものかは諸説あって定かでない。いずれにせよ、アフラ・マズダは世界を創造するとき、この敵対者を放っておいてはろくなことにならないのは必定と思い、相手を呪文で3000年の間、縛り上げておいてその隙に世界をつくってしまった。やがて呪文が解けたアーリマンは怒り心頭に発し、逆襲に転じた。彼は毒蛙、毒蛇、毒サソリ、毒トカゲ、また1万種類の病魔を創造して世界に放った。以来、善神と悪神の闘争は今日に至るまでつづいている。

アーリマンはゾロアスター教の六大悪魔をはじめとして、無数の魔(ダエーワ)を配下に置き、無数の悪事をさせている。ときとして人間に化けて諸国の王者に近づき、贅沢を教えて堕落させることもある。王が堕落した頃合いを見計らって、アーリマンがその両肩に口づけすると、相手の肩からは一対の蛇が生える。迷惑なことに、このヘビはそれぞれ、日に一人の脳みそを食べるのである。

アエーシュマ

ゾロアスター教において狂暴な行い一般を司るとされる悪魔。

 アエーシュマに魅入られた人は、役に立つ家畜をいじめたり普段からは考えられないような乱暴をしたりする。これはつまり文字通り「魔がさした」のであって、そんなことにならないよう気をつけねばならない。

 酒に対するゾロアスター教の態度は幾分あいまいで、宗教儀式に好んでハオマ(習慣性のある薬草を含んだ酒らしきもの)を使う一方、一般道徳としては禁酒を建て前としていた。禁酒の戒律がどの程度厳しかったかについては諸説がある。いずれにせよ、世界の多くの宗教と同様、

ナス

ゾロアスター教の女悪魔。蝿の姿をとり、屍を好み、伝染病をまき散らす。

 ゾロアスター教の悪魔は地下(一説によれば北の果て)の地獄に住んでおり、

【三国志に登場する悪魔】

アガースラ

アガースラとは、アガという名前のアスラ(魔神)という意味で、悪王カンサの将軍であると伝えられる。

 アガースラは、アガジャラという巨大な蛇の姿をして、英雄神クリシュナとその仲間たちを呑み込もうと計画する。

アガースラの口には、見たところ洞窟の入り口そっくりだったので、クリシュナを除く仲間たちと、その家畜たちは騙されて中に入ってしまう。

このことを知ったクリシュナは、仲間たちを救い出し、アガースラを倒したとされる。

 この説話は『バーカヴァタ・プラーナ』

(ヒンドゥー教聖典の一つ)に載せられている。同書は、バーガヴァタ派ヒンドゥーの根本経典であり、ここではヴィシュヌ神がバガヴァットという名前で登場する。


アスタロト

バビロニアの豊穣女神イシュタルに端を発する伝説と解釈の中から造形された有名な悪魔。「アスタルテ」「アシュタルト」他、数多くの別名があり、エジプトの女神アストレトやギリシャの女神アフロディテとも比定される。異教の女神であったアシュタルトは、ユダヤ教、キリスト教によって悪魔化され、『失楽園』の作者ミルトンも、アストレスという名前の反乱天使として作中に登場させている。アスタロトという名前で悪魔としてかいしゃくされるようになってからは、悪魔を研究する文書に必ずといっていいほど登場する存在となった。『レメゲトン』や、黙示文学『エノク書』をモデルとする『偽エノク文書』の悪魔の目録にも、当然のように記されている。『偽エノク文書』においては、40の軍団を率いる司令官として紹介されている。16世紀の悪魔学者ヴァイエルの影響を受けた、19世紀のフランスの作家プランシーの著書『地獄の辞典』によれば、アスタロトは地獄の大公爵の一人であり、竜に乗り左手に毒蛇を握って現れる。典型的な堕天使で、悪魔となってからも醜い天使の姿をとる。天使学と歴史に詳しい。出現時に悪臭を放つ。

蚩尤

古代の悪神・武神・乱神。蚩尤は、古代の帝王の一人、炎帝神農氏の一族である。その姿には様々な異説があるが、一説によると牛頭人身、二対の目と六本の腕をもち、牛の角と蹄を備えていたという。81人の兄弟がいて、砂や石を食らったとも伝えられる。

