第17話 もうすぐ夏休み


 七月に入り、一学期末試験が行われた。月初が金曜なので翌週木曜日までだ。そして翌日金曜日に全学年生向けの全国模試がある。


 俺は、国内向けの模試なんて受ける必要も無いが、担任の先生から各学校の実力レベルを評価する意味もあるから一般生徒と同じ様に受けろと言われている。

まあ、はっきり言って学校の対外評価向上の為に使われているだけだ。去年もそうだが、また模試のトップがこの学校から出ているのを宣伝するのが目的だろう。 


 土日は高橋と付き合う前と同じように武道場へ行く以外は一人で部屋で静かに過ごしている。


 外の雑音も入ってこない。この静かな空間が大好きだ。好きな本を読み、その本に対して自分の考察を書く。心地よい時間だ。



 翌月曜日、俺はいつもの様に学校に行く。下駄箱で上履きに履き替えて階段へ行こうとすると、掲示板の前に人だかり出来ている。そう、学期末試験の上位三十人が発表されているからだ。


 そんなものに興味がない俺は、そのまま素通りしようとすると絵里から声を掛けられた。


「悠、また満点一位ね。大したものだわ」

 つまらない事を言う絵里に一瞥をしただけで階段を登ろうとすると


「ねえ、坂口君って目付き悪くて怖い感じがするけど、入学して以来、試験全部満点よね」

「知らないの。あの人はギフテッドよ。私達とは違う人種」

「ギフテッドって、IQが異様に高くて、天才を意味するやつ?」

「そうよ。だから彼から見れば、私達が1+1の試験を受けている様なものよ」

「へーっ、じゃあ今から友達になっておけば、将来もしかして一生安泰?」

「あんた、何考えているの?」


 つまらない事を言われている。そんな事どうだっていいじゃないか。それに友達って…?。


「坂口君、凄いね。いや君にとっては凄くないか。ねえ、今度一度話をしようよ」

 いきなり工藤さんから声を掛けられた。


「工藤さん、俺は君と話す事は無い」

「そんな連れない事言わずに、ねっ!」


 これ以上ここにいても無駄と思った俺は、工藤さんの言葉を無視して階段を登った。後ろで何か言っているが無視だ。


 教室に入ってバッグから本を取り出して読み始めたらすぐに予鈴が鳴った。つまらない事に時間を潰してしまったようだ。



 午前中の授業が終わり昼休みになって俺が学食に行こうとすると

「ねえ、坂口君。君と一緒にお昼食べたいんだけど?」

「工藤さん、俺は一人で食べたいんだ」

「だから、今日だけでもいいでしょ」

 断っても後々同じ事を言われそうだ。ここは一回だけ付き合うか。


「…今日だけだぞ」

「うん」


 私、工藤満里奈。何故か私の心の中で坂口君の居場所が大きくなっている。恋愛感情ではない。どちらかと言うと興味だ。

 この子はいったい何者で、なぜあれだけの知識を持っているのか。家系なのか突然変異なのか。私の興味心が疼いてしょうがない。だから何とか彼に近付きたい。願わくば友達になりたい。


 彼が今日だけと言って一緒に学食で食べる事を許してくれたので一緒に学食に行く事にした。


 不味いわね。なんで工藤さんがあれほど悠に執着するのか分からない。好きになったという素振りではない。単なる悠への興味か。いずれにしろ、私の未来予想図に彼女は入っていない。しかしどうやって彼女を悠から離すかだ。真面目に考える必要が有るかも。


「ねえ、友坂さん、一緒にお昼食べよう?」

「あっ、そうね。すぐ行くわ」

 いつも一緒にお昼を食べる子が誘って来た。



 坂口君に許されて学食までの廊下を坂口君と一緒に歩く。廊下ですれ違う人が、何故か驚いた顔や不思議そうな顔で私達を見ている。やはり彼って人気あるのかしら?



