バイバイ

第1話連都最恐の悪魔狩り

四皇連都ルー・パーブル。

連都を創るのと同時に創られた組織、ギルド。

ギルド所属者にはDランクから始まり最高ランクがSS。

ギルド創立から百年、SSランクの到達者は僅か三人!

その一人が悪魔と対峙していた。

何か特別な道化師のような不思議さを放っているその男は笑みを浮かべている。

その男は力の抜けたリラックスした表情。

悪魔はどうしようも出来ないバケモノを相手にしている表情。

悪魔の攻撃全てが男に何一つ通用しない。しかもどういう代物か不明な結界の中にいる。試しに壊せるのかを試したら全力を注げば脱出出来なくもない。

だが悪魔には余裕が無く、十八歳の男は笑み。

悪魔はどうすれば逃げられるかしか頭の中にない。

男は逃す気は無い、すでに手を打っている。どう足搔いても悪魔如きでは破れない手を。

その男の興味は悪魔がどれだけ醜い姿を晒し、どれだけ通用するのかの実験台としか見えていない。

悪魔が堪らず動く!

全身のマナを右手のひらに収束、それを男に向けてではなく後方に放った。するとその後方にひびが入る。そして悪魔はそのひび目がけて突進!

ひびは悪魔がその先まで行ける穴になり悪魔は目論見通りに結界から脱出!

だがそこには笑みの男が立っていた!

悪魔は思わず結界の方を見て気付かされる、ここも結界内!

その不様さに男は大笑い。男が思い描いた通りに動き焦った顔を見せる悪魔に。

改良した術の実験成功に!

「いい実験だった。礼として一撃で終わらせてやる」

男はショートソードを抜く。

悪魔は一矢報いる覚悟で男へマナを漲らせた右手で強襲!

だがそんなモノはすでに見切っている男は悪魔の核を斬撃。

悪魔は呆気無く絶命。

男はショートソードと悪魔の肉体の血を浄化。悪魔の血には毒素が含まれているため。

残った死骸はマナボックスに収納。

男は一通りやりたい実験を終わらせその確認をし、その場から去った。


ここはギルドの取引所。

男は回収した悪魔の死骸を交換しに来ていた。

男はいつも通りの鑑定の出来る広めの部屋に通され、二脚ある椅子の一つに座る。待つ事はいつも通り。この男を担当する女性はいつも忙しくしているのを男は心配している。だがその女性はそれを全く表に出さない。

ドアを開ける音がする方へ男は視線を向ける。

入って来た女性は凛とした美しさを輝かせていた。軽々しく声を掛ける事さえ難しい印象を受けてしまう!

だがこの男は違う。

「こんにちわ、相変わらず忙しそうで、ちゃんと休めてる?エクナさん」

ふっと、女性エクナは笑みを零す。

「こんにちわシゼさん、そんな風に言われたら私達が恋人同士のように誤解する人が増えますよ。私には好都合なので構わないのですが?」

女性エクナは普通の男なら求められているのだと喜びそうな色目を、シゼと呼んだ男に向ける。エクナは本当にシゼを求めている。

男シゼはそれを三年間流し続けている。

シゼはエクナと早く取引をして帰りたい。

「何でいちいち俺を求めるのかはいつも疑問ですがエクナさんなら相手なんて選び放題、だからそんな目を向けずに取引の話をしましょう」

男がいつも通りなのは女性としては傷つくのだが、会う度にもしかしてがあるのでは?そういう妄想をしてしまう。歳は四歳上の女性エクナ、男性と付き合った経験はある。だがそれらは何故付き合ってしまったのか。今なら幼かった、の一言に尽く。そんな時、この男と出会ってしまった!

男、シゼ十五歳当時Sランクの時に初めて会い、エクナ自身の魂が魅了!

それ以来他の男は取るに足らない仕事だけの関係。

それらを含め伝えた上でシゼを誘っているが、男シゼは一度も見向きしない。

それでも諦めきれない!

「なら私はシゼさんを選びます。選び放題なんですよね?だからこの後、食事に行きませんか?」

女性エクナは胸のドキドキが止まらない。ありったけの勇気をぶつけた!

男シゼは言われずともその勇気を感じている。だからこそもったいない。他にエクナを大切に守ってくれるような男達を知っている。エクナと付き合う気が無いのなら、はっきりフッて欲しい。男は何度もしてると言ってもウソツキ扱い。だから今回も試す!

「俺の事は選べないし、食事にも行きません。エクナさんと男女の関係にもならない。それより仕事の話をしましょう」

女性エクナ、胸を寄せ瞳が潤む。

「一回付き合いましょ、今日その一歩目として食事に行きましょ」

破壊力は抜群!

男シゼでないなら、今日中に男女の関係に成っているのは、疑いようが無い!

それでも残念、男シゼには響かない。

「だから俺以外の男を誘って下さい。そうすればその男は大喜びで付き合ってくれるし何だってしてくれますよ」

男は突き放す言い方をしたという、ここまで最低に言えば流石に幻滅してくれると期待した。

「なら明日はどうですか?そうすればお昼から出かけられます!」

「何でそうなるんですか!?ここまで言えば脈ナシで引き下がる所でしょ。何より俺の何がいいんですか?他にエクナさんを求めてくれるいい男なんていくらでもいる。だから諦めて下さい!」

男シゼは精一杯だった。悪魔を弄んで殺した男と同一人物には見えない。

その男の様を見ても女性エクナは揺るがない!

「私をフッて欲しいと言われているのは知ってますよ。何よりシゼさんにとって異性と付き合う優先順位がそこらへんの男より低過ぎることも知っています。ですがシゼさんはこうやって話してくれる。だからこれからも求めます。シゼさんのモノになってお互いが死ぬ日まで」

男はようやく女性エクナを少し理解出来た。

「まさか愛人でも良い訳ではありませんよね?」

女性エクナは毅然と言い切る!

「全然問題ありません。シゼさんのモノになれるなら形は何でも構いません」

男は想像通りに言い切る女性エクナを怖れる。やはり男シゼとどんな形でも女性エクナを求めてくれるなら本当に何でも良いらしい。

「食事だけでいいなら今度行きましょう」

女性エクナはこれが現実なのか?こんな日はもっと先、そう十年は先と覚悟していた…。なのに本人は食事ぐらいなら構わない。そう考え直してくれたのが嬉しかった。

「なら明日です!」

「場所はお任せしても?」

女性エクナは何度も頷く。

「なら仕事の話をしましょう」

女性エクナの表情が仕事モードに切り替わる!