 神農氏の徳が衰え、政治が乱れたとき、黄帝が現れて炎帝を追い、自ら皇帝の座に即いて炎帝の一族を南方の王に封じた。ところがこれに不満だった蚩尤、魑魅魍魎や風雨の神を率いて黄帝に反旗を翻した。

 武器の発明者であり指揮能力に長けた蚩尤は、当初黄帝を圧倒した。しかし天帝が九天玄女を使者として黄帝のもとに遣わしたため、蚩尤は敗れて処刑されたのである。

 その後再び天下が乱れたとき、黄帝は蚩尤の姿を描かせて天下に示した。乱を起こした者たちは、蚩尤が黄帝の臣下になったものと思い込み、震え上がって矛を収めたのだった。

 黄帝への反乱者である蚩尤は後世の民衆から悪神として忌み嫌われたが、同時に武器の発明者・魑魅魍魎の支配者として武神・退魔神の地位も獲得することになった。

 

シューツ

バビロニアでは、風は悪魔が吹かせるという。砂漠地帯のバビロニアでは、風は砂嵐や熱気を運んでくる恐ろしいものだからだ。

 ただし、彼ら風の悪魔は、空の神であるアスの配下である。恐ろしい風を吹かせることもあるが、神の命令で雨をもたらす風を吹かせることもあるのだ。

 シューツは、エア神の息子アダパに羽根をもがれたことがある。





ケレメット

天国で、天使が神と争っていた。しかし、ついに下界へと追い出されてしまった。森に落ちた天使は森の精となり、水に落ちた天使は水の精となった。彼ら落とされた天使の中に、ケレメットという質の悪い天使がいた。

 彼はチェレミスという小屋に落ち、主人に遠くから来た旅人なので、しばらく泊めてくれるように頼んだ。しかし、小屋は小さく狭かったので、主人は「部屋がないので、炉の中に寝てくれないか」と頼んだ。この小屋で炉に火が入っていることは少なく、ことに夏場は皆無だった。

 ケレメットは「どんな人がきても、私のことはしゃべらないでくれ」と頼んだ。

 間もなく、神の命令でケレメットを追いかけてきた天使が現れて「お宅にきた者は居ませんか?」と聞いた。家人は、何度聞かれても「誰もきません」と答えた。

 すると天使は「まぁ あなた方は、あいつと一緒にお暮らしなさい 後でぶつぶついっても知りませんよ」といって、姿を消してしまった。



ケシュメト

アメリカの作家タニス・リーの小説「平らな地球シリーズ」に登場する妖魔の王の一人。

 かつて世界が平らで渾沌の海に浮かんでいた頃、天にも地下にも海にもそれぞれの神がいた。地下の妖魔の王たちは人類に悪戯を仕掛けてひどい目に遭わせるのを喜びとしていた。

 その一人が「宿命」を司るケシュメト。本来の姿はうかがうべくもないが、好んで汚れたみかん色のボロ布を着、金箔のはげかけたお椀をもって、乞食として世界をさまよう。長らく風雨にさらされて皮膚は漬物のように色づき、頭は禿げ上がっている。しかし、一たび力の片鱗を見せつけると、みかん色のボロ布は豪奢な布のようにも見え、お椀は純金のようにも見える。指を鳴らすと正義栄華を極める都の崩壊など、過去や未来の宿命を他人の目にまざまざと見せることができる。



ドラギニャッツオ

 イタリアの詩人ダンテの叙事詩『神曲』(1307~21年作)に登場する悪魔。『神曲』二部作の第1部『地獄編』第22歌で描かれる地獄の第8圏5濛の獄吏。生前に汚職や詐欺に手を染めた亡者を罰する12人組の鬼の集団「マレブランケ」の一人。

 その名前は「残忍な竜」もしくは「堕落した竜」を意味する。マレブランケたちは知性に欠け、獰猛で、堕落した天使というよりは地獄の鬼を思わせる集団だが、聖書において悪魔と同一視される竜の名をもつドラギニャッツオの存在によって、作者ダンテはマレブランケたちを悪魔として考えていたことがわかる。

