第3話 暗い過去


 本話、結構暗いです。

 途中、気分が悪くなるような表現が有ります。そこだけスキップしても結構です。


―――――


 俺、坂口悠。俺の住んでいるマンションは、家族連れが多く住んでいる。俺が登下校する時間は、朝も夕方も調度、子供達が出かけたり帰って来る時間だ。


 親子で楽しそうに笑いながら歩いている姿を見ると微笑ましく思うのが普通だが、俺にとっては、あの時の光景を思い出すきっかけになる。


 つい心の中の思いが顔に出るのか、偶々子供と目が合うととても怖がられる。悲しい現実だが仕方ない。



 学校から帰って来て部屋のドアを開ける。一般的なツーロック式だ。中に入れば典型的なオープンキッチンの2LDK。俺にとっては広めだが、親が買ってくれたので、贅沢は言えない。


 鍵は両親も持っているが来た事はない。引越しの時も業者だけで済ませた。家族の顔を見るとあの時の光景が蘇り、気持ち悪くなり吐き気がするからだ。


 あの事件が起きるまでは、楽しい家族だった。それなのに…。





それは中学三年の時だった。

学術会議のおじさんから頼まれてて参加している小グループの打合せが終わると直ぐに母さんにスマホで今から帰ると連絡して電車に乗った。家の最寄り駅から出ると一生懸命走って家に向かった。


歩いて五分位の距離、俺にとってはどうってことない距離だ。久しぶりに父さんが帰って来る日だから。



 急いで玄関を開けて…あれ空いている?

「ただいま母さん、父さん帰っている?」


 玄関で靴を脱いでリビングに行くと家族以外に三人の男がいた。そして信じられない光景が広がっていた。


 その男達は姉さんや母さんを裸にして弄び、父さんを散々殴りつけていた。


 俺は一瞬頭の中が真っ白になり、


…………………。




 気が付いた時は三人の男が半死の状態になっていた。両腕、両手首は折られ、足も折られている。

 男二人はすべての指がおられていた。顔は原型をとどめない位崩れていた。全員気を失っている。

そして俺の手には赤く血塗られた木刀が握られていた。


 その後、家の前に何台ものパートカーと救急車が来て三人の男を連行し、自分も手傷を負って病院に行った。勿論家族全員だ。



 俺は、傷の手当てが終わった後、長い時間警察から事情聴取を受けたが、相手を傷つけたこと自体が頭からすっこんと抜けていて、何も思い出せなかった。


 俺の診療に当たった先生から解離性健忘…心的外傷またはストレスによって引き起こされる病気で、自分にとって不都合な事がすっかり記憶から抜け落ちる病気…である事を言われた。


 あの事件以来、俺は家族と会う事を体が拒否するようになった。会うと吐き気がしたり気分が悪くなったのだ。

 病気の症状らしい。それが理由で今、一人で住んでいる。家族がどうしているかも分からない。


 子供の俺でも分からない事が有った。あれだけの事件なのに次の日もその次の日もこの事がテレビや新聞でニュースになる事は無かった。


 警察も簡単に捜査を打ち切った。俺は本来なら過剰防衛でも訴えられての仕方ないのに何もお咎めはなかった。




 そして三週間後、俺の銀行口座に一億円もの金が振り込まれた。振込先は、聞いた事もない団体か企業名だった。



 その後、黒ずくめのスーツ姿の男が二人このマンションにやって来て言った。


「坂口悠君だね。君自身と君の家族に起こった事は全て忘れて欲しい。振り込まれたお金は口止め料だ。以後この事に関して口に出すのは厳禁だ」


 俺はその言葉頭に血が上り、ふざけるなと言って、殴り飛ばそうとしたが、俺の腕を受け止め、大人しくした方が君と家族の為だと言って去って行った。



 だが俺の心の中は余計に怒りが湧いた。あんな事をしながら平然と生きている奴らに絶対復讐してやると。

 家族をあんな目に合わせた奴らを白日の下に晒し、社会的にも個人的にも罪を償わせてやる。





 夕食は帰りに近くで買ったコンビニ弁当だ。誰もいない静かなダイニングで食べていると涙が出て来ることがある。


 泣いたからって誰もいない。泣けばいいのに、でも泣いたらあいつらに屈服する事になる気がしてしょうがない。泣く時はもう一度家族が元通りになった時だ。


 風呂に入りたいが面倒なのでいつもはシャワーだ。休みの時だけ風呂を洗って入る事にしている。

 いまでも土日通っている武道場から帰った後は、やはり湯船に浸かりたいからだ。


 そして、シャワーを浴びると好きな専門書を読む。高校一年生の勉強は一学期に教科書を貰ったその日から三日で全て目を通した。


 家族を襲った奴らの足取りは全く分からなかった。あのスーツの男達が来る前は警察に行って調書を見せろとか要求したが、まだ取り調べ中だとか言われて見る事は出来なかった。中学生の俺だから軽くあしらっていたのだろう。


 あいつらが来た後は、調べる動きを止めた。家族への迷惑も考えると当分大人しくしていた方が良いと思ったからだ。





 朝は午前六時に目を覚ます。軽く柔軟した後、三十分程走る。帰って来てシャワーを浴びた後、走っている途中のコンビニで買ったパンを牛乳と一緒に食べて学校に行く。感情の無い生活だ。


 そんな俺に声を掛けて来た奴がいた。俺に声を掛けるのは友坂絵里か芳美位だが、この前は、図書委員の高橋友恵という女の子が声を掛けて来た。そして昨日は工藤真理愛とかいう女の子だ。


 俺みたいな男に声を掛けても仕方ないだろうし、相手にしなければ直ぐに飽きるだろうと思って無視を決め込んだ。もう声を掛けてこないだろう。



 そして今日も部屋に鍵をかけ、学校に行く。最寄駅から学校に行く間に同じ制服の男女が話をしながら登校していく。


 俺も中学、いや一学期まではそうだった。バカ友(友坂絵里)が偶に声を掛けて来た時は楽しく話して登校した。


 でも今は違う。あいつは夏休み以降、教室で一言挨拶する位になった。あの事件以降からだ。彼女は何か知っているのだろうか。


―――――


 大分暗かったですね。次話から少し恋愛要素が入ってきます。


次回以降をお楽しみ下さい。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


お願いが有ります。

本来は読者様の評価によって付けられる星★ですが、書き始めは星★が少ないと投稿意欲が消えそうになります。ぜひご協力お願いします。

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