「今回の品物は?」

男はマナボックスから悪魔の死骸、八体を床に散らばす。

「では鑑定します」

結果、他の悪魔狩りの持って来る物より七倍の価値。血が全く無いから。

「換金ではなく交換と聞いていますが何と交換ですか?」

「ハイレベルのマナコイン」

女性エクナは最新式のマナボックスから二十枚を取り出し丸机に十枚ずつ積み上げる。

「お確かめ下さい」

男シゼは一枚ずつ品質を確かめながらマナコイン用の右中指の金の指環の中へマナコインが消えていく。

男は椅子から立ち上がった。

「それでは帰りますが、待ち合わせ場所はこの取引所でいいですか?」

「はい、12時でお願いします。それでは気が変わったから来ないというのは無しですよ」

女性エクナは可愛く身をよじる。

「それでは明日」

男シゼは取引所を後にした。


男シゼは帰る途中、呼び止められる。振り返ると歳二十九の男が余り軽いとは言えない足取り。

「どうしてお前は稼げるんだ?」

「夕方前からそんな事を口にする奴には一生、分からないから諦めろ」

男二十九がシゼの胸ぐらを摑もうとするのを、シゼはその右手首を右手で握り制する。

「何だこの手は?」

シゼは虫ケラを見る目。

二十九は高笑いをしながらシゼを睨む。

「さっさと離せ、痛えだろ」

「なら何で変なカラミカタをした?」

「同じBランク同士だろ」

シゼは自身の情報を操作して正確な情報を摑ませないようにしている。

そんな事を考えもしない二十九はシゼの事を自分と同じBランクだと疑わない。

「それで何の用だよ」

「俺の稽古に付き合ってくれよ、いいだろ?」

時刻は午後一時前。

「一時間な」

「二時間」

「そんなにやってられんのかぁ?」

「俺をナメてんのか?」

「お前をナメて何がそんなに面白い?。そんな基礎すら何で分からねえんだ?」

二十九はイライラしながら文句をつけたいがシゼの睨みに、何故血の気が引くのかが分かっていない。

それでもナメられたままでは恰好がつかない。

「いいぜ、ならここで真剣勝負しようぜ。それともビビっちまって動けなくなっちまったか?」

男シゼは遠い空を眺める。全く気乗りがしないからだ。それでも相手をしなければ何故かどこにいても襲われる可能性がある。仕方なく武器を持たず、自然体でナシトにガンをとばす。

それを戦いの始まりと見たナシトはロングソードを抜く!

五メートル程距離を置いていたシゼにためらい無くダッシュ斬り。

男シゼはロングソードを右手で受けそのままナシトごと地面に叩きつけた!

ナシトは呆気無く気絶。

男シゼは何事も無かったようにその場から歩き去った。


ここは2階建ての館、男シゼの所有物。

マナキーで入口のドアを開けた。

手洗いとうがいを済ませた男はリビングにあるソファーに寝転がった。

すると二階の階段から降りてくる音が聞こえてきた。

リビングに現れたのは女性。静かさを統率しているかのような、水色髪玄眼の、精霊にでも見間違われそうな女王然としている綺麗な女性はソファーにそっと右手を置く。

「昼食は食べて来ましたか?シゼ」

その甘い声を掛けられた男シゼはソファーに座る態勢に。

「食べてるなら自分の部屋のベッドで寝てるよ。後、いちいち俺の顔をそんなに見るな。何がそんなに面白いんだ?」

男ならすぐにその気になる程のスタイルとルックスの女性に甘い声を掛けられても、シゼの食指は動かない!だが腹は減る!

それを心得ている女性は笑みを浮かべる。

「カレーライスならすぐ温められますよ、どうしますか、シゼ?」

男シゼはただの厚意なのか、何かの企みがあるのか、正直読む事が出来ない。この女性なら全てに何かしらの意図と罠を仕掛けられる。なのに何もしない。何故か女性は男に尽くしたい、それだけ。

だから男はいつもの堂々巡りを止める。そして情けない声。

「お願いします」

「いつもの席に座って待っていて下さいね」

女性は甘い声を掛けてキッチンへ。

男は何も言わずにソファーから立ち上がり、いつもの木製の椅子に座り、女性の事を見る。どうしてこの女性はシゼに尽くしてくれるのか?それがいつも女性の料理が出てくるまで続ける。答えはいつも出ている。ただ手持ち無沙汰なだけ。

女性は料理を運んで来た。

「どうぞ、ビーフカレーです」

「いただきます」

男が食べ始めると女性はそのまま向かい側の木製の椅子に座ると、ずっとシゼを見つめている。

男は最初の頃は気まずさを感じていたが、今では全く気にならなくなっていた。

「ごちそうさま」

男はおかわりをして二人分のビーフカレーを食べた。

女性は食器を洗って片付ける。冷やしていたコーヒーをコップに注ぎ二人分を木製の机に置く。

男はコップを手に取り、注いであったコーヒーを半分飲んでから、話を切り出した。

「ラピネ、今日のカレーがいつもより美味く感じたんだが、米変えたのか?」

「はい、この前知り合った方に教えてもらい、今日配達してもらったお米です。本当に美味しいのでシゼにも食べて欲しくて。だからいつも通りの時間になっても帰って来ないので、ヤキモキしたんですよ」

女性ラピネの甘い声。

「それでどんな問題を抱えてるんだ?相談事がある時は大体何か用意してるだろ。それが俺の勘違いならそれでいい」

「どうしてそうやって見透かそうとするんですか?」

「無いなら無いでいいんだよ」

「あります、相談事はあります」

女性ラピネは手を挙げて訴える。その様は十八歳の純真さ!

「それはさっきの米と何か関係があるのか?」

「知り合った方というのが女性なんですが夫の事で頭を悩ませているらしくて」

「それが夫婦の問題ならギルドに相談してくれ」

男は男女間の問題に興味が無いので相談されても何も出来ない。

女性ラピネもそこは心得ている。それでもこの相談内容はシゼが最適。

「その夫は悪魔狩りをやっているらしいんです。その妻のスラスさんはそれをもう辞めて欲しいそうなんです」

男はスラスという名に引っ掛かった。

「まさかその妻の名ってスラス・チューハって言わないよな?」

「はい、そうですが何で知っているんですか?」

女性ラピネは何故かを問い質し掛けるが、シゼの機嫌が急に悪くなるのを見てやめる。その群青色の眼が虫ケラを見る眼になったから!

男シゼはそういう眼になっているのをラピネが少し怯えるのを見て気付く。すぐに呼吸を整え、平常時に戻す。

「気のせいなら良いがその夫の名、ナシト・チューハか?」

男はまだ声に怒気が含まれているのに気付く。女性ラピネにやってられない気持ちをぶつけてもしょうがない。それでもどうしようも出来ない。あの虫ケラを人間として扱えない!