 ドラギニャッツオ自身にはあまり活躍の機会が与えられていない。仕事場である煮えたぎる瀝青(天然アスファルト)の池から罪人である「ナヴァーラ国の男チアンポロ」が吊り上げられたとき、同じマレブランケのチリアットやリピコッコとともに、この罪人の亡者の肉を裂こうとする程度である。強大な牙で罪人の背中を咲く仲間のチリアットと異なり、ドラギニャッツオは亡者の脛に爪を立てるという消極的な行動をとっている。

アデランメレク

詩人ミルトンの叙事詩『失楽園』(1667年)に登場する反逆天使(悪魔)。ミルトンによって、旧約聖書「列王記」に登場するセパルワイム人の神の前身として設定されている。

 アデランメレクは「列王記」において、モロクと同様に犠牲を求める異教神として記されており、そのことがミルトンに、アデランメレクを『失楽園』の登場人物に加えさせる理由になったと思われる。「列王記」にはアデランメレクと対になる異教神アナンメレクの名前も記されているのだが、ミルトンはなぜかこちらは反逆天使としては採用せず、『失楽園』においてアデランメレクと同列に扱われる反逆天使は「トビト書」に登場するアスマダイとなっている。

アザゼル<失楽園>

イギリスの詩人ミルトンの叙事詩『失楽園』(1667年)に登場する反逆天使(悪魔)。旧約聖書「レビ記」においては、唯一神と供物を二分する正体不明の荒野の支配者であり、また、ユダヤ教の偽典「エノク書」においては悪魔の指揮官の一人とされている。ミルトンが『失楽園』の中で描いたアザゼルの雰囲気は「エノク書」を素材としているらしい。有名な悪魔を素材としながらも、登場場面は少なく、第1巻の他には姿を見せない。ミルトンは「熾」「智」「宝座」「統治」「威力」「特能」「君権」「大」「その下位」という


リビコッコ

 イタリアの詩人ダンテの叙事詩『神曲』(1307~21年作)に登場する悪魔。『神曲』三部作の第一部「地獄編」第21,22歌で描かれる地獄の第8圏5濛の獄吏、生前に汚職や詐欺に手を染めた亡者を罰する、12人組の鬼の集団「マレブランケ」の一人。その名前は「意地の悪い者」、もしくは「癇癪持ち」を意味する。

『神曲』に登場する地獄の怪物たちは、ギリシアの叙事詩や聖書から引用されているものが多いが、マレブランケたちは作者であるダンテが独自に創造した集団であり、特定のモデルをもたない。マレブランケたちは黒い身体とコウモリの翼をもち、鋭い爪と牙を生やした悪魔そのもののような姿をしているが、地獄の最下層第9圏第4円「ジュデッカ」に幽閉されている悪魔大王ディス(ルチフェロ)のような存在とは異なり、堕落した天使とは明記されておらず、地獄の機能の一つとして神の意のままに罪人たちを拷問している。リビコッコは「癇癪持ち」という名前の通り、罪人である


マラコーダ

ダンテの叙事詩『神曲』(1307~21年作)に登場する悪魔。マラコーダという名前はイタリア語で、「悪い尾」を意味する。『神曲』三部作の第1部「地獄篇」第21歌に登場する。主人公のダンテと、彼を導くローマ時代のラテン詩人ウェルギリウス(紀元前70~前19年)の霊が探訪する地獄は階層構造となっているが、マラコーダは9圏に重ねられた地獄の第8圏の住人である。地獄の第8圏「詐欺師の濠」の内部はさらに10濠に分類され、マラコーダとその仲間の「地獄の鬼」たちは、汚職者を罰する5濠で亡者たちを責め苛んでいる。

 マラコーダとその手下である11人の鬼たちは「マレブランケ」(悪い爪)と総称される異形の者たちで、黒い身体にコウモリのような翼を生やし、鋭い牙と爪をもつ。マラコーダはこのマレブランケたちの頭目である。マレブランケたちは誘惑するタイプの悪魔ではなく、嘘つきで狂暴な性格の卑俗な獄吏であり、罪人を苛む行動も神の命令によるものとされている。


