あなたを守りたいんですよ

陽澄すずめ

あなたを守りたいんですよ

 最悪だった。

 アポなしで彼氏の家に行ったら、知らない女と真っ最中で。

 びっくりして飛び出して、だけどまっすぐ帰る気にもなれなくて、適当にぶらぶらしてる。


 堤防沿いの道。

 満月の映る、底の見えない川。

 こんな夜更けには、間違って足を踏み外しちゃってもいいかもしれない。


 その時だった。


「こんばんは、お姉さん」


 突然、若い男が行く手を遮ってきた。


「一人でお散歩ですか? 奇遇だなぁ、俺もです」

「え、何ですか急に」

「俺も一人で寂しかったんですよ。ご一緒しません?」

「いや遠慮します。もう帰るんで」

「つれないなぁ。深夜に女性の一人歩きって危ないですよ。家、この近くですよね。送らせてください」

「はぁっ?」


 ぞくっとした。なぜ家を知ってるの。まさかストーカー?

 私と同い年くらいのチャラそうな男。見覚えは全然ない。


「俺、あなたを守りたいんですよ。ね、家の前まででいいんで」

「やめてください、警察呼びますよっ」

「いいから早く別の場所に行きましょ」

「いやっ!」


 掴まれた腕を振り払って駆け出した。

 怖い。怖い。知らない男に家を知られてたなんて。

 追いかけてくる気配はない。ちらっと振り返ると、男の姿はどこにもない。


 視界に入った満月に、さっと何かの影が横切った。

 きゅるきゅる響く謎の音。

 次の瞬間、どん!と大きな音が耳をつんざいて——


 ◇


 間に合った。

 俺は路地の陰に身を隠して、走り去ってく彼女を見送った。


 小さな隕石は、ついさっきまで彼女のいた場所に墜落していた。命中してたら死んでたところだ。


 このあと彼女は交番に駆け込んでストーカーの相談をする。

 そして近所を見回りしてくれる親切な若手警官と恋に落ち。


「で、俺が生まれるってわけ」


 これでどうにか元通りだ。

 俺は満月の力で動く超小型時空移動装置を起動した。

 表示は、俺の元いた2048年。


「若い頃の母ちゃん、結構可愛かったな」


 こうして俺は未来へ帰った。



—了—

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