「本当にどうしたんですか?そんなに精神を掻き乱される人なんですか?ナシトという人は」

悪魔を実験台にする男シゼがここまでになる男ナシトはどんな人物なのか、ラピネは一気に不安になる。そんな男と一緒にいてあの女性スラスは大丈夫か、怖くなった。

男シゼは女性ラピネを不安な気持ちにさせてしまい、深く反省した。

「悪かった、あの虫ケラを思い出すとどんな時も嫌な気分になるんだ」

「虫ケラ?そんな夫なんですか、奥さんはそんな人ではありませんよ」

「ならその奥さんが男を見る目が悪いのか、虫ケラがまだ人間に見える時期に結婚して子供が出来た後に、虫ケラになったんだろ」

男シゼがここまでボロカスに言うのはルームシェアをして二年近い付き合いになるが女性ラピネは心当たりが無い。どんな人でも何かしら良い所を見つけようとするシゼがそれを放棄するほどの男。

「スラスさんは暴力とか受けていませんよね?」

「ああ、それは無い。女に手を出すようならとっくに牢獄にいるはずだ」

「ならどうして虫ケラ扱い何ですか?」

男はせっかくの良い気分をこれ以上悪くしたくないので女性ラピネを睨む。

「もういいだろ、悪魔狩りが出来ないクセに悪魔狩りを名乗ってる虫ケラ、いやもうハエでいいか。だからやめようぜ、この話」

「待って下さい。悪魔狩りをやってないんですか?」

「そうだよ」

「ならどうして悪魔狩りを名乗ってるんですか?」

「今その話の結論を出したろ、ハエって」

女性ラピネはその結論から推測する。

「死肉にたかるハエって事ですか?」

「それだと半分にも届いてないが、もういいだろ、ハエの話なんて気分を悪くするだけだ」

本当にどうでもいいという顔で男シゼはコーヒーを飲む。

しかし女性ラピネとしてはそのまま放棄したままに出来ない問題。

「ならどうしてスラスさんはそのハエが悪魔狩りだと信じてるんですか?その答えを知っているなら答えて下さい!」

女性ラピネの玄眼は本気で魂ですら摑めてしまいそうな睨み。そうラピネは分かっている。その程度で男シゼが思い出すだけで気分を悪くしたりはしない!

男はやってられない、何でハエについてイチイチ教えなければならないのか、教えても気が滅入るだけ。それでも話さなければラピネは今日の晩飯を無しにする。今日は外で晩飯を食べる気の無いシゼには話す以外にラピネの作る晩飯にはありつけない!

「どこまで話せばいい?」

「知っている全てです」

男は首を後ろにあ~〜。

「本当に言わないとダメかぁ?」

男シゼはどうにか言わずに済まないか、女性ラピネに両手を合わせて拝む。

「そこまで言いたくないんですか?」

こういう時、男シゼは何かを企んでいる。

それがもう少しで達成できるが話せば台無しになるから話したくない。そして今日の晩は家で食べたい。

「なら今日は外で食べて下さい」

「何でそうなる?そこまでその奥さんが大事か?」

「はい!」

「マジで?」

「マジ、です!」

これは逆に話さない方が面倒になる。それがもう目に浮かんだ男シゼは仕方なく一つ話す。

「あのハエはエサ役なんだよ」

女性ラピネは急に出て来たワードに首を傾げる。

「それは囮役ですか?」

「そんな価値の高い役割ではない。もう少し踏み込んで言えば生き餌だ」

「まさか悪魔を引き寄せられるんですか?」

「あのハエのマナは悪魔の好みらしくてな。マナを広げれば近くにいる悪魔を本当に引き寄せられるんだよ、冗談抜きでな」

「もしかしてそのハエの役割はそれだけですか?」

「ああ、それだけだ」

「戦いに参加しないんですか?」

「ああ、しない」

女性ラピネは右手を唇に当て、確かめる。

「それは悪魔狩りと言えるんですか?」

「今も昔も悪魔ってマナを補給しないといけないが、ハエのマナはその補給欲見たいのを刺激する見たいでな。昔なら引き寄せ役の悪魔狩りと言える」

「でも今はそうとは言えないんですね?」

「そうだ」

女性ラピネはいまだ右手を唇に当てている。今の所それだけで男シゼがスラスの夫をハエ扱いする訳が無い。何より今は悪魔狩りと言えないのに奥さんの話では相当な稼ぎがある。どうやって稼いでいる?

「そんな思い詰めた顔しなくても何も変わらないからな、もう充分だろ?」

「そういうわけには行きません。そのハエは何で稼いでるんですか?」

「悪魔狩りだろ」

「ですがハエは悪魔狩りとは言えない、シゼはそう言いました」

「何か問題があるのか?」

女性ラピネは鋭利な眼に厳しい声!

「何をはぐらかしてるんですか?私に教えられない理由なんですか?何か言って下さい!」

そこまでハエの奥さんを大事にするのが男シゼには意外だった。

「そこまで拘る理由を言え」

男シゼの真っ直ぐな群青色の眼に真剣な声!

女性ラピネはうっとりしてしまった。これは明らかに日頃の行ないの良さによる御褒美!

ラピネは嬉しすぎて頭を何度も横に振った。

シゼの視線に気付いた女性ラピネは咳払い。

「友人と呼べる奥さんだからです。シゼならこれ以上言わなくても通じますよね」

男シゼはラピネが人付き合いが苦手な事を知っている。だからこそ友人と呼べる存在は稀有。男は反省した。

「本当に聞きたいのか?お前にとって悪い話でしかないぞ」

女性ラピネはどういう意味なのか計りかねる。ただ男シゼのこの言い方はいつも当たる。本当に聞かない方が良い。それでもラピネは知りたい!

「聞かせてください!」

女性ラピネの玄眼は何でも受け入れる決意に溢れていた。

男はそれでもラピネがきっと後悔する。それ込みで受け止め切れるのか、疑問でしかない。

「きっと後悔するぞ」

「お願いします」

「何でもかんでも知らなくてもいいんだぞ」

「それでも教えて下さい」

「いや、これ絶対聞かなくていい話だぞ。だからこの話は終わりにしようぜ」

「やです」

男シゼはうなだれる。

「本当に聞くか?」

「はい!」

男はいい返事をする女性ラピネに根負けした、後で何を言われてもこれを言い訳に使うと決めた。

「あのハエはなチームメンバーを脅迫してるんだよ」

女性ラピネは思わず、へ?