 学食に着くと彼は自動発券機の前に並んだ。一緒に待っていても仕方ないので

「坂口君、先に入って待っている。決まった所とかある?」


 普通こういう所へ来る人は大体決まった場所に座るもの。だから聞いてみた案の定、彼は外の見える窓際のテーブルを指さした。


 先に行って指示されたテーブルで彼が見える様に席に座ると彼を見た。良く見ると他の人から比べて少し背が高い。

細いけど筋肉無しのガリガリには見えない。それに精悍な顔つき。目付きだって周りや本人は悪いと言っているけど、私から見れば研ぎ澄まされてかっこいい。

 高橋さんが惹かれたのが分かる気がする。


 彼がカウンタから食事を乗せたトレイを持ってやって来た。


「お待たせ」

「ううん、待ってなんかいなかったよ」

「そうか」


「さっ、食べようか」

「ああ」


 工藤さんが広げたお弁当は色とりどりの野菜とお肉、それに卵焼きが乗っていた。自分で作ったんだろうか?


「坂口君、私のお弁当に興味あるの?」

「いや小さなお弁当箱に良くそんなに色とりどりの野菜を入れて有るなと思っただけだ」

「ふふっ、どれか食べる?」

「いらない」

「そうかあ。ねえ坂口君はどんなものが好きなの?」

「好き嫌いはない」

「そうか、じゃあこの卵焼き食べてみる?」

 どっかで見た光景だな。


 彼は食事をしていてもあまり話さない。昼食を一緒に摂るのは今日だけだと言われている。それにもうすぐ夏休み。何とか話の切り口を見つけ出さないと。


 彼が食事を終わった所で直ぐに切り出した。


「ねえ、坂口君。夏休み何か予定入っているの?」

「少しは入っているけど、あなたには関係ない事だ」

「うーん、そういう言われ方すると悲しいよ。入っている内容を聞きたいんじゃなくて時間的な事だよ」


 ちょっと冷たい言い方し過ぎたか。

「学術会議の手伝いが少しと後は、朝のジョギングと通っている武道場へ行く事位だ」

「学術会議の手伝い?」

「ああ、色々有ってな。手伝う事にしている」

「そうなんだ。想像出来ないな。それっていつなの?」

 聞いてくるな、こいつ。


「学術会議の手伝いと言っても小委員会の手伝いだから、必ず毎回出なければいけない訳じゃない。それにそれは高校生の夏休みとは関係無い。テーマ毎に一年中出席している。今月は終わっていて来月は月の後半にあるだけだ」

 凄いなこの子。私達の頭脳レベルじゃない。


「そ、そうなんだ。じゃあ、他の日は結構開いているよね。ねえ、一緒に遊びに行かない?」

「はぁ?」

 俺に夏休み一緒に遊ぼうなんて言うのはお前だけだぞ。


「俺なんかより親しい友達と遊べばいいじゃないか。それになんで俺なんだ」

「親しい子達とは勿論遊ぶけど、君とも遊びたい」

「…………」

 何考えているんだ。こいつ。


「俺は、ゲームとかゲーセンとかカラオケとか一切出来ないからな。誘われても何も出来ないぞ」

「私もそんなもの興味無いわ。夏休みらしい所よ」

「夏休みらしい所?」

「そう、遊園地とかプールとか、海や山でも良いわ」

「俺とか?」

「さっきからそう言っている」

「止めとくよ」

「そんな連れない事言わないで。一度だけでも良いからさ」


 何故か俺の目の前でお祈りするように両手を顔の前で合わせている奴がいる。面倒だな。断ってもしつこそうだし。


「分かった。じゃあ一回だけならいい」

「本当!やったあ」

「声が大きい」

「ごめん」


 ふふっ、これでぐっと前に進んだわ。当然あそこね。絶対に拘束出来るから。




 俺達は、昼休みが終わって席に戻ると絵里が怖い顔して待っていた。

「ちょっと悠、工藤さんと何話したのよ?」

「お前に関係あるのか?」

「大ありよ。何話したの?」

「夏休みに一緒に遊ぶ約束だ」

「なんですってぇ!何よそれ。じゃあ私とも一緒に遊びなさいよ」

「声が大きい、周りが見ているだろう」

「そうだけど…。絶対私とも遊びなさいよ」

「…………」


 ミスったかな。絵里に工藤さんと会う事を話した事。


―――――


 夏休み、悠、ただじゃあ済まなそうです。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。



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