夜のしじまに

にわ冬莉

第1話

 酔いどれていたのは、間違いない。

 いつもよりちょ~~~っとだけ、多めに飲んだような気もする。

 健康診断でメタボに引っかかって早十四年。揚げ物や塩分を控えなさい、なんて言われたって、旨いものってぇのは油と塩分で出来てんだから仕方ねぇだろってんだ、おっとっと。


 帰り道は静かで、人っ子一人、歩いちゃいない。

 田舎の一本道を、ひたすら歩く。

 いつもなら電話一本でかぁちゃんが迎えに来てくれるんだけどなぁ。

 今朝の喧嘩があと引いてるんだな、ありゃ。

 、よ。

 けっ!


 こうなりゃ意地だ! 自分一人で家まで帰りついてやる~!

 って歩き出したのはいいが、道のりが長いねぇ。

 さすがに途中でくたびれてきちまった。


 と思ったら、いいところにベンチがあるじゃねぇか!

 ここは…ああ、ナントカ言う小さな神社だが、ナントカ言う漫画だかアニメに出てきたってんで有名になったんだったな。

 ありゃ、何年前だったか?

 そん時にゃ、随分この辺りも賑わってたらしいが、それも今は昔、ってか!

 名残だけはあるんだな。こういうベンチだの、ああいうパネルだの。


 ……パネルか。


 可愛い女の子のパネル。

 随分すすけちまってはいるけど、あそこから顔出した写真をかぁちゃんに見せたら笑ってくれるかもしれねぇな。


 よし! いっちょやってみるとするか!

 あそこに顔出すんだから、アングル的にはこの辺りか?

 携帯、ちゃんと立つか? お、立った立った!

 タイマー、セット!

 そうして俺は反対側へ…、ってな。よし。

 この穴から顔出して…、あれ、小せぇな。

 ふんっ、ぐぐぐ、どぁぁぁ! 入った!


 カシャカシャカシャシャシャシャ


 あらら、連写になっちまってた。

 まぁいいや、一番写りのいいやつをみせっ、れっ、ばっ、


 おい!!


 ふんぐーっ

 ぬぅぅぅ!

 ぐぎぃぃいいいててて



 ……参ったぞ。


 ふんっ!

 ぬがぁぁぁぁ!

 はぁっ、はぁっ、



*****




 ズズズ…

 ズザザザ…

 ズザッ


「ただいまぁ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜のしじまに にわ冬莉 @niwa-touri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説