「メンバーの弱みを握って、ただの生き餌のくせに悪魔狩りの賞金と素材を売った総額の九割を掠め取ってるんだよ」

「そんなお金の稼ぎ方なんですか?」

女性ラピネはらしくなく驚く。

「そうだよ」

男は冷静。

「ということはですよ、それってお金を盗んでるのと同じですよね」

女性ラピネは一つずつ飲み込む努力をする。

「その汚いお金であの奥さんは養われてるんですか」

「子供もな」

「そんなの犯罪者とどう違うんですか!?」

女性ラピネは怒りを露わにする。

男は尚も冷静。

「誰も訴えないからだよ」

「…一人もですか?」

「そう一人も」

「何で問題にならないんですか?」

「問題にしたくないからだろ」

「どうして?」

男シゼは困る。

「余程の弱味を握られてるんだろ。バレたらやっていけなくなる程の」

「奥さんの夫は何故のうのうとしているんですか?」

「ハエは人間の事なんかどうでもいいんだろ、自分の家族の事もな」

「信じられない!そんなのとはもう別れるように言ってきます!」

立ち上がる女性ラピネの右腕を握って男シゼは止める。

「やめとけ、無駄だから」

「何で無駄だって言い切れるんですか!?」

「もう既に俺がやってるからだよ」

「それはあの奥さんも知っているのですか?」

「だから悪魔狩りを辞めて欲しいんだろ」

女性ラピネは立ったまま、やっと奥さんの思いを少なからず理解し、家を飛び出さない程には落ち着いた。そして右腕を握っているシゼの右手にラピネは左手を添える。

「大丈夫です、シゼ。このまま寝室に行きますか?」

静かさを取り戻した女性ラピネは男シゼをここぞとばかりに誘惑する。

男は少し乱暴に手を離す。そうしなければ女性ラピネは調子に乗る。椅子に座り直し、コップに残ったコーヒーを飲み干す。

女性も座り直してコーヒーを飲み、微笑む。

「それでは続きを聞かせて下さい。今の話だけでシゼがハエと呼ぶ訳ないですから。話してくれますよね?シゼ」

男シゼは女性ラピネに言っていいものかは悩み所。話した後のアクションが簡単に想像出来るからだ。両腕を組んでどう対処するか考えるが、取り敢えずこの館から出られないようにした。

「こっからの話を聞いて何もしない、それが条件だ、出来るか?」

「そこまでなんですか?私がまるで取り乱すみたいに聞こえますよ」

「そうだよ」

「言い切るんですね」

女性ラピネはずっと男を見つめている、逃がさない為に。

男シゼは逃げられるか想像して見るがどうやら、無理っぽかった。逃げるのは全身全霊を懸ければ出来なくはない。だがそれはもう殺し合い。ハエの件でラピネと殺し合うのは失うものが多過ぎる。

シゼは深呼吸。

「いいよ、話す。但し俺の出した条件を本当に呑め」

「呑みますから答えて下さい」

男シゼは机に左手で頰杖をつく。

「ハエは俺の名を勝手に使ってる。俺をいつでも呼べばすぐに来るってな。後は俺の名を使って偉そうに豪遊してた。二週間前にその連絡が来て仕方ないから全額払ったよ」

女性は不意を突かれた。とても信じられない、どうかしている!当然、疑問が生まれる。

「どうして許しているんですか?シゼならとっくに何かをしてる筈です」

「言ったろ、ニ週間前って」

「それでも何故?私の知るシゼなら何らかの処理をして終わらせています」

「ギルドにまだ何もしないで欲しいって頼まれてるんだよ」

「ギルドが何でそんな事を頼むんですか?」

「何かが囲ってる可能性があるからだと」

「シゼならもう調べたんですよね?」

「ああ、何も出て来なかったよ。それを見せても自分達が納得するまで調べさせてほしいだとよ」

「何ですかそれ!いいでしょう、今すぐギルドに行きましょう」

「ギルドには明日行く」

「なら私も付いて行きます」

「それはいい、食事のついでに訊くから」

女性ラピネの眉がぴく。

「食事って誰とですか?」

男シゼはマズッた。とわいえ言ってしまったのだから、言う。

「エクナさんとだよ」

「何であの人と食事するんですか?ちゃんと説明して下さい」

女性ラピネは怒りが顔と声に出ている。自分とは外で食事してくれないのに何故あの人とは食事をするのか、 問い質す!

「別に何も無いって、ただ食事するだけだ。本当にそれだけだ」

「なら私も付いて行きます。何も無いなら構いませんよね」

「いいぞ。それで気が済むならな」

女性ラピネは拍子抜け。本当に食事をするだけ、男シゼはそれ以外考えてもいない様子。それでも相手はあの取引所のマスター。何かしてくるのを前提に警戒心を胸に秘めた。それはそれ。

今日のシゼを独占出来るのは私!久し振りに他のメンバーがいないんだから。

「それでは今日の晩御飯は何がいいですか?」


翌日の昼、十二時。

「どうしてあなたがここにいるんでしょうか?きちんとした説明を」

女性エクナはいつもの格好だが凛とした美しさに磨きがかかっているように見える。

男シゼはそれでもいつも通りに振る舞う。

「誰も連れて来ないとは言ってませんよ。それとも何か問題でも」

「そうです、何も問題はありませんよね?」

ラピネの発言に女性二人は視線バチバチ!

それに気付いていても男シゼは妙に自然。

二人はそれに気付く。

ラピネが口火を切る。

「どうしてそんなに余裕なのでしょうか?」

「そう見えるか?だとするなら見慣れた光景というか、懐かしいとか、そんな感じだな」

女性二人は眼をぱちくり。

男シゼはその反応に面白味を感じる。目の前にいる女性二人は連都では有名人にして実力者。Sランク同士のバチバチはそうそう見られるものではない!

女性ラピネはシゼ一人で面白がってズルイ、そんな話を聞いたのは初めてで、

やっぱりズルイ!