トラウィスカルパンテクートリ

古代メキシコの人々から恐れられた破壊神。名前の由来は「曙の主」で、明けの明星(金星)を表す。彼は人間に災厄をもたらすものであり、破壊者であった。激しく燃え盛る光を、槍投げ器で投げつける男性として描写される。

 金星から発せられた光は有害なものとされており、人々はこの星の出現をたいへん恐れた。また、疫病や飢饉、軍の敗北を始めとしたあらゆる不運は、彼によってもたらされるものだと信じられてきた。

 彼は力ある神であったが、神話には太陽神に挑み、そして敗れ去るまでの顛末が語られている。かつて太陽神トナティウが生まれたとき、この太陽神は生け贄を神々に求めた。生け贄がもたらされるまで、自分は世界を照らさぬといい放ったのである。


バネ足ジャック

切り裂きジャック出現の十数年前に現れた、もう一人の「ジャック」。切り裂きジャックと同じく、史実の事件が元になった都市伝説的存在ではあるが、こちらはより幻想的な(あるいは奇怪な)存在となっている。

 このバネ足ジャックと呼ばれた男の正体は今もなお不明だが、数少ない証言によれば、銀色の衣装に身を包み、消防士(あるいは警官)と偽って女性宅を訪問、出てきた相手に火を吹きかけたり、ナイフで切りつけたりして逃走したという。連続するバネ足ジャックの凶行の現場に偶然駆けつけた警官は、バネ足ジャックが、その名の通り、足にバネでもつけているかのように高く飛び跳ねながら、しかも数mの塀を跳躍力だけで飛び越えて逃げたのを目撃している。

バビ

古代エジプトの『死者の書』に登場する邪悪なる神、もしくは闇の悪魔。

 バビは、ペニスを勃起させたヒヒの姿で描かれる。

 エジプト古王国(紀元前2700年頃)の時代から知られていた神で、暴力的かつ敵対的な神である。人が死ぬと、オシリスの前で死者の心臓を量る儀式が行われるが、このときにバビが現れることは、天国にゆける可能性が極小となり、地獄ゆきの可能性が非常に高まるという点で、非常に危険な神である。

 だが、ある場合には守護者として振る舞うこともある。地下世界(クトニアン)において、男性の性的能力を連想させるものは、バビの勃起したペニスなのだ。

 闇の中においてバビのペニスは、地下世界の渡し船のマストとなり、天国への扉を開くことができる。


バビロンの大淫婦

バビロンはメソポタミアの古都。かつてユダヤ民族は捕虜としてこの都で働かされていた。そこでバビロンは単に豊かで贅沢な都市というのではなく、道徳的判断が加わって「頽廃と悪徳の象徴」とされた。この考えはキリスト教、イスラム教にも受け継がれた。

 その結果、新約聖書「ヨハネの黙示録」には、世の終わりにバビロンの大淫婦という女性が登場する。この美女は緋と紫の衣を着て黄金と宝石と真珠に身を飾り、金の盃でよきキリスト教徒の血を飲んで酔う。彼女を乗せる緋色の獣は、身体中が「神を汚す名前」で覆われ、頭は七つ、角は十本ある。


カタリ派の悪魔論


肉体という牢獄に閉じ込められた天使の魂。それが人間存在の秘密であり、すべては悪の原理であるサタンのたくらみでなされたのである。


・サタンは粘土に天使の魂を閉じ込めて人間を作った

 12世紀半ばから南ヨーロッパで流行したカタリ派は神と悪魔を二元論的に説明した。カタリ派の二元論には極端なものから穏健なものまであるが、ここでは極端な二元論の悪魔論を紹介しよう。

 その考えでは善の原理=真の神と悪の原理=悪の神はそもそものはじめから独自に存在しているのである。サタンは悪の神そのものかそうでなければ悪の神の子である。あるときサタンの方から善の世界に攻撃を仕掛ける。サタンは不法にも善の世界に入り込み、勧誘する。俺と一緒に地上へ来たら、富をやろう、妻をやろうというのである。数多くの天使がこれに従い、天界から出て行った。サタンは天界からはるか遠い場所で物質的宇宙を作り、土をこねて人間を形作り、その中に天使の魂を閉じ込めた。ここで大事なのは天界を出た天使は天界に霊と衣服を残してきたということだ。つまり天界から飛び出したのは天使の魂だけなのである。