「詳しく話して下さい、今すぐです!」

ラピネの甘い叫びは食堂前に響いた。

「取り敢えず座ろうぜ。話ならこれからするんだからな、二人共」

三人で奥の方の四人で座れる場所へ。

男シゼが座ると対面に女性二人が座る。

「それで何をそんなに訊きたくなったんだ?食堂に来たんだから何か食べながらにしようぜ」

「でしたらトンカツ定食でいいですか?」

二人は頷き、女性エクナは三人分のトンカツ定食を注文。

やっと女性ラピネは深呼吸。

「それで何がそんなに懐かしいんですか?洗いざらい話して下さい」

「そんな前屈みになって聞くものでもないぞ」

「そういうのはいいんです、さっさと話して下さい」

「俺が師匠と暮らしてた時に…」

「待って。その師匠て言うのは…」

「男だよ。そしてモテモテだった」

黙って二人の会話を聞いていたエクナが割って入る。

「その師匠と言うのはどういう人だったんですか?」

男シゼはこめかみを右中指で三回打つ。

「何だろうな〜〜、不思議な不思議な不思議なんだが何故か信用出来る人だったよ。今考えても不思議でしかない」

「なるほど、その人の影響を受けているから、シゼさんも不思議に見えるんですね、納得がいきました」

エクナは両手を合わせて微笑む。

だがラピネは納得がいかない。

「それで何がそんなに見慣れてて、懐かしかったの?」

厳しめのラピネの玄眼は男シゼを睨む。

男シゼは一呼吸して当時を思い出す。

「師匠の妻の座を争うっていうのが、本!当に見慣れた光景でな。もう見過ぎて、飯を食べながら見れる光景になってな、だからさっきのバチバチも師匠を思い出して懐かしかったんだよ」

女性二人は推測する。

ラピネが先に語り出す。

「もしかしてその光景を見過ぎて、私達を女として見られなくなった?」

男シゼのまゆが、ぴく。

「ん?どういう意味だ?」

シゼは何を訊かれているのか、理解できていない。

女は女だろう?

首を傾げるシゼを見て、エクナが追撃。

「私達をどういう風に見ていますか?」

男シゼは普段通りに話す。

「俺の担当と俺の仲間」

シゼの発言に女性二人はまた推測する。

エクナがまた追撃。

「私達を見て恋人にしたいっていう欲求は?」

男シゼは半眼になる。

「何言ってんの?」

女二人が深刻な顔!

今度はラピネ。

「恋人を作りたくはないんですか?」

「…恋人、必要なのか?」

女性エクナが答える。

「必要です!いるといないとでは世界がまるで違います!だから私を恋人にして見ませんか?」

エクナの発言にラピネはシゼを見る。

シゼは首を傾げる。群青色の眼にはそもそも恋人は本当に必要なのか困惑の色。

「エクナさんはいつもそう言うね。その度に他の男が大切にしてくれるよって言った筈だよね?それもラピネが隣にいるのに、どうしたら諦めてくれんの?」

「昨日も言いましたが私が求めているのはシゼさんです。他の男と付き合うなんて問題外です。シゼさんになら私をどう扱ってくれて良いんですよ。だから私を求めて下さい、お願いします!」

頭を下げるエクナ!

これにラピネは衝撃!ここまでしてまでシゼを求めて来なかった。胃袋を摑めば何とかなると信じていた。だからこそ訊いて見たくなってしまった。

「シゼ!私もシゼを求めています。私では駄目ですか?」

瞳を潤ませるラピネにシゼは簡単に答える。

「お前もそれを言うのか。男が欲しいなら他をあたってくれ、俺は何故かそういう気にならないんだよ。悪いな」

女性二人はシゼの重症さに気付く、明らかに師匠と言う人との暮らしが女性に対して特に何とも感じない男に仕上げてしまったのを痛感!だからと言ってシゼを諦める理由にはならない!

ラピネは宣言する!

「シゼ、私はシゼの女になってみせます。だからこれから覚悟して下さい!」

それにエクナも続く。

「私もシゼさんが求めてくれるように頑張ります」

女性二人の熱意にシゼは不思議だった。男が欲しいなら他の男を求めればいい。なのにシゼ本人を求めるのか?

「まあいいよそれで。とりあえずトンカツ定食来たし食べようぜ」

給仕が気まずそうにトンカツ定食を置き、逃げるように離れていった。

いただきますと三人は食べ始める。

食べ終わったシゼはエクナに話しかける。

「エクナさん丁度良いからきくわ、シナトのチームメンバーについてはどうなった?」

女性エクナは定食と一緒についてきた麦茶を飲む。

「ああその話ですか。調べはつきましたがここで聞きますか?」

「頼むよ、ラピネも聞きたいだろ?」

「私が聞きたいのはスラスさんについてなんですが」

「スラス?ああナシトの妻をやっている人ですね。何かご関係が?」

「ラピネが友人と呼ぶ人だよ」

「なるほど、あの虫ケラを夫にしてしまった女性ですが、良妻と言える人ですね」

「今は虫ケラから変わってハエって呼んでる」

「相応しい呼び方ですね。やっと明日ですし」

「そうなんだよなぁ、SSランクになって二年経つけどそうなるとは知らなかった」

女性ラピネは話について行けない。

「何の話をしているんですか?」

「知らないならその方が面白いから楽しみにしてな」

「シゼがそういうなら楽しみにしますが、チームメンバーというのは?」

「昨日ハエがチームメンバーを脅迫してるっていう話をしたろ。その脅迫内容がただ気になったからギルドに、具体的にエクナさんに調べてもらったんだよ」

女性エクナは左の銀の腕環からマナスクリーンを展開。調査結果を確かめる。

エクナは何度見ても嫌ったらしい気分になるが、間違う訳には行かないのでもう一度確かめる。

「あなたも聞きますか?ラピネ・トクさん」

「その前にハエは誰かが囲っていたんですか?私はそれを聞く為に来たんです」

「その話ですか、申し訳ありません。シゼさんが言っていた通り何もいませんでした」

「やっぱりな、ハエを囲ってもメリットが一つも無いからな」

「ではもうラピネ・トクさんはお帰りを」

「何故そうなるんです?私が邪魔だとでも?」

これを言った所で何か変わる訳が無いのはエクナも分かっている。それでも言わずにはいられない!