 このようにして誕生した人類は悪魔の作った物質と天使の魂の混合物だった。




イスラム教の悪魔論

イスラム教の悪魔はユダヤ教・キリスト教の悪魔と密接な関係にあるが、その悪魔イブリスは全知全能の神アラーに完全に依存している。


・絶対神に及ばない弱々しい悪魔イブリス

7世紀に興ったイスラム教はユダヤ教、キリスト教と密接な関係があり、悪魔論に関しても同じことがいえるが、そこにイスラム独自の色彩がある。

イスラム教の神アッラーは、ユダヤ教、キリスト教の唯一神と同じものだが、その唯一神が全知全能であるということについてイスラム教は少しも妥協しない。したがって、イスラム教にも悪魔は存在するが、それは完全に神に依存する存在なのである。

 イスラム教のサタンはイブリスという名で、別名はシャイタンである。ランフレまたはル・ラピデと呼ばれることもある。彼はどんな姿にもなることができ、その取り巻きにはハルート、マルートなどの堕天使や悪いジン(妖霊)たちがいた。サタンと同じくイブリスももとは天使(ジンの出身だといわれることもあるが)である。あるとき神が粘土からアダムを創造し、彼の前にひれ伏すようにと天使たちに命じた。自分は火の精だから、粘土でできた卑しい人間にひれ伏すことなどできない、というわけだ。このためにイブリスは天から追放され、神の呪いを受けた。このときイブリスは、自分への呪いはこの世の終わりの最後の日まで猶予してくれるように神に懇願した。そして、人類を誘惑し、誤らせる許可を神から得たのである。

 しかし、キリスト教のサタンと異なり、イブリスは神の強力な敵とはなりえない。イブリスは人間を誘惑することはできるが、強制することはできない。そして、神を愛する者に対してはイブリスは完全に無力なのである。それゆえ、人間はイブリスのせいで罪を犯したと責任逃れをすることはできない。


タンデールの見たサタン

12世紀に作られた傑作『タンデールの幻』は地獄の底で焼かれながら亡者を苦しめている巨大なサタンのイメージを不動のものにした。


ボゴミール派の悪魔論

真の神の息子サタナエルが神に反逆してこの宇宙を作ったが、弟であるキリストとの戦いに敗北し、醜い姿のサタンに変身した。

・サタナエルから神性が失われてサタンになる

 10世紀にブルガリアで興ったボゴミール派はキリスト教の異端児で、グノーシス主義やマニ教の影響を受けた二元論的な悪魔論を展開した。

 ボゴミール派にもさまざまな流派があったが、ある教えによれば真の神にサタナエルという息子がいた。彼が善いものとして創造され、神の補佐役を務めた。しかし、彼は不満で、自分が神になろうとし、天使の三分の一を味方にした。こうして、サタナエルは仲間とともに天から追放された。それでもサタナエルはあきらめず、「自分は第ニの神になろう」と決意し、我々が住むこの物質的宇宙を作った。彼は仕方なく、ともに人類を支配するという約束で神に協力を頼み、神が魂を、サタナエルが肉体を担当してアダムとエバを作った。サタナエルはエバを誘惑して蛇の姿で交わって、息子カインを産ませた。またアダムとエバの間に息子アベルが生まれたが、カインはアベルを殺し、この世に殺人の罪が生まれた。その後、サタナエルは人類への支配を強化するため、モーセに律法を与え、さらに人類に霊感を送って旧約聖書を書かせた。つまり、旧約聖書に語られている唯一神とは実はサタナエルだったのだ。しかし、真の神はサタナエルがエバを誘惑した罰として、創造力を奪い、彼を醜い姿に変えた。そして、神とサタナエルはこの宇宙の支配権をめぐり、激しく争うことになった。

 5500年後、神は人類を救おうと決意し、子であるキリストと聖霊を生み出した。したがって、キリストはサタナエルの弟である。キリストは人類に悪魔の実体を教えるために地上に生まれ、サタナエルを打ち破った。サタナエルはまたも天から投げ落とされた。このとき、サタナエルも名から神を意味するエル"el"の文字が失われ、ただのサタンになったのである。

ベリアルの裁判

キリスト教の裁判制度が広く普及するにつれ、ついに悪魔たちまでが裁判によって自分たちの権利を守る時代がやってきた。


悪魔と四大元素は関係あるのか?