「今日は私がシゼさんを独占出来るはずだったんですから、邪魔に感じるのは当然では?」

エクナの言葉はラピネの良心に突き刺さる。エクナと同じ立場なら同じ言葉を投げる。それでも反撃はする。

「話が終わったらどうするつもりでしたか?シゼをどこかに連れて行く気だったのでは?」

何を言ってるか分からない男シゼ。

「そんな約束はしてないぞ」

「男女が食事をした後は当然そうなるんです」

「師匠も言ってたな。一日に違う女と遊ぶのは当然だってな」

「それは当然ではありません!」「それは駄目です!」

女性二人の圧も関心の無いシゼには通じない。

「それはどうでもいいから、ハエのチームメンバーの話を聞かせてくれよ」

女性二人は気が抜けた。まずシゼが女性を女性として見てくれなければ、何も始まらない…。

「チームメンバーの話ですね。メンバーはハエを除くと三人です」

「悪魔と殺り合おうっていうのにか?その三人のランクは?」

「二人がBランク、もう一人がAランクです」

「だから成り立つのか、ならまだ生きてるのが納得がいくな」

「少しいい?悪魔狩りはそのランクで出来てしまうの?」

シゼとエクナは目が合い、シゼが答える。

「そもそも悪魔がどんなモノか知ってるか?」

「マナのエネルギー体でしょ?」

「それだと説明が足りない。その説明をするにはマナの話になるが、マナの説明出来るかラピネ?」

「マナの説明は水属性とか火属性とかそういうモノでしょ?」

「はい、違う」

「だってそういうモノだって…」

「お前の才能の凄まじさがここまでとはな」

「私は今褒められてるんですか?それとも馬鹿にされているんですか?」

「どちらでもない。ただお前の凄まじさが証明されただけだ」

「どう受け取ればいいんです?」

「そのまま受け取ればいい、簡単な話だ」

「私には難題です」

男シゼは溜息。

「俺と戦って勝ち目がある」

「ありえないです」

「それはお前の今の戦い方では無理だよ。だから前から言ってるだろ。戦い方を見直せって」

女性ラピネはそれが出来るならとっくにやっている。いざ取り掛かれば、どうしようも出来ない!それ程マナを使った戦い方は難しい。なのにシゼは容易くやって見せる。手本にも出来ない程に。

「なら今度手伝って下さい」

「構わないが前に何度も手伝って投げ出したしな。あれ手伝う側としてはかなりキツイんだぞ?」

ラピネは気まずい。

男シゼは何でもない顔でマナの話に戻す。

「いいか?マナは三つに分類される。一つ目はフォースマナ。ほとんどのマナ使いはこれを使う。俺もこれだ」

「私もフォースマナ何ですか?」

「お前は二つ目のエレメンタルマナだ。使い手は世界規模で見ても五百人いるかどうかだな」

「ちょっといいですか?」

女性エクナはスクリーンを一旦閉まって、疑問をそのまま口にする。

「ラピネ・トクさんがエレメンタルマナの使い手なのは本当ですか?」

「間違いない話だ」

「そうです、何か問題がありますか?」

女性ラピネは何故そこに引っ掛かるのかが疑問。

男シゼは思い出す。

「この連都では特別扱いだったな。確か相当な待遇が用意されてるんだったかな?」

「そうです!その待遇を使えば逆ハーレムだって作れます」

「どうでもいい話です、本来なら私はとっくに連都にはいないんですから」

「そもそもラピネが連都に来た理由は俺を負かす為だったよな?」

「そう依頼されて戦いに来て逆に負かされて、それ以来シゼだけしか男として見れなくなりました。あのズタボロにされたのは今では懐かしい話です」

「そうらしいからその待遇の話はいいよ。確か毎月ハイレベルのマナコインが二百枚支給されるんだったかな?」

「それがどれだけのモノかシゼさんは知ってますよね?」

「そうだな、上手くやれば金には困らなくなるがラピネには無理だぞ、アミュレットマナが扱えないから」

「それが三つ目?」

「そうだ。アミュレットマナはマナ合金を媒体にする事で扱える。例としては俺のこの金の指環もマナ合金だし、エクナさんの銀の腕環もマナ合金だよ」

「それなら納得です。マナ合金に何かしらのマナを送らなければ使えないんですよね?」

「そうだ、マナスペルをな。そしてマナスペルが扱えないラピネには使えない」

女性エクナは何故使えないのかが理解出来ない。エレメンタルマナ使いだから扱えないという理由にはならない。だが踏み込んではいけない事を感覚で察する。だからその前の話に戻す。

「それでは悪魔についての話に」

「そうでした。何で悪魔の話からマナの話をしたの?」

女性ラピネの熱視線を向けられても男シゼに照れは無い。

「悪魔ってのには心臓の代わりに核がある。その核がマナ合金で出来てる。つまりアミュレットマナで動いてる人造物なんだよ。そして肉体はエレメンタルマナで造られてる。それが悪魔だ。エネルギー体ではない!」

ラピネはいまいち理解が追いつかない。

「え〜〜、待って。人造物って言いましたよね?」

「言ったぞ、どこら辺が納得いかないんだ?」

「何がと言われましても、その言い方は誰かが悪魔を造ったようにしか聞こえませんよ?」

男シゼは当然のように頷く。自身も師匠に悪魔の話を聞いた時もこんな感じだったのを思い出す。

女性ラピネはすぐに頷かれて困った。こういう時はぶつかって行く、そう決めている!

「なら誰が造ったんですか?」

「二百年ぐらい昔の国々の開発者達だよ。昔ってのは戦争が日常でどうすれば他国に勝利出来るかしか考えてなかったらしい。その為には凶悪な兵器が必要、そう考えて造り出されたのが悪魔だ」

「その悪魔は何で今もいるんですか?」

「戦争が終わったから悪魔は国々には要らなくなったが、悪魔達はそれを受け入れなかった。だから今度は悪魔と残った国々の戦争が始まったらしい」

「何か頭の悪い話ですね」

「ああ、俺も師匠から聞かされた時は悪魔を平気で造っちまうイカレた状況だったんだろうな。だけど話はまだ終わらない」

ここまで話したが、途中で止める話でもない。そう判断したのは女性二人の聞く姿勢。どうやらエクナさんも知らなかった話らしくラピネも含めて真剣な眼差し!これに応えないのは男ではない!

「それから悪魔と人間の戦争になるんだが数で言えば人間側の方が有利なんだよ。それを覆したのが大悪魔の誕生だ」

「大悪魔ですか?それは国々の戦争にはいなかったんですか?」

女性エクナさんは大悪魔を造ったのも人間、そう想像していたらしい。

「違うらしい、ただ悪魔を超える悪魔を造る、そういうプロジェクトはあったらしい。それを悪魔が見つけたみたいな説は今もあるらしい」

女性ラピネも食いつく。

「でも実際は?その説があるだけ?」

「この話で重要なのは実際に大悪魔が誕生してしまった事実でその経緯は今、問題になっていない」

女性二人は納得いかないが全てを理解する必要がないのも知っている。

だがラピネは更に難しい顔。

「大悪魔が何故そんなに厄介なんですか?悪魔が悪魔より強くなったぐらいですよね?」

男シゼは自身が訊かれる立場になったのをしみじみ噛みしめた。

「大悪魔はな、指揮官でもあるんだよ。その前はただ襲いかかって来るだけだったのに、大悪魔は悪魔達を統率して戦わせられる。それは悪魔が戦況を読んで戦術を駆使して来るんだよ。これが本当に厄介なんだよ」

女性ラピネはそれがどれ程凄いのか、男シゼに疑いの眼を向ける。

シゼはこういう眼を向けてくるので例を挙げる。

「もし俺が戦力と呼べる誰かを率いて戦ったら?」

「そんなの誰も敵いません」

「大悪魔はそれが出来る」

「なるほど、自分で悪魔を選んで好きなように戦えるんですね、確かに厄介ですね」

「話を悪魔狩りとランクの話に戻すぞ」

ラピネは思い出す。

「そう言えばそういう話でしたね」

男シゼはわざと、くくっと笑う。

女性ラピネは侮辱に感じてシゼを見る。その眼は本当に面白いものを見ている。ラピネは好意を向けられているようで少し嬉しかった。

女性エクナは二人の世界が作られているようで嫉妬。それでもシゼへの想いは変わらない!