ヴィザンチンの哲学者プセルスは、火・風・水・土の四大元素の世界と地下および夜の世界に悪魔たちが階級に分かれて住み分けていると考えた。


・悪魔は陸・海・空のどこにでも群がっている

 ヨーロッパでは古代からこの世の物質はすべて火・風(空気)・土・水の四大元素からできていると考えられていた。それで、哲学者や神学者たちの中には悪魔を四大元素との関係で分類する者もいた。

 5世紀のローマの哲学者プロクルスは悪魔を五つに分類したが、そのうちの4種類は火・風・土・水の四大元素と関わる悪魔だった。そして地下に住む悪魔たちが5番目の集団とされた。

 11世紀のヴィザンチンの哲学者ミカエル・プセルスはそれにまた1種類を加え、次のような6種類に分類した。

 1番目は最後の審判の日まで空の上に住み、人間とは関わりを持たない最高位の火の悪魔レリウーリアである。2番めは人間の周囲にある空中に住んでいる風の悪魔<アエリア>である。彼らは地獄まで降りることもできるし、暴風雨を起こすこともできる。また、空気から肉体を作って人前に出現することもできる。3番目は地の悪魔<クトニア>だが、彼らはキリスト教の伝承で天から地へと投げ落とされた悪魔、つまり堕天使たちで、その辺の山野に住んでいるという。

悪魔の位階

エクソシストのミカエリス神父によれば、悪魔の階級は天使の階級に対応しており、大きく3階級に分かれ、全部で9階級があるという。

・悪魔バルベリトが証言した悪魔の位階

新約聖書にあるパウロの文書『エフェソの信徒への手紙』(1章20~21せつ)に次のようにある。「神は、この力をキリストに働かせて、キリストを死者の中から復活させ、天において御自分の右の座に着かせ、すべての支配、権威、勢力、主権の上に置き、今の世ばかりでなく、来るべき世にも唱えられるあらゆる名の上に置かれました。」ここから天界にも階級があるだろうということが想像できる。そこで、5世紀に偽ディオニシウスが天使の位階をまとめた。それは天使を大きく3階級に分けるものだが、その後のキリスト教の天使学にも受け入れられ、多大な影響を及ぼすことになった。つまり、天使には階級があるということだ。

 では、悪魔はどうかといえば、悪魔は堕天使であり、もとは天使だったわけだから、天使時代に位階を持っていたはずである。そしてそれが、堕天後の悪魔の位階となった可能性が高い。とすれば、天使時代の位階がわかれば、悪魔の位階もわかるということだ。問題はどうやってそれを知るかということだが、偶然にもその機会を手に入れた人物がいた。有名なエクソシスト(悪魔祓い師)セバスチャン・ミカエリス親父である。

 16〜17世紀もヨーロッパでは悪魔憑き事件が流行し、頻繁に悪魔祓いが執行された。1610年にはフランスのエクサン=プロヴァンスの女子修道院で悪魔憑き事件が起きた。修道女マドレーヌに多数の悪魔が憑依したのだ。そして神父はマドレーヌに憑依していた悪魔バルベリトから、彼女に憑依していたほかの多数の悪魔の名前や特徴、それと戦う個別の聖者の名前などを聞き出した。神父は後にそれを『驚嘆すべき物語』という本に収めたが、その内容は天使の3階級と対応する悪魔の3階級説として有名である。

偽ディオニシウスの天使の位階

第一階級 熾天使

     智天使

     座天使

第二階級 主天使

     権天使

     能天使

第三階級 力天使

     大天使

     天使


参考書籍

『悪魔辞典』

『図解悪魔学』

『幻想悪魔大図鑑』

『神曲』

『ファウスト』

『失楽園』

『悪魔くん水木しげる魔界大百科』

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