「悪魔狩りって言うのはその悪魔の核を壊す事と浄化する事だ」

女性ラピネはいまいち理解出来ない。

「核を壊すのは分かりますが浄化とは?」

「悪魔には毒素を含んだ血液がある、その浄化だ」

「それは私でも出来るんですか?」

「出来るぞ、Bランクからな。だからSランクのお前なら習えば出来るようになるよ。だけどお前には必要の無い力だ」

「どうして言い切れるんですか?実際は必要な力かもしれませんよ?」

男シゼはアホな事を言い出した、そんな顔。

女性ラピネはその顔に怒る!

「何ですかその顔?私がまるでアホみたいに、そう見られた時は責任を取って、今度デートして下さい!」

「アホな時はアホになったまま喋るんだな」

「私は真剣です!どこがアホ何ですか?」

シゼは本当にラピネのアホさかげんに、溜息。

「いいか、お前のエレメンタルマナの力を奮えば、浄化以上の力が働くからだよ」

女性ラピネにとってその発言は不意打ち。自分が知らないのに何故シゼは知っているのか?答えて貰わなければ気が済まない!

シゼはそれを察した。

「お前さぁ、何で自分が特別扱いされると眼を背けるんだ?お前のマナは間違いなく特別だぞ。それをもっと自覚しろ。そうすればお前ならSSランクだって夢ではなくなるんだぜ」

それは女性エクナにとって衝撃でしかない!

「シゼさん、それは本当ですか!?」

「そのままだよ、SSランクの条件は明確。ただただ強ければいい。それだけだろ?」

男シゼは事実を話した。そう事実でしかない!

エクナは髪を搔き乱す。

「この話は今度、ちゃんと話してくれますね?」

「もちろん、今はハエのチームメンバーの話をしようか」

女性エクナは再びマナスクリーンを展開。

「ハエのチームが二回、悪魔狩りを成功させています。それが出来たのは間違いなくAランクが一人いたからです」

「それはBランクでは悪魔狩りが出来ないんですか?」

「一人では死にに行くのと変わりません。ですが十人以上いるのであれば悪魔二体までなら誰も死なずに倒せる可能性はあります」

「十人以上いても全員死ぬ可能性もあるんですか?」

「そうです。ですが一人でもAランクがいるのであれば話が違ってきます。Aランク一人だけで悪魔を五体ぐらいなら倒せます」

女性ラピネは堪らず訊く。

「ハエのランクは?」

「Bランクです」

「という事はAランクの人はハエより強い筈ですよね?」

「そうですが、AランクもそうですがBランクの二人も弱みを握られていました。連都ではこんな姑息をするモノは普通はやっていけません!」

女性エクナは嫌気と怒りが混じった顔を隠そうともしない。

それを見たラピネは声が掛けられない。

男シゼが続きを促す。

「それでどういう弱みでしたか?」

男シゼの真剣な眼にエクナは平常時の気分を取り戻す。

「三人共、連都に来る前に犯罪行為をしていました。ですが三人共罪は償っています。そして一旗揚げる為に連都に来たらしいです」

女性ラピネは一つ疑問が浮かぶ。

「罪を償っているなら弱みにはならないのでは?」

エクナは忌まわしいモノを見る眼に。

「その罪を償ってない上で何か犯罪を企んでいる、そういう情報をばら撒かれたくなければ俺に従え、そう脅迫されたそうです」

「それを信じる人が連都にいるんでしょうか?」

男シゼはラピネの疑問にバカバカしく感じていても優しく答える。

「一旗揚げる為に来ただけなら知らなくても仕方ないだろ。実際罪になるのは、ハエだけだ」

女性ラピネはもう一つ疑問を口にする。

「それでその三人はどうなったんですか?」

「こちらの方で保護しています。この情報はちゃんとした仕事を紹介する、そういう取引をしました。信用して頂くのに半日ほどかかりました」

ラピネは首を傾げる。

「そこまでしてハエが悪魔狩りをしたがる理由は何だったんでしょう?」

女性エクナは苦々しい気分になるも男シゼが大丈夫かと目を合わせる。すると上機嫌で話し始めた。

「そもそもハエは情報屋だったらしいです。ですが金欲しさの為に嘘の情報、ゴシップを流して稼いでいたらしいんですが、ある嘘情報が結構な力を持つ有力者で、逆に陥れられたらしく情報屋を続けられなくなってしまって途方に暮れたようです。金使いも荒かったので借金をしようと消費者金融に行った時に悪魔狩りを儲け話として紹介され、それが上手くいってしまった。それから悪魔狩りのチームを転々として、そして自分のチームを作り今に至ります」

女性ラピネはまた疑問。

「どうしてシゼの名を勝手に使うようになったんでしょうか?」

「それは情報屋をやっていた時に使っていたネットワークで見つけて、この名を使えば何だって出来る、そうメンバーに奢った酒の席で自慢気に話していたようです。それが何を意味するのかも知らずに」

男シゼは訊く。

「それでハエは今どこにいる?」

「Aランクチームにシゼさんの名を使って入り込んだようです」

シゼは右人差し指の金の指環でハエの位置を探る。

「どうやら悪魔と戦ってるみたいだから終わらせてくる」

女性ラピネは止めに入る。

「ハエを助ける必要なんてないでしょう。それともまだ話してない秘密でもあるんですか?」

「ああ、ある。さっき言ったろ、面白いから楽しみにしてなって?だから行って来る」

シゼは立ち上がって金の指環からマナコインを出現させた。するとシゼは転移した。そこにシゼがいた痕跡を残さない程静かに!

それを見たエクナは相変わらずの手並みに惚れ惚れした。

「どうしたら何も発生させずに出来るのかがいつも謎ですね」

「失敗を重ねていけば出来るらしいです」

女性二人は互いを見てどうしてあの人を好きになってしまったのか、微笑み合った!


男シゼは上空二百メートルからAランクチームとナシトの戦いを見ている。

相手は大悪魔が十体の悪魔を指揮してジワジワ弱らせていく戦い方。

このまま行けばグール化やただ喰われて全滅。

シゼはショートソードを抜き戦況を支配しに行く!

地面に降り立つまでに悪魔十体の核と罠をニ撃で破壊。悪魔は全て絶命、悪魔十体の血液全てを浄化!

いきなり現われたように見えた男シゼにその場全員は状況の把握が出来ない。

最初に声を発したのは大悪魔。

「何者だ?」

「喋らなくていい、どうせすぐ死ぬん…」

「待て!我と取引をしようではないか」

大悪魔は危険を察知。

男シゼは呆れ顔。

「どんな取引だ?」

「お前達全員を見逃してやろう、その代わり我の手下の骸は全て貰う。これ以上の取引はないであろう?」

男シゼは本気で言ってないのを理解した上で嗤う。

「大悪魔とはいえ、こんなもんだな。気付いてないみたいだから教えてやる。お前が施した罠は使い物にならないぞ」

罠がまだ存在しているのを確認してから大悪魔も嗤う。

「馬鹿め、気付いていなければ楽に殺してから喰ってやったのだがな、死ね!」

男シゼの罠があるように見せるのは成功。

大悪魔は一瞬動きが止まる。

シゼは大悪魔を殺す為に突進!

大悪魔はとっさにシゼ目掛けて火球八発一斉に撃つが、シゼは浄化で相殺!

大悪魔はバリアを張る。しかし破壊される。それでも核が一つ破壊されても問題にならない。

だが大悪魔は知らない。

シゼは大悪魔の核が三つある事実を知っている!

一薙ぎで三つ全てを破壊!大悪魔は何も言えずに絶命!

シゼは大悪魔の血液を浄化。ショートソードを鞘に収める。 

Aランクチームは歓声を上げる!

「信じられねぇ~、助かったぞ!」

男シゼはそのチームリーダーに見えた男に話しかける。

「テンションを下げるみたいで悪いんだが大悪魔と悪魔十体全てもらっていくぞ」

「はい、命があるだけで充分です」

「待てよ」

「何だ、ハエ?」

「誰がハエだ、俺はナシト・チューハだ。その悪魔共は俺のモンだ、何を勝手にやってんだ!」

シゼは思い出したかのように告げる。

「ハエ、お前ももらうぞ、お前の命をな」

「何言ってんだ、俺の命は俺のモンだ」

「知らないのか?俺の名を勝手に使った罪で死刑になるんだよ、明日な」

「ふざけんな、何様のつもりだ!?」

「SSランクのつもりだ」

男シゼ以外全員が言葉を失った!

「死ぬ前に教えてやる。SSランクの名を勝手に使うと問答無用で死刑なんだよ」

ハエは言葉を絞り出す。

「お前はBランクだろうがぁぁぁ?」

その言葉はシゼの耳に入らず、話を続ける。

「俺がお前をハエ呼ばわりする理由はな自分以外を特に女性を奴隷ぐらいにしか見てないからだ。だからまあ死んでくれ」

「ザケンナー!」

ナシトはロングソードを抜き、シゼに襲いかかる前にシゼの拳がナシトの顔面に突き刺さる!

ハエは気絶。

シゼは大悪魔と悪魔十体をマナボックスで回収。ナシトの髪を左手で摑み、金の指環からマナコインを出現させる。

「あんたらは自分の足で帰れるよな?」

Aランクのチームリーダーは頷くので精一杯。

「分かった、お疲れさん」

シゼとハエは転移。

その後、Aランクチーム内でシゼの話で持ち切りになった。


翌日

シナト・チューハは不様に醜さを晒しながら公開処刑され、それを嗤いながら見ていたのはただ一人、

シゼ・メア!


その翌日

シゼの館にはシゼとラピネの二人。

「ありがとうございます!」

女性ラピネはソファーに座っている男シゼに頭を下げた。

シゼはこめかみを右手の平で軽く押しながら訊く。

「俺に頭を下げても何も出ないぞ、だから楽にしろよ」

「いいえ、下げます。スラスさんに手厚くしてくれてありがとうございます!」

「俺はそれなりの責任を取っただけだ。それ以上はしてない。だからこれ以上は下げるな」

ラピネは頭を上げ、微笑む。

「それでもありがとうございます。スラスさんだけでは何も出来ませんでした」

「連都を出て行くにはそれなりの額が要るからな、それでも恨まれてる所か感謝されるのは意外だったよ」

女性ラピネは微笑みを崩さない。

「処刑されてようやく怖かった、いなくなって良かった、そう言っていました」

「救われるよ、例え嘘だったとしてもな」

男シゼは立ち上がる。

「エクナさんに会って来る」

「いってらっしゃい」

「怒ったりしないんだな?」

「エクナさんはもうライバルであり同志ですから」

シゼは苦笑。

「おっかねぇ話だな、行って来る」


取引所のマスター、エクナの執務室

「Dランクには出来そうですか?」

女性エクナは凛とした感じを崩さず一呼吸。

「最初から言いましたが無理でした。そもそもSSランクをDランクまで落とすなんて出来ません。どうしようも出来ない上で頼んだんですから諦めて下さい」

「またハエが発生したらどうすれば?」

「それですが情報操作のレベルを上げればいい、それがギルドの出した結論です」

男シゼはどこかにいるバカを見る目。

「その情報操作に制限をしてきたのがギルドなのに?」

「ギルドが間違っていました、申し訳ありませんでした」

シゼはこの発言をエクナにさせたどこかにいる卑怯者を探しに行きたくなる。

女性エクナはその気持ちに頷いてしまう。それでも言わなくてはいけない。

「やり過ぎないよう言われています」

「どうしろと?」

「私がチェック役もします」

男シゼは同情。

「大変なんですね取引所のマスターって言うのは」

「なら今度、デートして下さい」

「ラピネが黙ってませんよ?」

「三人ですれば問題ありません!」

「ライバルで同志なのは本当ですか?」

エクナは両手を合わせる。

「まずは私達に性的な眼を向けさせる所から始める、勝負はそれからです、シゼさん覚悟して下さい!」

シゼはまず情報操作の方から進め、出来ればしたくない三人デートは本当に女性二人の結束で実現。

女性二人は実に楽しそうにしていたのを見て、シゼは何故か癒されている自分に驚くのだった。



















































































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